「テスラってこんなだったのか」北尾トロの 知らぬがホットケない 第12語 テスラの巻 | EnergyShift

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「テスラってこんなだったのか」北尾トロの 知らぬがホットケない 第12語 テスラの巻

「テスラってこんなだったのか」北尾トロの 知らぬがホットケない 第12語 テスラの巻

2021年09月03日

『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『夕陽に赤い町中華』などでおなじみの北尾トロさんの連載。カーボンニュートラル?脱炭素?SDGs??という自称・脱炭素オンチの北尾トロさんが、「知らぬが仏」にしておけないキーワードを自ら調べ上げ、身近な問題として捉えなおします。今回のキーワードは・・・

知らぬがホットケない 第12語 テスラ の巻

形は車だけど、足元に充電器を敷き詰めたコンピュータの箱に乗ってる

半年ほど前、2013年に購入し、走行距離が10万キロを突破している4WDの愛車で高速道路を走っていると、助手席の友人が言った(エンジン音がけっこううるさいので大きめの声で)。

トロさん、テスラって乗ったことある?

ないよ。アメリカのEV(電気自動車)メーカーだよね。

「この前、試乗してみたら、かつてない経験だった。形は車だけど、足元に充電器を敷き詰めたコンピュータの箱に乗ってる感じ。あれは長年ガソリン車を作ってきたメーカーには作れない車だと思った」

ネックとされてきた、1回の充電による走行可能距離も長くなり、価格も300万円台からと、ガソリン車と変わらないところまで下がっているという。

「EVが街にあふれ、排気音もなく静かに走っている未来の光景が初めてイメージできた。目的地を教えれば勝手に走るようなことを実現するのもテスラみたいなメーカーだろう。日本車の未来が心配になってくる」

つぎに買う車はテスラで決まりかと盛り上がり、休憩のためサービスエリアに駐車すると、目の前にEV用充電器がある。ポツンと1台分で充電中のクルマもない。一気にテンションが下がり、ふたりで声を合わせた。

「やっぱり、インフラが追いついてこないと買えないかな」

次に驚いたのはスペースX

つぎに驚かされたのは、2021年5月30日にテスラ傘下のスペースX社が宇宙船の打ち上げに成功したニュース。そこには、宇宙船をガンガン作り、2050年までには100万人を火星に運ぶ能力を我が家は持つのだという主旨のことが書かれていた。

野望の中心にいるのはテスラを率いるイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)。実際に宇宙船を打ち上げたばかりではなく、同社は設立からわずか10数年でロケットの打ち上げコストを大幅に下げてしまったそうだ。

実績を考えると"言うだけ番長"ではなさそうだし、世界が注目するのもわかる。日本の実業家がしきりに宇宙ビジネスを口にするようになったのは、この人の影響も大きいのだろう。

僕が読んだ記事は、スペースX社はトヨタに次ぐ世界第2位の自動車メーカーに成長したテスラをしのぐほど将来性のある企業だとする論調でまとめられていた。

テスラが順調だから宇宙もやりますという話ではなく、EVを作ることとロケットを作ることが、マスク氏の頭の中では違和感なく同居しているようなのだ。僕の友人がテスラの乗り心地を「かつてない経験」と言ったのはそのせいなのかもしれない。

「太陽光もやっていたのか!」と、三度驚く

そして今回、この原稿を書こうとしてまたまた驚いた。テスラ社は、太陽光発電システムの開発・設置を行う大手企業でもあったのだ。ここでも、屋根そのものが太陽光パネルになった建材一体型太陽電池を開発するなど、斬新な発想の商品を生み出しているではないか。

これ、とどまるところを知らぬ野望とまとめたくなるが、たぶんそういうことではない。

テスラは、車が好きだからEVを作ったのではなく、ロケット少年が夢を果たそうとしているわけでもなく、"クリーンエネルギー+IT"を重要なキーワードとしてグループ全体を動かしている企業のように見える。

クリーンエネルギーを柱に据えると、みんなが望む未来に一歩近づくよ

もともとは2003年、ふたりのエンジニアが立ち上げたEV企業だったが、翌2004年には起業家のマスク氏が取締役会長に就任。スペースX社はそれより早い2002年に同氏によって設立されている。また、太陽光発電システムについても、マスク氏のいとこが2002年に創業したソーラーシティを傘下に収めた。

同社は多額の負債を抱えていたが、親戚を助けるために買収したわけじゃないだろう。合言葉は"クリーンエネルギー+IT"。CO2を使わずに発電・蓄電する技術と、それを使って生み出す商品にこそ価値があると考えてのことだと思える。有能なビジネスマンが、「クリーンエネルギーを柱に据えて事業を進めると、みんなが望む未来に一歩近づくよ」と教えているようなもの・・・。

なぜ僕はこのことに無関心だったのだろう

ではなぜ、僕はこのことを知らずにいたのだろう。無関心だったのだろう。

それは(多くの人たちと同じように)、クリーンエネルギーとビジネスを結びつけて考えたことがないために違いない。

それどころか、「志の低い企業が参入してくるんじゃねぇ」ぐらいのことを思っている。

おかしいよな、ビジネスとして成立しないが故にクリーンエネルギー化が進展しないのでは意味がないのに。

堂々と儲かる仕組みがあって、従事する人が増えてこそ物事は進む

うん、テスラを調べるうちに、あたりまえのことにやっと気がついた。

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北尾トロ
北尾トロ

ライター。1958年福岡県生まれ。体験・見聞したことをベースに執筆活動を続けている。趣味は町中華巡りと空気銃での鳥撃ち。 主な著書に『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『ブラ男の気持ちがわかるかい?』(文春文庫)『猟師になりたい!1~3』(信濃毎日新聞社、角川文庫)『夕陽に赤い町中華』(集英社インターナショナル)などがある。

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