2021年8月9日、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第1作業部会による第6次評価報告書が公開された。気候変動に対する人類の影響については、これまで以上に踏み込んだ内容となっており、CO2など温室効果ガスの濃度の上昇は明らかに人間活動によるものであるとしている。まさに、気候変動は人間活動が原因であると断言したということだ。そして、迅速かつ大規模な削減がない限り、平均気温上昇を1.5°Cに抑制することはできず、現状の施策では2℃にさえ手の届かないところにあるという。
IPCCは1990年に第1次評価報告書を発表して以降、これまで第5次までの評価報告書(2015年)や1.5℃特別報告書(2018年)などを作成、発表してきた。特に評価報告書については、発表ごとに、気候変動問題の確実性が明確になってきたといえる。
今回、公開されたのは、第1作業部会の報告書で、自然科学的根拠を扱ったものだ。今後、第2作業部会(影響、適応、及び脆弱性)、第3作業部会(気候変動の緩和)が公開される予定で、これらが出そろったあと、IPCC総会で承認されることになる。
今回の報告書では、気候変動の原因としてこれまで以上に人間活動が原因である可能性が高いとしている。特に温室効果ガスの濃度上昇については、明らかに人間活動によるものだと断定した。
では、気候変動の現状をどのように評価しているのか。
まず、2011年~2020年の世界の地表面温度は1850年~1900年と比較して1.09℃高いという。これは、12.5万年前の地球の気候と同等であり、さらに現在の野心的な取組みでも2100年には2.5℃以上も上昇するが、この平均気温となっているのは300万年前までさかのぼることになる。これが意味するのは、わずか200年程度の期間に、300万年分も気候が変化するということである。
2020年までの地球の平均気温の上昇(黒線が実際の数値、青線が人間活動がなかった場合)
出典:IPCC第6次評価報告書・政策決定者のためのサマリー
温室効果ガスの濃度だが、CO2は平均410ppmまで上昇しており、過去200万年のどの時期よりも高い。メタンや一酸化二窒素(N2O)についても過去80万年のどの時期よりも高いということだ。
特に高緯度地域の気温上昇は大きく、低緯度地域の3倍にもなると予想される。
実際に気候変動に寄与しているのは、CO2の割合が高く、メタンがそれに次ぐ。一方、硫黄酸化物のエアロゾルは気温を下げるはたらきをしており、メタンの温室効果を打ち消すレベルとなっている。メタンとエアロゾルはいずれも大気中での寿命は短く、今後、大気汚染の改善にともなって硫黄酸化物が減少することに対し、メタンの排出を抑制していくことが効果的だとしている。
平均基本上昇は、降雨パターンを大きく変化させている。1950年以降、豪雨の頻度と強度が増加しており、強い熱帯低気圧の発生割合も増加しているということだ。その一方で、熱波と干ばつが同時発生する頻度も増加している。気象は極端化しているということになる。
海洋で問題となるのは、海面上昇と海洋酸性化だ。
まず、海面上昇だが、現時点ですでにおよそ0.2m上昇しているという。そのうちの半分は海水の熱膨張によるものだが、近年に限っては氷床と氷河の消失が主要な要因だったとしている。その氷床の減少だが、21世紀中でもグリーンランドではほぼ確実に、南極でも高い可能性で融解し続けるという。しかも、シナリオによっては南極の氷の損失は何世紀にもわたって続く可能性が高いということだ。一方、北極海については、2050年までに1回は海氷がなくなる可能性が高いとしている。
2100年までの海面上昇は、1.5℃に抑制した場合でも0.28~0.55m、温室効果ガス排出が続けば1mを超える可能性もある。しかも、海面上昇は止まるわけではなく、1.5℃上昇でも2000年後には2~3m上昇するということだ。
海洋酸性化と海洋の低炭素化も深刻だ。いずれも、海洋生物に大きな影響を与える。
また、海洋のCO2吸収量には限界があり、CO2排出量が増大すればこれまで以上に大気中の濃度の上昇が進むことにもなる。
上はシナリオごとの海洋酸性化(pH)の変化
下はシナリオごとの海面上昇
出典:IPCC第6次報告書、政策決定者のためのサマリー
海洋ではなく陸上での問題だが、永久凍土が溶けることによるフィードバック(凍土中のCO2やメタンなどの放出)も懸念される。
今回の評価報告書では、5つのシナリオにおけるCO2排出量の道筋をしめしている。
グラフは5つのシナリオをしめしたものだが、このうちSSP1-1.9が1.5℃シナリオ、SSP1-2.6が2℃シナリオに相当する。1.5℃に抑制するためには、CO2排出量を2050年にはゼロにし、それ以降はカーボンマイナスになる技術を投入していくことになる。現在、多くの先進国は2050年カーボンゼロにコミットしているが、このシナリオが示しているのは、地球全体でのカーボンゼロであり、途上国も含めてゼロにするためには、先進国の取組みはまだ不足しているということになる。逆に、そうしたシナリオが実現しない場合は、極端な豪雨や熱波、干ばつが増加し、海面上昇が加速するということだ。
1850年から2019年の間に、人為的に排出されたCO2は合計2,390±240Gtと見積もっている。また、1,000Gtごとに平均気温が0.27℃~0.63℃上昇すると評価している。このように考えると、人類が排出できるCO2の量(カーボンバジェット)の残りは少ないということになる。
カーボンマイナスに関して、大気中のCO2を除去し、貯留層に蓄えることは、平均気温を下げ、海洋酸性化を逆転させる可能性があるとしている。それでも気候変動は数十年から数千年の間は続くということだ。それでもなお、温室効果ガスの排出をゼロにすることは平均気温の安定化のための要件であるという。気候の自然変動によってすぐの効果が隠されるかもしれないが、それでも20年程度の短期的なトレンドの違いは現れそうだとしている。
今回の報告書について、IPCC第1作業部会の共同議長であるValérie Masson-Delmotte氏は、「この報告書は現実をチェックしたものです。私たちは今、過去、現在、未来の気候をより明確に把握しています。これは、私たちがどこに向かっているのか、何ができるのか、そしてどのように準備できるのかを理解するために不可欠なものです」と述べている。
また、同じく共同議長のPanmao Zhai氏は、「気候変動はすでに地球上のすべての地域にさまざまな形で影響を及ぼしています。私たちが経験する変化は、温暖化が進むにつれて大きくなるでしょう」と述べている。
今回の評価報告書は、10月末から英国のグラスゴーで開催されるCOP26(気候変動枠組み条約第26回締約国会議)での交渉にも影響を与えることが予想される。報告書の内容に従うのであれば、先進国にはより野心的なコミットメントが、途上国には2050年カーボンゼロが求められることになる。
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