電気自動車が普及するには、どれぐらいの性能が必要なの?(前編) | EnergyShift編集部

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電気自動車が普及するには、どれぐらいの性能が必要なの?(前編)

電気自動車が普及するには、どれぐらいの性能が必要なの?(前編)

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温室効果ガス削減と再エネの電力利用にあたって、電気自動車の普及拡大が求められている。そのために価格だけではなく、航続距離や充電インフラなどの「性能」が課題だと言われているが、そうした認識は正しいのだろうか。電気自動車の普及にあたって、本当に必要なことは何か、産業技術総合研究所 安全科学研究部門主任研究員 櫻井啓一郎氏が解説する。

BEV普及のネックは、実は「航続距離」じゃない?

電気自動車(BEVもしくは単にEV)*1というと、どんなイメージを持たれるだろうか。まず、値段が高い!おまけに航続距離が短いし充電も遅い。確かに静かでクリーン*で加速も良いかもしれないが、遠出もままならないのでは…。そんな印象を持たれている方も、多いのではないだろうか。

確かに、10年前にリーフが発売された時はそうだった。実航続距離は百数十キロ、「急速充電」しても8割充電するのに30分かかり、おまけにバッテリーの劣化も早かった。

リーフのバッテリーの劣化はその後、それなりに改善され、搭載バッテリーの量を24 → 30 → 40 → 62kWhと増やすことで実航続距離も400km近くなった。ところが、40kWh版まではある程度売れ行きが伸びたのだが、62kWh版では全く伸びなかった(図1)。

一方で、より価格の高いはずのテスラのモデル3は売れ行きを伸ばし、あっという間に累計販売台数でもリーフを抜き去り、各国で自動車販売ランキングの常連になった。

テスラ・モデル3のバッテリー容量は50~75kWhで、リーフとそんなに大きく違わないにも関わらず、リーフの何倍ものペースで売れ続けている。これは「航続距離」がもはや普及の主要な阻害要因ではないことを示唆している。

図1 リーフとモデル3の販売台数の比較。

リーフはバッテリー容量を上げても販売台数が頭打ちになり、モデル3に抜かれた。

ここで勘違いしないで頂きたいのだが、「航続距離への不安」は今でも確かに、BEVの購入をためらう理由の筆頭格だ。ところが、2019年時点*の調査ではひとたびBEVを持つと、「充電をもっと早く」という要望が強くなる*[4]。実際に購入するとバッテリーの大きさよりも、もっと素早く充電できて欲しい、というニーズが強くなるようなのだ。 一体どういうことなのか。自宅や職場での充電(基礎充電)と、長距離移動中の充電(経路充電)に分けて解説する。

  • * EVにはプラグインハイブリッド(PHV)を含む場合もあるが、ここでは純粋な電気自動車(Battery Electric Vehicle, BEV)を主に扱う。
  • * 現在の日本の電力の排出原単位でも[1]、また世界の95%の地域で[2]、BEVは一般に排出量削減になる。ならないとする主張は軒並み、古いデータや再エネ利用の非考慮等、現実にそぐわない仮定を用いている[3]
  • * 2019年時点ではテスラ以外の殆どのEVの最大充電電力は100kW未満で、テスラとそれ以外で2極化していた。テスラ車では「航続距離」に関する不満が極端に少ない[5]

「駐車のついでの充電」で足りるかが鍵となる

近距離の通勤や買物で利用する場合、基礎充電が便利だ。自宅ならば帰宅して充電ケーブルを差しておけば、バッテリーの残量から逆算して夜中に自動的に充電を始め、朝の指定時間には自動的に満タンになっている。ガソリンスタンドに行かないので、むしろ時間の節約になる。ケーブル脱着の手間すら惜しければ、無線式の充電器も存在する(最近、標準規格も策定された。シェアリングや自動運転サービス等とも相性が良い)。

給油のように急速充電スタンドを使うことも可能ではあるが、使い勝手が悪くなり、利用も特定の時間帯に集中しやすい。このため、日常の充電は基礎充電が主体となる(後編で述べる)。

一方で、長距離を移動する場合、経路充電の速さ(充電電力)が使い勝手に大きく影響する。

たとえば60kWhのバッテリーを積んだBEVで、400km先の目的地まで、日帰りで往復するケースを考えてみよう(図2)。時速100kmで走り、電費は6km/kWh、目的地での充電は無しとする。往復で133kWh消費するので、満タンで出発して空っぽで帰宅するとしても、途中で73kWh以上をどこかで充電する想定だ。

図2.日帰りで遠出する場合の充電速度の影響例。

自宅で基礎充電できることが前提。宿泊無しで充電機会が少ない、厳しめの条件設定。

充電中は給油と異なり、車を離れられる。駐車場で充電器と繋いで開始操作をすれば(テスラでは操作も無しで)食事や買い物に出かけられる。ガソリン車ならば用事を済ませた後、ガソリンスタンドまで移動して給油して支払いもしなければならないが、この手間が無くなる。エアコンもタバコも、ガマンせずに済む。

高速道路を300km以上移動する場合の休憩時間の調査結果(図3)を見てみると、片道400kmを移動する間に5~6割程度の小型車ドライバーが30分以上休憩することが分かる。この休憩中に充電できる電力量だけで旅を完了できるかどうかを、充電速度(充電電力)が左右する。

図3 高速道路における小型車の総走行距離と総休憩時間の関係。

300km以上の走行距離では5~6割が30分以上休憩することが読み取れる。

データ出典:平井他、ETC2.0プローブデータを活用した都市間高速道路における休憩行動分析、第36回交通工学研究発表会論文集、2016年

現在の日本の高速道路に設置されている充電器の最大充電電力は大抵、50kW以下(一部で90kW)だ。リーフも、最大50~70kW程度までの対応だ。最大50kWでしか充電できない場合、走行時間の合計8時間に対し、充電に88分以上かかる。片道あたり44分以上だ。図3より、この充電速度ではだいたい半分以上の小型車ドライバーが休憩時間を充電だけのために延ばすことになると推測できる。

これが平均100kWで充電できると、合計の充電時間は44分となり、平均的な小型車ドライバーならば休憩時間中の充電だけで間に合うようになる。ガソリンスタンドに寄らない分、給油する場合よりも手間と時間を節約できる。

さらにテスラ・モデル3の上位グレードのように250kWもの電力で充電できると、充電器の無い駐車場を選べる機会が増える。またこの想定よりさらに長距離の移動でも、200km(2時間)毎に10分程度休憩しながら充電するだけで、どこまでも旅を続けることができるようになる。

上記のような例ではバッテリーの容量が増えれば道中必要な充電電力量も減るので、「航続距離」も確かに使い勝手に影響する。だが、それよりも充電速度の方が、長距離移動時の使い勝手への影響が大きい。

ここまでの要点をまとめる。

  • BEVの普及を加速する上で最も重要なのは、もはや「航続距離」ではなさそうである。より重要なのは、車両側と充電インフラ側の両方で、より速い充電に対応することである。
  • 充電中は車を離れられるので、充電時間と比べるべきは給油時間でなく、休憩時間である。
  • 日常の近距離での利用については基礎充電が可能であれば、スタンドに行く手間が省ける分、BEVは燃料で動く自動車よりも便利になる。
  • 長距離移動時についても、ある水準以上の速さで経路充電できるようになると、BEVはエネルギー補充で拘束される時間が内燃機関車よりもむしろ少なく済むようになる。

つまり現時点では不便でも、充電環境次第でBEVの方がガソリン車よりも便利になる

  • * SAE J2954とSAE J2847/6が10月にリリースされた。出力は3.7~11kW、空隙は最大250mm、バッテリーまでの電力伝送効率は最大94%である。
  • * 大抵のEVは、充電中もエアコンが使える。
  • * 実際はバッテリーの温度や残量によって最大充電電力よりも少ない電力での充電になることも多い。特にリーフのようにバッテリーの能動的な冷却・加熱機構を搭載していない場合、充電速度が落ちやすい。
  • * 計算上は70kWぐらいの充電速度を境に平均的な休憩中の充電で足りるようになるが、実際は最大充電電力が出ないことも多いので、100~150kWぐらいの最大充電電力が目安になると思われる。先頃発売されて販売が好調なフォルクスワーゲンID.3や、来年発売予定の日産アリア等もこのぐらいの最大充電電力が設定されている。

EVは、FCV/PHVと棲み分けつつも、今後の主流に

BEVにも不得手があり、例えば自動運転等で超長距離を殆ど休憩無しで走り抜くような用途には、燃料電池自動車(FCV)の方が有利かも知れない。航空・船舶、熱利用や工業プロセスのような水素の他の用途とのシナジー等、FCVならではの長所もある。このため主要な予測でも、FCVも一定のシェアの確保が見込まれる。また経路充電インフラが弱いうちは、基礎充電さえ可能であればプラグインハイブリッド車(PHV)の方がBEVよりも便利になりやすい。

車両が安価になって、基礎および経路充電インフラの両方が整うと、コストと利便性の両面でBEVが選好されると思われ、主要な予測でもBEVが主流になると見られている。BEVが世界の新車販売に占めるシェアは2030年までに1割を超え、2040年には例えば3~4割に達すると見られている(図4)。

そのうえで気候変動を抑える観点から、2025~2040年頃までに化石燃料車の販売を禁止する政策を打ち出す国や地域も増えている。バッテリーの価格低減も近年、過去の予測を上回るペースで進んでいる。実際、助成によってエンジン車と同程度の価格で購入できるノルウェーでは、既に新車の半分以上がBEVになっている。
安くなって充電インフラが整えば、運転しやすくて自宅で充電でき、冬期もすぐ暖房が効いて快適なBEVが売れることは、実証済みと言える。図4のIRENAのシナリオ(赤点線)ほどでなくとも、現時点での予測よりさらに普及が早まる可能性も考慮しておくのが、無難ではないだろうか。

図4 BEVの主な普及予測およびシナリオの例。(*)がついているものはシナリオ。

次回の後編では、充電インフラの整備方針や、バッテリーの性能向上で見込まれる効果について解説する。

参照文献
[1] M. Miotti et al., Environ. Sci. Technol. vol. 50, issue 20, pp. 10795–10804, 2016. http://carboncounter.comにて可視化されている。
[2] F. Knobloch et al., Nature Sustainability vol 3, pp. 437–447, 2020.
[3] AVERE, Debunking Myths About Electromobility, https://www.avere.org/our-communication-and-myth-debunking/
[4] PwC Strategy&, Consumer Research into Rapid Charging, 2019.
[5] CleanTechnica, Why People Buy Electric Vehicles In The Netherlands, Norway, Germany, & France, 2020, https://cleantechnica.com/2020/04/16/why-people-buy-electric-vehicles-in-the-netherlands-norway-germany-france/

櫻井 啓一郎
櫻井 啓一郎

1971年生まれ。京都大学大学院工学研究科博士課程修了、工学博士。 独ハーンマイトナー研究所客員研究員、米国国立再生可能エネルギー研究所客員研究員等を経て、現在、産業技術総合研究所安全科学部門主任研究員。 著書に「トコトンやさしい太陽電池の本第2版」「太陽と風のエネルギー」等。

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