電気自動車が普及するには、どれぐらいの性能が必要なの?(後編) | EnergyShift編集部

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電気自動車が普及するには、どれぐらいの性能が必要なの?(後編)

電気自動車が普及するには、どれぐらいの性能が必要なの?(後編)

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前編では、電気自動車の普及の主な課題は今や航続距離を延ばすことよりも、充電環境の整備であることを解説した。続く後編では充電インフラの整備方針やバッテリー性能向上の効果について、引き続き、産業技術総合研究所 安全科学研究部門主任研究員 櫻井啓一郎氏が解説する。

充電インフラは自宅や職場が主役

前編にて、充電インフラさえあれば電気自動車(BEV:燃料を一切搭載しない、バッテリー式電気自動車)が最も便利になることを紹介した。

では、その充電インフラをどのように整備すると、便利で社会の役にも立つのか。自宅や職場、集合住宅、集客施設、幹線道路沿い等の場所毎に分けて解説していく。

自宅や職場での充電(基礎充電)は、戸建てならば200V 15A(3kW)の専用コンセントが一般的だ(図1)。3kWならたとえば10時間で180km走行分ぐらいの電力を充電できる。大抵はこれで足りると思われるが、2倍の6kWで充電出来る機器もある。基礎充電ならば電力系統から安価な蓄電資源*として利用しやすくなるため、国全体の電力需給の調整上も都合が良い。

たとえば職場に普通充電器、自宅にVehicle-to-Home(V2H)システムを設置すると、太陽光発電の電力が安い昼間に職場で充電 → 帰宅後の電力料金が高い時間に放電、という使い方が可能になり、国全体の電力需給の調整にも貢献できる。

このような使い方では充放電回数が増えるのでバッテリーの耐久性(サイクル寿命)が重要だが、テスラ車等では25万km走行しても初期の9割以上のバッテリー容量を保てるようになっており[1]、またCATLからは160万km(100万マイル)使えるバッテリーも発表されている。

図1 EV用200Vコンセントと戸建て住宅における利用イメージ

集合住宅の場合、現在の日本では駐車場に充電設備が無い場合が多い。駐車場に普通充電器を併置するのが便利だが、費用の分担や、管理組合の同意等がネックになりやすい。 だが、今後BEVやプラグインハイブリッド車(PHV)の普及が進めば、遅かれ早かれ必要になる(特にPHVは充電速度が遅いため、基礎充電の有無がBEVよりも重要になる*)。機械式駐車場でも、充電器付きの製品は既にある(図2)。自治体によっては支援制度を設けている例もある。

図2 充電器付きの機械式駐車場(左)と、パレット上の専用コンセント(右)

集合住宅への導入支援ビジネスも行われている。(写真提供:ユアスタンド(株))

このほか、寒冷地では凍結防止のブロックヒーター用のコンセントが利用できるかも知れない。また一日当たりの走行距離が短い場合、ゆっくりだが(たとえば10時間で90km走行分程度)100Vのコンセントからでも充電できる*3

過疎地等での利用も、BEVの方がインフラ維持費用の点で有利と思われる。ガソリンの給油にはガソリンと電力の両方が必要だが、BEVは電力さえあれば充電でき、設備もより安上がりで、運用の手間も少ない。住宅用太陽光発電設備の自立運転モードでも充電でき、対応機器があれば住宅や避難所に一台で何kWもの電力を供給してエアコンや洗濯機を同時に動かせる等、「自走できる巨大モバイルバッテリー」として非常時の備えにもなる。国としても、災害時対策に組み込む方針である[2]

  • *1 電力系統側から見て、余力を集めるコストだけで利用できる蓄電資源となる。
  • *2 PHVは搭載するバッテリーが少ないため、急速充電器を使っても時間当たりの充電電力量が限られる。このため基礎充電できなければ、走行用電力の充電機会が限られやすい。
  • *3 BEV対応で無いコンセントを利用する場合、定格容量や耐久性に注意が必要である。また万一に備え、アースも必ず取るべきである。

基礎充電を補完する急速充電

基礎充電が出来ない場合は、急速充電器を使うことになる。
平均的なガソリンスタンド滞在並の時間(10分前後)*4で200~300km以上を走行する分の充電が出来るような超急速充電器(250~400kW)の製品もあるが、相応に送電線や受電設備への投資も必要になる。住宅地付近では需要に応じてたとえば数十~150kW程度の充電器が設置されることになるだろう。

ただし、急速充電は利用が特定の時間帯に集中しやすい*5ため、急速充電を地域や国全体で主要な充電手段にするのは一般に電力需給上、好ましくない。使い勝手の面からも、基礎充電が選好されるだろう。このため電力需給と使い勝手の両面から、充電インフラは極力、基礎充電を主体にすべきだと言える。

一方で基礎充電が普及した状態でも、充電を忘れた、或いは普段よりも長距離を走る場合等のため、住宅地や市街地での急速充電にも一定の需要があるだろう。特に小型で航続距離が短めのEVなどで、利用機会が多くなる可能性が考えられる。

コンビニ、ショッピングセンターやホテル等の駐車場に充電器が併設されていれば、買い物や宿泊中に充電できる。施設側からすれば、来訪客を惹き付ける要素になる。
こういう場所では滞在時間に応じて、たとえば3~150kW程度の出力の充電器を設置することになるだろう(図3)。ただし電力は単価が安い上にBEV/PHVの普及率もまだ低いため、純粋に充電器での電力販売だけで投資回収するのは、現時点では難しい場合が多い。充電器の単価が下がり、販売電力量も増加するまでは、継続的な支援が必要だろう。

図3 中国のホテルの充電器付き駐車場の例

地面の青緑色の箱にケーブルが収納されており、引き出して使う。西安にて。

長距離移動中の充電(経路充電)については、幹線道路沿いのパーキングエリア(PA)・サービスエリア(SA)・道の駅等に、前編で解説した通り、100~150kW以上の超急速充電器が必要となる。実際、米・欧・中・豪・加等、各国で150~400kW級の超急速充電器網の整備が進められている。

日本ではテスラを除くと最大90kW程度までの充電器しか整備されておらず、多くのBEVドライバーにとって不便な状況である。今後対応する車種が増えるに従い、超急速充電器の整備も求められるだろう。

利用客の多いSA等ではこうした超急速充電器や中速充電器を多数設置することになり(図4)、送電線や受電設備も増強する必要が出てくる。特別高圧受電になるケースも多いと思われるが、(本記事では論じていないが)大型車の将来の脱炭素化も含め、今後の交通インフラの要として国が戦略的に整備していく必要性があるのではないだろうか。

一方で、受電設備や購入電力のコストを抑えるために、大容量のバッテリーを装備し、利用の少ない時間帯に蓄電して混雑時に使用するタイプの充電器製品の利用も考えられる。災害対応の観点から、このようなバッテリー装備の充電器を停電時の緊急車両等への給電に利用したり、太陽光発電設備と組み合わせたりするのが有効なケースもあるだろう。

図4 駐車場併設の急速充電器の例

BEVの普及が進むと、大きなSA等では充電器が数十台並ぶことになるだろう。(写真提供:EVsmartブログ)
  • *4 Googleでのガソリンスタンド検索結果による平均滞在時間。
  • *5 充電器に蓄電池を装備することで、電力需要の集中を緩和することは可能である。

軽自動車まで置換するには、バッテリーの充電レートが鍵になる

前編で、充電速度がBEVの利便性を左右することを述べた。この充電速度は、バッテリーの容量と、充電レート*6で決まる。バッテリーの容量が大きければ、もしくは充電レートが高ければ、それだけたくさんの電力を短時間に受け入れられる。
たとえばテスラ・モデル3で250kWの充電電力に対応しているものは、75kWhもの大きなバッテリーを積み、500km以上もの航続距離を持つ。車体も大柄だ。日産・リーフも意外と大きく、3ナンバーサイズである*7

一方で軽自動車のような小型で近距離ユース中心の車では、そこまでたくさんのバッテリーを積むのは難しくなるし、そもそも航続距離もそんなに要らないケースも増える。たとえば30kWh、実航続距離180km程度のバッテリーで済ませて、価格も下げたいところだ。
しかし、現在販売されているBEVの多くが、2C以下の充電レートで充電する。30kWhのバッテリーならば、充電電力は60kW以下に制限される。テスラ車は最大3.3Cに対応しているが、それでも100kW以下での充電になる計算だ。

ここでバッテリーがたとえば4~5Cの充電レートに対応すると、30kWh搭載のBEVでも120~150kWで充電可能になり、経路充電が便利になる。ここに技術向上による市場開拓の余地がある。

先日テスラが発表した新型バッテリー(4680型)のような既存技術の改良が先になるか、それとも各社が開発にしのぎを削っている全固体バッテリーが先になるかは分からないが、順調ならばあと数年程度で実現するかも知れない。

小型で普段の通勤や買い物にちょうど良い航続距離を備え、わざわざガソリンスタンドに行く手間も無い。たまの遠出でも少し小まめに休憩すれば、大きな不便無く移動出来る。静かで走りがスムーズ、加速も良い。冬場はすぐに暖房が入って快適。クリーンで、走行・メンテナンスコストも少ない。非常時の備えにもなる。そんな軽自動車クラスのBEVが安価に入手できるようになる頃には、日本でもEVの普及が本格化するのではないだろうか。

筆者はバッテリーが24kWhしかない中古のリーフに5年乗っているが、これで充電さえ速ければ遠出も大抵は問題無くなるだろうし、そもそもエンジン車に戻りたくない、というのが率直な感想である。

読者諸賢、ゆめゆめEVを侮るなかれ。

  • *6 バッテリーの容量あたりの充電速度のこと。バッテリーの全容量を1時間で充電する速度を1C、その2倍を2C…と表現する。Cレートとも言う。
  • *7 車内が広いのは良いが、筆者はたまに車庫入れでぶつける。

参照文献

櫻井 啓一郎
櫻井 啓一郎

1971年生まれ。京都大学大学院工学研究科博士課程修了、工学博士。 独ハーンマイトナー研究所客員研究員、米国国立再生可能エネルギー研究所客員研究員等を経て、現在、産業技術総合研究所安全科学部門主任研究員。 著書に「トコトンやさしい太陽電池の本第2版」「太陽と風のエネルギー」等。

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