九州エリア太陽光抑制回避に向けた地域間連系線の拡大策 第62回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」 | EnergyShift

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九州エリア太陽光抑制回避に向けた地域間連系線の拡大策 第62回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」

九州エリア太陽光抑制回避に向けた地域間連系線の拡大策 第62回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」

2021/06/25

九州エリアでは太陽光発電の設置が進んだ結果、春や秋の日中、発電所の出力抑制がしばしば行われている。しかし、せっかくの再エネの電気を抑制することは、CO2排出削減に反する。九州エリアから本州に送る電気の容量を増やすことができるのかどうか、2021年6月18日に開催された、電力広域的運営推進機関の第62回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」において検討された。

審議会ウィークリートピック

最大限活用されている関門連係線の、増強なしでの容量拡大は可能か

九州エリアでは、太陽光発電を中心とした再エネ電源の導入量増加に伴い、再エネ電源の出力制御(抑制)が頻発している。これは下げ代不足、需給バランスの制約が原因である。

再エネ電源の出力制御の前に、地域間連系線を通じた他エリアへの送電をおこなうルールとなっており、現状の中国九州間連系線(以下、関門連系線)の運用容量は最大限活用されている。

他エリアへの送電量を増やす策としては、物理的な設備容量を増強する方法のほかに、「運用」面での対策を実施する方法がある。

広域機関ではすでに広域系統整備委員会等の場において、関門連系線の設備増強の是非について費用便益評価をおこなってきたが、費用対効果が得られないとの結論が示されていた。また仮に関門連系線を増強する場合でも、その設備増強工事には10年以上の工期を要するものと想定されている。

このため、既設の設備容量を前提とした「運用面」での対策をおこなうことにより、より即効性のある運用容量拡大に向けた対策の実現可能性について検討が進められてきた。

広域機関の「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」の第62回会合において、関門連系線の運用容量拡大の検討の一定の結論が得られたので、本稿ではその概要をお届けしたい。

検討の背景

地域間連系線等の送電設備を利用するにあたり、通常その設備容量すべてが利用できるわけではなく、一定の「運用容量」が設定されている。運用容量は、熱容量や同期安定性、電圧安定性、周波数維持などの複数制約のうち最小となるものが決定要因とされる。

関門連系線の運用容量の決定要因は、年間の約94%が「周波数制約」であった(2019年度実績)。

関門連系線の2回線事故が発生した際には、九州エリアと中西5社エリアが分離することになる。九州から送電されていた電力が突然失われるため、中西5社エリアでは供給不足により周波数の低下が生じてしまう。よって、この中西5社エリアの周波数低下限度値により、関門連系線の運用容量が設定されている。

図1.関門連系線の運用容量の制約

出所:調整力及び需給バランス評価等に関する委員会

よって中西5社エリアの周波数低下限度値を増加させることが出来れば、関門連系線の運用容量を速やかに拡大することが可能となる。

調整力委員会では、具体的な運用容量拡大方策として以下の3案が提案されている。

A案とB案は供給力の積み増しにより、C案は需要の抑制により、中西5社エリアの需給バランスを維持させる対策であり、いずれもほぼ瞬時の対応が必要とされる。

A案 調整力の確保量増加

中西5社エリア内で即時性のある調整力を増加させることにより、関門連系線事故後の需要と供給を一致させる。

B案 50Hzエリアからの緊急融通期待量増加

FC(東西の周波数変換設備)の緊急融通機能の期待量を増やすことにより、関門連系線事故後の需要と供給を一致させる。

C案 負荷遮断による需要減少

関門連系線事故時に中西5社エリア内の一部の負荷を遮断することにより、需要と供給を一致させる。

出所:調整力及び需給バランス評価等に関する委員会

3つの案の概要や早期実現性の比較は、表1のとおりである。早期実現性という観点では、C案はやや劣後すると言える。

表1.3案の概要・早期実現性

 A案
調整力の確保量増加
B案
50Hzエリアからの緊急融通期待量増加
C案
負荷遮断による需要減少
概要電源Ⅰ-aの確保量を増加
→ GF量の確保
FCのEPPS(緊急融通制御装置)期待量を増加契約に基づいた需要家の負荷遮断(中国九州間連系線2回線事故時に需要家の負荷を遮断するシステム等の導入)
早期
実現性
早期に実現できる可能性がある
(公募により調整力を確保するものであり、設備面での対応は不要)
早期に実現できる可能性がある実現までに数年の期間が必要
(新規のシステム構築が必要であり、設計や工事等の期間を要する)

運用容量拡大による経済効果の考え方

再エネの出力制御が実施される時間帯では、通常、JEPXスポット価格は0.01円/kWhになっている。仮に上記3ついずれかの運用対策により運用容量が拡大された場合、九州エリアの安価な電力が関門連系線を通じて中国エリア以東に送電されることとなる。 よって、①エリア間市場取引による発電コストの低減と、②中国エリア以東の火力機の焚き減らしによるCO2排出量の低減、といった2つの社会便益を運用容量拡大による経済効果とみなして算定することとした。

表2.運用容量拡大による社会的便益

項目概要評価軸
燃料費
(中国エリア以東)
中国エリア以東の発電単価の高い火力機の稼働量低下による燃料費の低減円/年
(中国・九州エリアの市場間値差により評価)
CO2排出量
(中国エリア以東)
中国エリア以東の発電単価の高い火力機の稼働量低下によるCO2排出量の低減効果円/年

なお今回の検討は、主に太陽光の出力制御量の低減を目的としていることから、運用容量の拡大効果の評価にあたっては、①全時間帯を対象とする場合と、②日照時間帯(8~18時)に限定する場合の2ケースを算出することとした。

また、熱容量が制約となっている断面は除外する必要があるため、「周波数制約」は全時間帯で年間8,350時間、日照時間帯で年間3,276時間となっている。

中国エリアと九州エリアの市場間値差の実績を用いた市場取引における経済損失低減効果は、表3のように算出される。

表3.市場取引における経済損失低減効果

 全時間帯日照時間帯のみ
※8:00~18:00
効果が見込まれるコマ3,522コマ/年1,865コマ/年
効果が見込まれるコマの平均値差
(kWh/単価)
1.65円/kWh2.19円/kWh
市場取引における経済損失低減効果約2,900万円/万kW・年
※3,522×1.65×1万/2
約2,040万円/万kW・年
※1,865×2.19×1万/2

出所:調整力及び需給バランス評価等に関する委員会

CO2排出量低減による経済効果は、非化石価値取引市場の約定量加重平均価格の1.30円/kWhを用いて算出された。

表4.CO2排出量低減による経済効果

 全時間帯日照時間帯のみ
※8:00~18:00
CO2排出量低減効果約2,290万円/万kW・年
※3,522×1.30×1万/2
約1,210万円/万kW・年
※1,865×1.30×1万/2

出所:調整力及び需給バランス評価等に関する委員会

表3の市場取引における経済損失の低減効果と、表4の「CO2排出量低減効果」を合計した運用容量拡大による経済効果は表5のとおりである。

この効果と、3つの案の費用を比較することにより、費用便益評価が可能となる。

表5.関門連系線運用容量拡大の経済効果

[万円/万kW・年]

 全時間帯日照時間帯のみ
※8:00~18:00
市場取引における経済損失低減効果2,9002,040
CO2排出量低減効果2,2901,210
運用容量拡大効果(合計)5,1903,250

出所:調整力及び需給バランス評価等に関する委員会

A案「調整力の確保量増加」の費用対効果

A案は、関門連系線ルート断故障により中西5社エリアの周波数が低下した場合、調整力の応動により数秒以内で周波数を回復させる案である。具体的には「電源Ⅰ-a」を追加調達する必要があるが、電源Ⅰ-aのうち、数秒以内の対応が可能な商品は「発電機のガバナフリー(GF)運転」である。

GF運転による上げ調整力を追加調達するためには、最経済運転状態と比較すると、燃料費の安い電源を焚き減らし、燃料費の高い電源を焚き増すことにより、燃料費が増加することとなる。詳細は割愛するが、この増分燃料単価は1.74円/kWhと試算された。

この単価をもとに年間kWあたりの費用は、Σ(GF増加量×時間×増分費用単価)として算出される。詳細は割愛するが、GF確保量増加に伴う費用は全時間帯では年間約1.45億円/万kW・年と算出された。

よってA案では費用が効果を上回り、経済的メリットは得られない結果となった。

表6.GF確保量増加に伴う費用対効果

[万円/万kW・年]

 全時間帯日照時間帯のみ
※8:00~18:00
費用約14,530
※8,350×1.74×1万
約5,700
※3,276.5×1.74×1万
効果5,1903,250
効果-費用▲9,340▲2,450

第57回資料4スライド23をアレンジ

B案「50Hzエリアからの緊急融通期待量増加」の費用対効果

東京中部間連系設備(FC)のEPPS(緊急融通制御装置)は、50Hzエリア・60Hzエリアのどちらかで電源脱落等により周波数が低下した場合に、もう一方のエリアから瞬時に電力を送電するものである。

地域間連系線の容量は常時の卸電力取引や調整力の取引に用いられているが、万一の際には緊急融通が確実に行われるよう、その容量をあらかじめマージンとして確保する必要がある。現在FCでは60万kWがマージンとして確保されている。

2021年3月の飛騨信濃FC (90万kW)の運転開始により、FC全体の運用容量が120万kWから210万kWに拡大した。B案ではEPPSの期待量を増加させることで、関門連系線2回線故障時の中西5社エリアの周波数低下限度値を増加させる。

図2.EPPS増加による運用容量増加のイメージ

出所:調整力及び需給バランス評価等に関する委員会

しかしながら、限られたFC容量の一部をEPPS用のマージンとして確保することは、市場取引に充てられる容量が減少することを意味する。これにより市場分断の発生頻度が高まることとなるが、市場分断発生時の市場間値差を、市場取引における費用(機会損失)と捉えることができる。

なお新設された飛騨信濃FCの自動演算機能を活用するB案は、需要の大小により融通可能量が変わるため、再エネ出力制御がおこなわれる蓋然性の高い低負荷期昼間帯では効果が限定的となってしまう。このため、従来のEPPS機能を活用して融通量を事前に固定した「B´案」についても検討がおこなわれた。

ただし、融通量を増加するほどEPPS動作時の送電側エリア(健全エリア)の周波数低下は大きくなるため、追加融通量は極力少ないことが望ましいと考えられている。

試算の結果、B案では年間メリットが2.9億円であるものの、肝心の太陽光発電量の多い端境期(低負荷期)昼間に限ったメリットは年間0.9億円にとどまった。

他方、B´案(追加融通量10万kWの場合)では、メリットが得られない試算結果となった。

表7.運用容量拡大による費用対効果

 評価項目評価額(億円/年)
B案B´ 案
年間端境期昼間年間端境期昼間
効果スポット市場取引における経済損失低減効果(関門)2.30.62.90.8
CO2排出量低減効果1.60.32.30.4
費用スポット市場取引における機会損失額(FC 順方向)1.00.00.90.0
スポット市場取引における機会損失額(FC 逆方向)(考慮不要)9.02.7
費用対効果メリット(効果-費用)2.90.9▲4.7▲1.5

出所:調整力及び需給バランス評価等に関する委員会

なお、FCの送電容量を使用するのはJEPX市場取引だけではない。

需給調整市場で取引される調整力についてもFCを通じた広域的な取引・調達がおこなわれるが、特に新設された飛騨信濃FCでは、三次調整力②、三次調整力①、二次調整力②の活用が予定されている。EPPSの増加によるFC空き容量の減少は、調整力を広域的に調達するコストメリットを減じるおそれがある。

三次調整力①、二次調整力②の取引開始は2022年度以降であるため、現時点この機会費用(損失)を算定することは困難であるものの、端境期昼間のメリットはわずか年間0.9億円であることから、B案・B´案は見送りとすることが事務局の現時点の結論である。

C案「負荷遮断による需要減少」の費用対効果

C案は、関門連系線のルート断故障により中西5エリアの周波数が低下した際、あらかじめ契約を結んだ需要家を瞬時に遮断することで需要を減少させ、周波数低下を回復させるものである。契約需要家に対しては、実際の遮断の有無を問わず、基本料金的に対価を支払う必要がある。

またC案を実施するには、負荷遮断のためにシステム構築とその費用が必要となる。よって需要家への対価は、運用容量拡大による効果からシステム構築費用を控除した残りの金額から捻出する必要がある。

 

運用容量拡大による効果 - システム構築費用 =「需要家への対価の上限額」

 

詳細は割愛するが、需要家への対価の上限額は約4,300円/kW・年と算出された。

調整力委員会では、この対価が需要家にとって受容性があるものか否かという観点で、C案の是非を評価している。

調整力委員会では、これをC案に類似した海外事例(フランス)と比較している。

表8.需要家への対価 フランス事例との比較

 C案フランスの事例
応動時間瞬時5秒
発動可能性時間8,350時間7,500時間
需要家への対価最大約4,300円/kW約8,500円/kW

出所:調整力及び需給バランス評価等に関する委員会

C案はフランスの事例と比較すると、瞬時遮断であるなど需要家にとって厳しい契約条件であるにもかかわらず、対価(上限額)は約半額である。

仮に、太陽光の余剰が見込まれる軽負荷期の昼間帯に契約対象時間を絞るならば、需要家への対価はさらに小さなものとなってしまう。

よって事務局では、必要となる契約件数や遮断量(kW)を確保することは難しいと結論付けたが、委員からは需要家調査をすべきとの意見が複数示された。

まとめ

運用対策により、既存の関門連系線の運用容量を迅速に拡大させる方策は存在するものの、A~C案は現時点ではいずれも費用対効果の面で問題があることが明らかとなった。

しかしながら、これらの結果はあくまで一定の条件に基づいた試算であるため、今後の市場価格等次第では、結果が変わることもあり得る。

マスタープラン検討会では、すでに関門連系線の設備容量を増強する方向性が示されているが、「増強」を急ぐと同時に、「運用」面での改善による、速やかな対策の実施が求められる。

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda