非FIT非化石証書とエネルギー高度化法 環境価値とRE100 その5 | EnergyShift

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非FIT非化石証書とエネルギー高度化法 環境価値とRE100 その5

非FIT非化石証書とエネルギー高度化法 環境価値とRE100 その5

FIT非化石証書に続いて、今年から非FIT非化石証書の認証と取引が始まる。非化石証書のそもそもの目的は、エネルギー高度化法への対応であることを考えると、この非FIT非化石証書こそがメインの証書である、と見ることもできる。シリーズ「環境価値とRE100」の最終回は、この非FIT非化石証書について解説する。

非FIT電源と非化石証書の本来の役割

前回、トラッキング付きFIT非化石証書を取り上げた。その背景には、通常のFIT非化石証書の場合、どの電源からの電気なのかを明確に示すことができず、RE100に参加している企業に対する電力供給用としては使いにくかったという面がある。 とはいえ、そもそも非化石証書はエネルギー供給構造高度化法(エネ高度化法)における、小売電気事業者の非化石電気の調達目標の達成を目的としたしくみである。中間目標は2020年度から設定されることとなっており、その意味では、先行したFIT非化石証書のオークションは、環境価値の取引としての試行という面もあったし、非化石証書の使い道としてもボランタリーなレベルでの、カーボンゼロの電力供給ということしかなかった。そうした前提があって、RE100対応として、トラッキングが必要とされたということになる。

その点、非FIT非化石証書の開始は、エネ高度化法の実施のタイミングに合わせたという意味で、非化石証書の本来の役割をより意識させる。

では、非FIT非化石証書はどういうものか。
まず電源だが、FITとして設備認定されていないゼロエミッションの電源ということになる。そこに含まれるのは、主に大規模水力発電、大規模地熱発電や卒FITの住宅用太陽光発電など、FITの設備認定を受けていない再生可能エネルギー電源、そして原子力発電である。特に、大規模水力発電と原子力発電がボリュームゾーンとなる。

大規模水力と原子力を所有しているのは旧一般電気事業者(旧一電)だ。したがって、非FIT非化石証書の主な売り手である旧一電に有利な制度ではないか、という指摘もなされている。そのため、再エネ割合の低い新規参入者のためにエネ高度化法の中間目標は割引されることになっている。

いずれにせよ、非FIT非化石証書が加わることで、電源のゼロエミッションの価値は電気とは切り離され、小売電気事業者のCO2排出係数の削減に使われることになる。

エネ高度化法の目標

非FIT非化石証書の具体的な説明に入る前に、エネ高度化法の目標について説明しておく。

エネ高度化法は2009年に制定された、エネルギーの安定供給と環境負荷の低減を目的とした法律だ。その後、前回示したように、2016年に改正され、2030年度のエネルギー基本計画の目標に対応し、小売電気事業者のゼロエミッション電力の割合を44%にするという目標が義務付けられた。

とはいえ、2030年度の目標に向けて、少しずつゼロエミッション電力の割合を増やしていくことが必要だ。そのため、2020年度から中間目標が設定され、小売電気事業者は目標達成のために、非化石証書を伴うゼロエミッション電源を確保するか、あるいは非化石証書を購入することになる。

その中間目標を詳しく見ていくと次のようになる。

この中間目標は、昨年2019年12月6日に開催された、経済産業省の電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会で案が示され、同じく12月24日の制度検討作業部会で了承されている。

以下、中間目標設定にあたってのロジックを、なるべく簡単にまとめておく。実は、このロジックが、非化石証書における環境価値の「追加性」を担保するものとなるからだ。すなわち、小売電気事業者がエネ高度化法の目標以上に非化石証書を買うことが、再エネの増加につながっているということが示されれば、追加性があるということになる。

・中間目標の設定にあたって、前提となる、当該年度における非化石電源の比率を供給計画より算出する。これは2020年度26.1%となっている(図1)。

高度化法の中間評価の基準となる目標値の設定について 2019年12月6日 資源エネルギー庁 第36回電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会資料より

・次に、元々非化石電源が少ない小売電気事業者に対しての特例措置として、2018年度の実績に応じて、目標値を割り引く(グランドファザリング=GF)。しかし、割り引いたままでは、非化石証書が余るため、割り引いた分をあらためて全体に均等に分ける。これが、5.7%分の上乗せとなる。26.1+5.7=31.8%ということだ。

・非化石証書がすべて販売できるとは限らない。そこで、2年前の2018年度の非化石証書の売れ残り分を参考に、「激変緩和量」を算出し、その分を引き下げる。-8.6%が激変緩和量なので、31.8-8.6=23.2%が、2020年度の非化石電源の目標量となる。

・ただし、前述のように2018年度の実績に応じて割り引かれる小売電気事業者もある。割引される量は個別に通知されることになる。

・小売電気事業者は不足する非化石電源の分を非化石証書の購入でまかなうが、各事業者とも最大約9%分となる(図2)。

高度化法の中間評価の基準となる目標値の設定について 2019年12月26日 資源エネルギー庁 第22回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会資料より

2021年度以降も同様の考えを取り入れ、2030年度の44%まで毎年引き上げていくことになる。

非FIT非化石証書の認定のプロセス

非FIT非化石証書の認定のプロセスは、次のようになる。

最初に事業者登録を行い、次いで非化石電源登録、発電量申請・認証というプロセスを経て、認証された電力量がJEPX口座管理システムに入る。ここまでは、現在は日本ユニシスが運営・管理するポータルサイトで行われる。その後、非FIT非化石証書はJEPXでのオークション、ないしは相対で取引される。

事業者登録は、非化石電源を擁する事業者が対象となる。発電事業者や卒FIT電気を買電している小売電気事業者などが対象となる。

事業者登録後に、非化石電源登録を行う。ただし、卒FIT電源とRPS電源については国がデータを持っているので、設備IDがあればいい。

次に、電力量の認定だが、卒FIT電源については4月から始まっている。2ヶ月前の発電実績を毎月申請することになる。一方、卒FIT電源以外については、2020年4月以降の発電量が対象となるので、発電実績の申請は6月以降となる(図3)。

非FIT非化石電源に係る認定 についての事業者説明資料 2020年5月29日 非FIT非化石電源認定ポータルサイトより

電気と環境価値に分けられる非化石電源

非FIT非化石証書の制度がスタートすることで、非化石電源の価値が大きく変化する。これまでは、「ゼロエミッションの電気」を発電する設備だったものが、これからは「電気」と「環境価値」の2つをつくる設備へと変わることになる。
図4は、非化石電源における電気と非化石証書の取引を示したものだ。

非化石価値取引市場について 2020年1月31日 資源エネルギー庁 第38回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会資料より

これまで、ゼロエミッションの電気を相対で供給していた発電事業者は、電気と非化石証書を相対で供給することになる。

JEPXに卸していた発電事業者は、電気だけではなく非化石証書を卸すことができるし、非化石証書だけを相対で売ることもできる。例えば、これまで火力発電の電気と水力発電の電気はJEPXでは同じ電気として扱われてきた。今後は同じ電気として扱った上で、水力発電は非化石証書も供給するということだ。

ところで、非化石証書は電気をゼロエミッションにするものだが、当然ながら元の電気のCO2排出係数に応じて、必要な非化石証書の量は変わってくる。非化石証書1kWあたりでゼロエミッションにできるCO2排出係数は、全電源平均となる。例えば、石炭火力発電からの電気の割合が多く、CO2排出係数が大きい場合は、1kWの電気に対し、1kW以上の非化石証書がなければゼロエミッションにできない。

非FIT非化石証書ができたことによって、他の環境価値のしくみは影響を受けるだろうか。
おそらく、グリーン電力証書の役割はなくなっていくと考えられる。自家消費の電気の環境価値を証書化できることと、イベントなどで利用できるということが特長だが、J-クレジットも自家消費の電気に対応可能だし、イベントにも利用できる。逆にJ-クレジット化できない自家消費であれば追加性がないということになる。
また、グリーン電力証書は割高だという問題もある。あとは、グリーン電力証書の利用を示すマークが使えることくらいしかメリットは残らない。グリーン電力証書には電源を特定できるという利点もあるが、これもいくつかの電力会社がブロックチェーンなどを活用したマッチングシステムの導入を進めており、これにとって代わられるだろう。さらに、いずれはコーポレートPPAにとって代わられるのではないだろうか。

一方、非化石証書は、小売電気事業者以外は買うことができないという制約があるが、電気とセットとすることで、ゼロエミッション電気、あるいは実質再エネ電気として小売りできるので、大きな問題とはならないだろう。

非FIT非化石証書とRE100

では、非FIT非化石証書は、RE100に参加した企業などにとって、再エネ調達やCO2排出削減の目標達成に使えるのだろうか。

まず再エネだが、これは下の図5に示すように整理されている。非FIT再エネ電源にFIT非化石証書ないしは再エネ指定の非FIT非化石証書を組み合わせた場合のみ、「再エネ」と表記可能であり、それ以外の電源とFIT非化石証書ないしは再エネ指定非FIT非化石証書の組み合わせでは「実質再エネ」という表記になる。原子力も含めた非FIT非化石証書では、こうした表記はできない。

非化石価値取引市場について 2020年1月31日 資源エネルギー庁 第38回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会資料より

一方、ゼロエミッションということについては、下のように整理されている。

非化石価値取引市場について 2020年1月31日 資源エネルギー庁 第38回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会資料より

化石燃料を使った電源やFIT電源と非化石証書を組み合わせた場合は「実質ゼロエミ」だが、非FIT非化石電源と組み合わせることで「ゼロエミ」と表記できるということだ。 しかし、こうした整理はあくまで経済産業省側の見解であって、民間の立場からは異なる見方がある。

RE100を目指す側からは、「社会に対して追加的に再エネを増やす」ということが必要条件とされている。その意味で、PPAによる再エネ供給がわかりやすい。一方、非化石証書の利用にあたっては、電源が特定できることを条件としたため、トラッキング付き非化石証書のニーズが生じた。しかし、非FIT非化石証書については、トラッキングは予定していないという。

では、非FIT非化石証書では企業のニーズは満たせないのか
おそらく、そうではない。

非化石証書は元はといえば、エネ高度化法の目標達成の手段である。もし、それ以外の目的、すなわち実質再エネ100%電気のために非化石証書が利用されれば、その分、非化石証書が余分に必要となる。すなわち、非化石証書を使った実質再エネ100%電気には追加性があるということだ。加えて、電源についても、可能な限り、FITを含めた再エネ電源にすることで、電源構成の面からも再エネ100%に近づけることができる。あとは、こうしたロジックを通じて、小売電気事業者がいかに再エネを必要とする需要家を納得させるかということだろう。ただし、実質再エネ100%電気は、PPAに対する次善の策であるということは変わらないだろう。

ゼロエミッションについていえば、非化石証書を利用することで、電気からのCO2排出をゼロにすることができるので、環境報告書などでの表記が可能となるだろう。

2030年目標と原子力

最後に、2030年の非化石電源の目標と原子力発電について、触れておく。

まず、2030年の非化石電源の目標だが、44%のうちわけは、22~24%が再エネ、20~22%が原子力という構成になっている。その根拠となっているのが、エネルギー基本計画だ。しかし、これは今後、見直される可能性が高いと見ている。というのも、パリ協定における温室効果ガスの排出削減目標は、より野心的なものにしていくべきだという国際社会の要請が強く、日本も現在の目標、少なくとも2025年以降の目標は修正せざるを得ないのではないか、というのが筆者の見方だ。

一方、原子力発電だが、2030年の時点で再稼働しているのは、10基程度ではないだろうか。さらに何基か上積みしたところで、20~22%というのは不可能だ。

このように考えると、エネ高度化法の目標は今後、上方修正されていくだろう。一方、太陽光発電などは今後、FITから外れ、FIPに移行していく。FIPによる再エネの環境価値は、おそらく非FIT非化石証書として流通していくことになる。現在、非FIT非化石証書のかなりの部分が水力と原子力だが、ここにFIP電源の割合が増加していくことになる。

こうした中、懸念されることの1つが、仮に非化石電源の目標を上方修正したとして、それをPPAや企業の自主的な実質再エネ100%電気の購入でまかない、エネ高度化法の目標を変えないということだ。このことの何が問題かといえば、企業の努力である追加性の確保が、政府の目標に吸収されてしまうということだ。追加性は、政府の目標に対するものであるべきだ。その結果、RE100などに取り組む企業の努力は、少なくとも非化石証書に相当する分は追加性があると見なされなくなる可能性がある。

政府には政府の、国別の温室効果ガス削減目標がある。企業の取り組みはその目標に対する追加的なものであってはじめて、評価されるものだといえる。逆に、追加性がないものであれば、環境価値として評価されないものになってしまう。

全5回のまとめとして、そうした点について、強調しておきたい。

(Text:本橋 恵一)

環境価値とRE100

参照

もとさん(本橋恵一)
もとさん(本橋恵一)

環境エネルギージャーナリスト エネルギー専門誌「エネルギーフォーラム」記者として、電力自由化、原子力、気候変動、再生可能エネルギー、エネルギー政策などを取材。 その後フリーランスとして活動した後、現在はEnergy Shift編集マネージャー。 著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」(秀和システム)など https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798064949.html

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