審議会ウィークリートピック
変動する再生可能エネルギー(VRE)をはじめ、蓄電池などさまざまな分散型エネルギー資源(DER)が系統につながることで、安定して電気を使うための系統運用が課題となってくる。そこで、系統接続するにあたって、周波数変動抑制や事故時の対応などのルール・要件をよりふさわしい形で決めておくことが必要となってくる。このルール=グリッドコードの検討が、電力広域的運営推進機関でスタートした。2020年9月2日の「第1回 グリッドコード検討会」についてお伝えする。
再エネ主力電源化に必要な系統接続の新たなルールへ
グリッドコードとは、電力系統に接続される電源等が従うべきルールのことである。
系統に接続した電源がおかしな動きをすると、その影響は電力系統全体におよび、最悪の場合は大停電を引き起こすおそれもあることから、電力の安定供給や品質確保の観点から不可欠な存在である。
再エネ電源の増加に伴い、従来以上に発電側での周波数・電圧調整力、系統事故・擾乱時の対応能力を確保することの必要性が高まってきている。
2020年9月、電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)に新たに設置された「グリッドコード検討会」で、新たなグリッドコードの検討が開始された。
もちろん、現在の日本にグリッドコードが何も存在しないわけではない。本検討会の目的は再生可能エネルギー主力電源化の早期実現であり、その目標は再エネを大量導入するために必要となるグリッドコードの整備、と明言されている。資源エネルギー庁にも「再エネ大量導入」などの名称を持つ審議会は存在するが、このグリッドコード検討会ほど明確に、再エネ主力化を高らかに掲げている審議会は初めてではないか、と感じている。
エネ庁の「系統ワーキンググループ(WG)」において、再エネの大量導入を見据えた適切なグリッドコードの整備が検討されていたが、その詳細な検討や原案作成が広域機関にタスクアウトされ、このグリッドコード検討会が設置された。
グリッドコードとは何か
現在の日本のグリッドコード、つまり系統連系に係るルールの関係性はやや複雑である。電気事業法第17条に規定する託送供給義務のもと、以下の5つの規程から構成されている。
表1.日本の系統連系に係る規定
本検討会が目的とする再エネ大量導入に伴って必要となる「系統に接続される電源が従うべきルール」の多くは、一般送配電事業者が定める④「系統連系技術要件」に規定されていることから、今回のグリッドコード検討会では「系統連系技術要件」の個別技術要件を整備することとした。もちろん、①~⑤の5つの規定間で整合性を取ることは大前提である。
なお、国際エネルギー機関(IEA)によればグリッドコードは、接続コード、運用コード、計画コード、市場コードにより構成され、狭義には「接続コード」を指している。
「接続コード」は、発電機や負荷など個々の構成要素のシステムにおける動作を規定しており、本検討会では「系統に接続される電源が従うべきルール」を主眼としていることから、IEAでいう「接続コード」を検討することになる。
欧州では、EUが定めるネットワークコード「Requirements for Generators」をもとにEU各国でグリッドコードの改定が進められている。それらのグリッドコードには、以下のような項目が定められている。
- 運転継続すべき周波数・電圧
- 周波数上昇・低下時の有効電力低減・増加
- 周波数変化率に対する有効電力の変化率
- 事故時運転継続
- 無効電力の供給
なお、改定するグリッドコードの対象は再エネだけでなく、すべての電源が対象である。
ただし再エネ大量導入を前提とすると、従来から調整力等を提供してきた火力発電が相対的に減少することが想定される。この場合、再エネ電源自身が積極的に調整力を提供することや、調整力は提供できずとも系統フレンドリーな仕様であることが一層重要となる。
グリッドコードの検討における「課題」
一度電力系統に接続された電源は、通常は数十年間運転を継続することから、グリッドコードの検討にあたっては非常に長期的な視点が不可欠である。他方、FIT導入以降、太陽光発電を中心とした再エネ電源が急増していることによる、足元ですでに顕在化しつつある課題(後述する電圧フリッカ等)に速やかに対処することも同様に重要である。
本グリッドコード検討会では、まずは2030年度エネルギーミックスの実現に向けて、短期的に要件化が必要な技術要件を中心に検討を行うこととされた。短期的とは、2023年4月の適用を想定している。
短期・長期のいずれにも関係する課題の1つが、再エネ出力制御の合理化である。
すでに九州エリアでは再エネの出力制御(抑制)が頻発しているが、再エネ導入が拡大するにつれ、やがては全国的に出力制御がおこなわれる可能性がある。出力制御自体は必要なものであるが、仮に合理的な制御が出来ない場合には、kWベースでは再エネを大量に導入したとしても、kWhベースでは再エネ電力を有効に活用できないおそれもある。
再エネ自身の調整機能と火力の柔軟性を最大限活用すべく、両者をバランスよく制御可能なグリッドコードが求められる。
もう一つの課題が、電力品質の確保である。
太陽光発電の導入量が多い九州エリアでは、電圧フリッカ(照明等にちらつきを生じさせる現象)が発生している。 再エネの出力変動により、周波数変動・電圧変動がさらに大きくなると、産業需要家が製造する製品の品質にも影響を与えるおそれがある。周波数等が大きく変動した場合には、電源の脱落およびその拡大による大規模停電のおそれもある。
太陽光発電等のインバーター電源が増加することは、従来は火力発電等が提供してきた同期化力や慣性が相対的に低下することから、再エネ電源に疑似慣性を持たせることなどが検討されている。
グリッドコードの今後の検討
新たなグリッドコードに規定する個別技術要件の抽出・選定にあたっては、①費用、②出力制御低減効果、③変動対応能力、④公平性の4つを評価項目として、要件ごとに具体的に比較・評価がおこなわれる。
個別技術要件の検討は2021年度中の完了を目指し、2023年度からの適用を想定している。
なお今回のグリッドコード検討会ではグリッドコードの対象は「電源」とされているが、今後は需要家側のリソース(蓄電池や電気自動車、エコキュート等)を活用していくことが求められることから、これら需要家側リソースを対象としたグリッドコードの検討にも期待したい。
(Text:梅田あおば)