映画『ファインディング・ニモ』の舞台となったグレート・バリア・リーフは、オーストラリア東部エリアの観光の目玉だ。2,300kmにも及ぶ大珊瑚礁は、貴重な生態系をも維持している。しかし、近年の海水温度の上昇により、サンゴの白化現象が進んでおり、早急な対応が必要とされている。
島の自然を守るために船着場は作られていない。ゲストもスタッフも小型飛行機でアクセスし、洗濯物も本土で処理される。運がよければ上空からマンタの姿を目撃できる ©Hiroaki Oyamada(クリックすると別ウィンドウで開きます)
グレート・バリア・リーフの南端に、水中写真の第一人者中村征夫氏がほれ込んだ島がある。レディ・エリオット島という、1周1時間ほどで歩いて回れるくらいの大きさの島だ。中村氏はここでたびたび撮影を行い、2010年には『世界一の珊瑚礁』(クレヴィス発行)というタイトルを付けた写真集を上梓した。
レディ・エリオット島は、南極からの深層海流と世界遺産に登録された森林エリアから流れ込む栄養を蓄えた水が出合う場所に位置するため、プランクトンが大量に発生し、多種多様な生物がここにやってくる。1,200種もの海洋生物が生息しており、マンタやウミガメですらスノーケリングで遭遇できるほどだ。11月から3月にかけては、ウミガメたちが産卵のためにこの島にやってくる。
早朝、海に戻るウミガメと出合った。リゾートスタッフの話では、いい産卵場所が見つからずそのまま戻っている様子だとのこと。浜にはいく筋ものウミガメたちの足跡が残っていた ©Hiroaki Oyamada(クリックすると別ウィンドウで開きます)
カメやワニ、一部のトカゲなどの爬虫類は、卵が孵化するまでにさらされる温度で性別が決まる。ウミガメの場合は低温ではオスに、高温環境下ではメスになることが知られている。近年の温暖化の影響が性別決定に影響を与えていることは推測されていたが、2018年1月8日発行のCurrent Biologyのレポートで、北部エリアでは若いウミガメのメス比率が99%にも及んでいる衝撃のデータが発表された。この比率は最近だけのことではなく、20年近くに及んでいるのではないかと考えられている。
レディ・エリオット島のある南端のエリアでは、まだメスの比率は3分の2ほどで、メスが多めの正常な性比率が保たれている。
写真上:レディ・エリオット島には海鳥のコロニーもあり、子育ての時期に訪れ営巣している。島では自然を徹底して保護しているため、海鳥は人間を恐れない 写真下:左は餌付けの時間に集まってきた魚たち。漁が禁止されているので、魚たちも人を恐れない。右はリーフウォーキングで見つけたシャコガイ。島の東部には遠浅のリーフが広がっている ©Hiroaki Oyamada(クリックすると別ウィンドウで開きます)
グレート・バリア・リーフは南北に約2,300キロメートル、沖合100キロメートルまで広がっている。宇宙からも見ることができる自然の造形物だ。近年のサンゴの白化現象により、今年は危機遺産に指定されるかもしれないというニュースが駆けめぐった。
グレート・バリア・リーフは観光要素としても非常に重要なので、オーストラリア政府は以前から巨額の予算をつけて、海の保全に努めてきた。サンゴの白化は水温上昇によって、褐虫藻がサンゴから離れることで起きる現象で、それが長く続くとサンゴは死滅してしまう。以前は海水温の上下変動があったが、2016年を大きな境に海水温の高温化がしばしば観測され、白化現象が深刻化している。
レディ・エリオット島は最南端に位置しているため、海水温上昇の影響を受けにくかったが、この数年は南部エリアも海水温度上昇が続いており、危機にさらされている。この島が最後の楽園とならないよう、グレート・バリア・リーフ全体の復活を願うばかりだ。
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