9月20日、日本でもグローバル気候ストライキ(日本では「気候マーチ」)が行われる。世界中の若者が、そして大人も気候変動の危機に対して何らかのアクションを行う。
なぜ今、このような気候変動危機に全世界の若者が注目しているのか。何が変化したのか。気候のための学校ストライキ、FridaysForFutureの動きを改めて追ってみた。
「気候のための学校ストライキ」が世界から注目を集めている理由
2019年9月16日、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、グレタ・トゥーンベリさんと世界中のFridaysForFutureの活動家に対してAmbassador of Conscience Award(良心の大使賞)を贈った。この賞は、アムネスティの最も権威ある賞で、過去にはネルソン・マンデラやアリシア・キーズなども受賞している。壇上にはグレタさんだけでなく、仲間の姿もあった。
翌17日にはオバマ前大統領と会談した。実は再会になるこの会談で、グレタさんは「誰かに影響を与えられない、非力な人などいません。世界を変えることもできるはず。だからできることはなんでもしましょう。クリエイティブに。」と語った。(No one is too small to have an impact. And change the world, so just do everything you can. Be creative.)
オバマ前大統領は会談後に「これが若い力だ。変化が可能であると信じ、何ものをも恐れず、社会通念に果敢に挑んでいる」と称賛した。
「私一人の運動じゃない」
今やメディア(特に欧米の)でグレタさんを見かけない日はない。イギリスの新聞The Guardianのウェブサイトでグレタさんの名前に関連ある記事を検索すると、13,600件が表示される。
2019年4月にはローマ法王に拝謁した。イギリスのロックポップバンドThe 1975がグレタさんをニューアルバムにフィーチャーした。TIME誌の世界で影響力のある未成年25人の一人に選ばれた。小さいヨットで、何日間もかけて(トイレは小さいバケツ一個だけで)ヨーロッパからアメリカに渡った。「トランプ大統領に会うのは時間の無駄だ」と言った。国連ビルに入って「冷房が効きすぎてる」と言った……。
グレタさんは行く先々で脚光を浴びるが、彼女は常に「私一人の運動ではない、みんなの運動だ」「このムーブメントに参加しているみんなの力だ」と繰り返す。
2019年7月には民主党下院議員のアレクサンドリア・オカシオ ・コルテスとテレビ電話で会談した。その時も「世界中の何百万人もの子供達がストライキをして、この先がないかもしれない未来のために、なぜ勉強しないといけないの?って言ってるんです。私だけじゃなく、みんなの運動です」と答えている。
「気候のための学校ストライキ」からFridaysForFuture、そしてグローバルストライキへ
今や運動はみんなのものだが、はじめたのはグレタさんだ。
彼女のインスタグラム(@gretathunberg)を辿ると、ストライキをはじめる前の彼女の様子がわかる。そこに写っているのは、湖のほとりや山の自然の中で大きな犬と一緒に写っている、ナイーブな15歳の少女だ。
2018年8月20日の月曜日、彼女は座り込みをはじめる。その時の投稿コメントは「私は選挙の日までストライキをします」。翌日も彼女は一人で写っている。(もちろん、誰かが撮影しているのだが)。
2日後、彼女は一緒に座り込んでいる9人とともに写っている。(「来てくれた人に感謝します!」とコメント)それからほぼ毎日、彼女は写真をアップする。
9月1日、The Guardianが彼女を取材した記事がオンラインに掲載され、少しずつ賛同者が集まる。
9月7日金曜日、学校ストライキ15日目「一日中座っています」とコメント。8日の土曜日には、はじめてのマーチとコンサートがあった。そこでは歌手志望のグレタの妹も歌った。賛同者は増えていく。9日の日曜日は、ストライキの目的だった総選挙のある日だった。(社会民主労働党が勝った)。
翌週から、毎週金曜日の「気候のための学校ストライキ」(FridaysForFuture)は本格的にはじまる。グレタさんはメディアに出はじめる。SNSにも広がりをみせ、運動はあっという間に大きく広がっていく。10月22日、ヘルシンキでの写真ではもう何人が集まっているのか、わからないほど大勢の人がいる。
11月にはTEDに出演、12月にはCOP24で演説を行う。同じ月の投稿には「気候変動に休みの日はない。私たちの運動も!明日もいつもと同じようにストライキを(The climate crisis doesn’t go on holiday. Nor do we! Climate strike tomorrow as usual.)」と書かれ、寝袋にくるまってストライキを続けている。ストックホルムの12月の平均最高気温は1℃から2℃だ。
彼女は1月にダボスの国連世界経済フォーラム(ダボス会議)で演説、2月にはブリュッセル、パリへと行き、ストライキの輪を広げる。こうした移動はCO2を排出しない列車での移動で全て行われる。
そして2019年3月15日、世界規模でのストライキ(グローバルストライキ)が行われた。世界1,659箇所、106の国。日本でも行われた。5月、第2回のグローバルストライキは1,600以上の街、125の国で行われた。これらは世界中のメディアで取り上げられた。あとは皆さんご存知の通り。
そして2019年9月20日と27日、3回目のグローバルストライキが行われる。
批判は・・・うざい!
母親は著名な歌手で、父親は映画俳優。グレタさんは、そうした家庭環境もあり、批判も多い。それに対するグレタさんの発言。
「私がよく受ける批判は、"操作されている" "子供を政治利用することは虐待だ" "子供は自分じゃ考えられないんだから"とか……もう本当にうざい!(And I think that is so annoying!)なぜ私が自分の意見で、人の心を変えようとしちゃダメなんでしょう」*
もちろん彼女をサポートしている人はいる。ボランティアで参加している女性のコメント。「誰がグレタのマネジメントをしているのか、とよく訊かれます。でも、誰もマネジメントなんてしていません。グレタをマネジメントしているのはグレタ自身です」**。
幼少期にアスペルガー症候群であると診断された彼女は、それを誇りに思っていると言う。気候変動の危機が迫っていて、誰もがそれを知っているのに、なぜネットのゲームに夢中になれるのか、彼女には理解できないのだ。
「化石燃料を燃やすことが私たちの生存を脅かすほど悪いことなら、なぜ前と変わらない生活をしていられるのでしょう? なぜ違法だとされないのか、私には納得できませんでした。11歳にはうつ状態になり、何も喋らなくなりました。選択的緘黙(かんもく)症になり、必要な時以外は喋らなくなりました。今がその時なのです」(TED Stockholm)
大人も無視できなくなってきた
批判をものともしない彼女の周りには、彼女に賛同する大人たちも集まりはじめた。「Parents of Future」「Teachers for Future」などが各国で組織されている。
この若者を中心にした運動は、もう誰も無視できないほど世界中で大きなムーブメントになっている。グレタさんはVOGUE、teen VOGUE、GQ、WIRED、i-Dなどなど、若者が手に取る雑誌のほとんどの表紙を飾った。WIREDの表紙には大きく「インフルエンサー」(影響を与える人)と書かれ、GQからは「ゲーム・チェンジャー・アワード」が贈られた。
多くの国の右派政治家はこの運動に反対するか、無視している。しかし、ドイツでは選挙で緑の党が躍進、アメリカでも民主党はグリーンニューディールを次期選挙で訴えようとしている。各国で若者の投票行動に影響を及ぼすようになってきている。
2019年4月にはイギリス議会で演説をした。議員の前で彼女はマイクチェックをした。「私たち子供の声は聞きたくないかもしれません。聞こえますか? マイク入ってる? 私の英語は大丈夫? ちゃんと聞いてくださいね。私たち子供は、あなたたちを目覚めさせるためにこの運動をしているのです」。
この演説を聞いて、英国オフショア石油ガス工業会(Oil & Gas UK)の最高経営責任者Deirdre Michieは、業界団体の会議で「グレタを安心させたい。世界をより良くしたい。そのための解決法を提供できる」と述べた。*
ストリートで、また会いましょう!
9月10日、グレタさんはジャーナリストのナオミ・クラインと公開対談を行った。ナオミ・クラインは「これが全てを変える 資本主義vs 気候変動」(岩波書店)などの著者だ。最新著書のタイトルは「On Fire」。グレタさんの世界経済フォーラムでの発言「私たちの家(地球)は燃えている」に明らかにインスパイアされている。
公開対談で、ナオミ・クラインの「ここ(アメリカ)に来てなにか感じたことはある?」との問いに、グレタさんはこう答えた。
「ここでは、気候変動の危機はそれを信じているか、信じていないかが議論されています。私たちの国ではそれは "事実" です」。
アメリカの人気テレビ番組「The Daily Show」でも同じ答えをして喝采を浴び、さらにこう答えた。
「みんないろんなことに取り組むべきです。一つだけを選ぶなら、情報を得て、現状を把握し、政治的に新しい動きを作ることです。この問題(気候変動危機)に取り組む政治的リーダーはまだいません。デモクラシーの力を使うべきです。誰もこの問題をもう無視できません」。
グレタさんはメディアに出るためにアメリカに来たわけではない。9月20日に行われる、3回目のグローバルストライキに、ニューヨークで参加するためだ。なぜニューヨークなのか。
ニューヨークで、9月23日に国連気候サミットが行われるからだ。目的の一つは彼女がそれに出席すること。そしてもう一つは、多くの声を直接国連(と各国の大人たち)に届けること。
国連気候サミットではパリ協定に基づいて2020年までの各国の長期戦略を提出する。現状では各国の計画が全て達成されても2℃目標が達成されず、進捗にも遅れがある。
サミットが行われる眼の前で、世界中の大人にプレッシャーをかけようとしているのだ。どれだけプレッシャーをかけることができるのか、賛同を集められるのか、何人が集まるのか。大人の心を、どう動かすことができるのか。
もう動いている大人もいる。ニューヨーク教育委員会は、9月のグローバルストライキのためなら、当日学校を休むことを許可した。他の国でも学校がストライキを容認する動きが広がっている。デュッセルドルフでは市長が市職員にグローバルストライキへの参加を呼びかけ、有給取得可能といった。Amazon.com やGoogleにも参加するグループがいる。
グレタさんはビデオで呼びかける。
「子どもだけに将来の問題を押し付けてはいけません。今度は大人も協力すべきです。仕事をしている大人もストライキに参加してください。みんなの力が必要です。私じゃない、なら誰がやるんですか。今じゃない、であれば、いつですか?」と。
冒頭のアムネスティの賞の贈呈式でスピーチしたグレタさんはこう締めくくった。
「行動すれば、うまくいきます。ストリートで会いましょう!(Activism Works. See you on the streets!)」
日本での9月20日グローバル気候マーチ
9月20日と27日に世界中でイベントは行われる。欧米だけではなく、タンザニアなどのアフリカ、インド、フィリピン、台湾、などなど、参加国は150を超える予定だ。
日本でももちろん、気候ストライキは行われる(日本では気候マーチと言っている)。9月20日に、札幌、仙台、新潟、岩手、福島、栃木、白馬、上田、富山、金沢、白山、名古屋(2箇所)、大阪、京都、神戸、岡山、広島、福岡、大分、鹿児島、沖縄、そして東京の23ヶ所だ。東京やいくつかの大都市ではマーチが行われる。
グレタさんはグローバルストライキの後、ニューヨークから南米へいく予定で、いつかはモスクワ、アジア、そして日本へも来たいと言っているようだ。その時は、もちろんシベリア鉄道を使うだろう。
9月20日に行われる日本と世界の気候ストライキの最新情報はこちら。
https://ja.globalclimatestrike.net/
この記事は、EnergyShift編集部がまとめました。