では、「これからの主役です」と言われた地方自治体における温暖化対策の力量はどのようだろうか。表1は、昨年10月に環境省が調べた「地方公共団体実行計画」の策定状況である。これを見ると、
表1.地方公共団体実行計画策定状況(2020年10月時点調査)
出所:環境省 地方公共団体における地球温暖化対策の推進に関する法律施行状況調査結果(令和2年10月1日現在)
では、事務事業編が未策定もしくは未改定になっている理由は何だろうか。課題とされているのは、「人員不足」「専門知識不足」「措置実施に係る予算不足」という「3大不足」である。この課題は区域施策編が未策定もしくは未改定になっている自治体にも共通しており、とりわけ人口10万人未満の小規模自治体に該当が多い。
たしかに、1人の職員が「多能工的に」職務をこなさねばならない小規模自治体において、要員が足りず計画策定業務に手が回らない状況にあることは容易に想像がつく。ちなみに、現在の法律に基づき自治体(市町村)に策定が求められている計画は200以上あるということなので、小規模自治体で手が回っていないのは温暖化対策計画だけではないだろう。
このような現状において、今般の温対法改正により小規模自治体ですら、政令市・中核市等と同等の行政能力が求められているわけだが、支援の手が何も及ばないようでは「無理筋」の要求になる。ゆえに、これを解決すべく、国では今、検討会(地方公共団体実行計画策定・実施マニュアルに関する検討会)を設けて、自治体の現状を踏まえた自治体への支援のあり方の検討を始めている。果たして、どのくらい有効な支援策が提案・実行されるのか、自治体を主役に据えた脱炭素計画を推進していく上での試金石といっても過言ではなく、今後も注視が必要である。
では、このような地方自治体に向けられた一連の動きは、地域事業者が地域エネルギー事業を実現していく上で、どのような影響を及ぼすだろうか。
プラスの側面でいえば、地方公共団体実行計画の事務事業編しか策定していなかった自治体にも(努力義務とはいえ)区域施策編の策定が義務化されたことによって、区域全体の温暖化対策にコミットする自治体は間違いなく増える。とりわけ「ゼロカーボンシティ宣言」をした自治体では、自らの公約実現のステップとして、区域施策編もしくはそれに相当する計画の策定に着手する可能性が高まる。
また、法改正が要求する(地域エネルギー事業との関わりが深い)再エネの利用促進に関する義務付けに伴って、自治体や地域の関係者の間で「再エネによる地産地消事業」の有用性の理解が深まることも期待できる。これまでは地元事業者から自治体に対して同事業を説明しようとしても、地域での脱炭素施策に関するそもそもの知見がない自治体には「刺さらない」ことも多かったが、今後は少なくとも「聞く耳」を持ってくれやすくなることだろう。
さらには、逆に自治体から「再エネによる地産地消事業」が地元事業者に向けて発案されるケースが増えてくるかもしれない。その意味からも、地域事業者として、自治体を巡る政策の内容をきちんと理解しておくことが重要になる。
一方、マイナスの側面では、自治体に向けていきなり「再エネによる地産地消事業」の提案をしても、それが区域全体で進めるべき温暖化対策・施策の全体系の中に落とし込まれていなければ、そこだけ「ピックアップ」して実行するわけにはいかない、と考える可能性が増すことが挙げられる。
これまでに設立された「自治体新電力」を見ると、たとえ「部分最適」だとしても、メリットが評価されれば一部の関係者の手で実現することが可能だったが、前回の本稿でも触れたとおり、今後は上位の諸計画(総合計画、環境基本計画、地方公共団体実行計画等)との整合をとらないと取り上げてもらえない可能性が増す。
このことからしても、地域事業者として、自治体と同じ目線で地域の脱炭素政策をきちんと理解しておくことが重要になる(ちなみに、筆者はこれを「自治体に寄り添った政策理解」と称している)。と同時に、この点が再エネだけを求めて外部から地域に入り込む事業者と地元事業者の違いになりうる。これをしっかり認識し、地域に求められる温暖化政策の理解を深めなければ「地元ファースト」は単なるエゴになりかねないことを肝に銘じておきたい。
エネルギーの最新記事