審議会ウィークリートピック
2017年度向けから行われてきた、一般送配電事業者による調整力公募は、今後、需給調整市場と容量市場に、その役割を順次譲っていくことになる。この新しい仕組みについて考えるにあたって、現在の調整力公募について、きちんと考察しておくことも必要だろう。今回と次回の2回にわたって、「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」について報告する。
報告・検証を行う「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」
2020年6月11日に、電力広域的運営推進機関(以下、広域機関と呼ぶ)の第50回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」がWeb開催された。今回の議題は以下の3つであり、主に定例的な「報告」や「検証」が中心となっている。
- 2020年度調整力の確保に関する計画の取りまとめについて(報告)
- 2021年度向け調整力公募に向けた課題整理について
- 2019年度下半期の電源Ⅱ事前予約の事後検証について
今回の第50回委員会報告内容をテーマに、確保された調整力とはそもそもどのようなものなのか? など、かなり基礎的な部分から、過去数年分の議論を振り返って、前編・後編の二部に分けてご紹介をおこないたい。やや長文となるが、これらは今後の本「審議会ウィークリートピック」連載においても重要な基礎知識となるので、しばらくお付き合い願いたい。
2020年度向け調整力公募の結果
需給調整市場、容量市場などの新しい仕組みが開始前である2020年現在、調整力は一般送配電事業者(以下、一送)により、エリア単位で「調整力公募」という仕組みによって調達されている。
調整力公募で調達される商品区分は電源Ⅰ、電源Ⅱなど以下の6つであり、その要件等の概要は以下のとおりである。
2020年度調整力の確保に関する計画の取りまとめについて 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会事務局 2020年6月11日 第50回調整力及び需給バランス評価等に関する委員会資料より表1のとおり、調整力はその発動時間の速さや、継続時間の長さ、指令・制御方式等で区分されている。また、契約形態・精算の観点では、
- 電源Ⅰ: 一般送配電事業者の専用電源として、常時確保する電源等
- 電源Ⅱ: 小売電気事業者の供給力等と一般送配電事業者の調整力の「相乗り」となる電源等
という区分もされている。
電源Ⅰは事前に一送専用として確保されており、他の用途には用いることが出来ないため、それら電源等に対してはkW対価が支払われる。
これに対して電源Ⅱは、もともと小売電気事業者が小売供給用の供給力として確保した電源等であって、緩く表現すれば「そのときに余っていれば、一送にも使わせてもらう」というタイプの調整力であるため、kW対価は支払われず、あくまで実稼働したkWh分だけの対価が支払われる。
この他に電源Ⅲという区分もあり、これは一送からオンラインでの調整ができない電源等と定義されている。オンライン制御が出来ないからといって、何も制御しないわけではなく、九州エリアで多発しているような再エネ出力抑制の実施前には、優先給電ルールに基づき最低出力まで抑制される。
本稿では紙幅の都合上、詳細な2020年度向け調整⼒の公募結果を掲載することは省略させていただくが、ご興味のある読者は、第44回「制度設計専門会合」資料*をご覧いただきたい。
広域機関の調整力委員会では、一送の公募により、必要な調整力が確保されているか否かを確認することを目的としている。
また広域機関では、公募によって一送が確保すべき調整力の必要量の考え方を、毎年事前に定めている。今回前編では代表的な項目だけを取り上げて、後編にて全体像をお示ししたい。
* 一般送配電事業者による2020年度向け 調整力の公募調達結果等について 第44回 制度設計専門会合 事務局提出資料 2019年12月17日
電源Ⅰ・Ⅱの確保量
電源Ⅰに関しては、「2020年度各月のエリア毎の最大3日平均電力(離島除く)に対して7%以上確保すること」と定められており、第50回委員会において、各エリアで必要量以上が確保されていることが確認された。
電源Ⅰ必要量 = 最大3日平均電力 × 7% (沖縄以外の9エリアの場合)
2020年度には電源Ⅰ-aが982万kW、電源Ⅰ-bは158万kW、電源Ⅰ´が427万kW、電源Ⅰ合計で1,567万kWが確保されている。
ただし、沖縄エリアは単独系統であることを踏まえ「単機最大ユニット分+電源Ⅰ-a必要量」に相当するkWの量(30.1万kW)を確保することとなっている。今後、本稿では沖縄を除く9エリアを中心に述べることをご容赦願いたい。
電源Ⅱに関しては、「必要量の上限等を設定せずに募集する」ものと整理されていることから、広域機関では、各一送が契約した電源Ⅱの出力変動幅は最大3日平均電力(H3需要)に対して30%以上確保していることを確認している。エリアによっては70%以上の調整幅が確保されている。
電源Ⅱ-aが13,218万kW、電源Ⅱ-bは335万kW、電源Ⅱ´はゼロ、電源Ⅱ合計で13,553万kWが契約されている。この内、出力変動幅は8月の場合、10エリア合計で6,644万kWとなっている。
調整力というと、一次調整力として用いられる速い電源Ⅰを思い浮かべる読者も多いと思うが、確保量で言うならば電源Ⅱのほうが遥かに多く確保されている(表2)。
出所:第50回調整力及び需給バランス評価等に関する委員会資料より筆者作成この規模感を把握する参考として、容量市場(需給年度2024年度を対象とした、2020年度メインオークション)の目標調達量は17,747万kWである。
広域機関は、電源Ⅰ・Ⅱの構成(2020年8月における全国合計)も公開している。速さが求められる電源Ⅰでは、揚水発電・石油火力が多い結果となっているが、電源ⅡではLNG火力に次いで石炭火力が多く確保されている。
2020年度調整力の確保に関する計画の取りまとめについて 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会事務局 2020年6月11日 第50回調整力及び需給バランス評価等に関する委員会資料より電源Ⅰ´の確保量
電源Ⅰ´(電源Ⅰダッシュ)とは、猛暑や厳寒に対応するための調整力であり、電源に限らずネガワット等の需要抑制、発動時間が数時間であるものや回数制限があるものも含む手段として公募されている。
電源Ⅰ´は、昨年度まで5エリアのみで募集されていたが、2020年度分から全10エリアで募集が開始された。
電源Ⅰ´の必要量は以下の式により算定されている。
電源Ⅰ´=厳気象H1需要×(1-需要減少率)×103%
-{(最大3日平均電力×101%+電源Ⅰ必要量)×(1-計画外停止率)-稀頻度リスク分}
※厳気象H1需要とは、夏季や冬季における厳しい気象条件(10年に1回程度の猛暑・厳寒)における最大電力需要のこと。
この算定式は2020年度には2019年度までの式から、赤字・青字の部分が変更されている。赤字の稀頻度リスク分等の考え方変更により、電源Ⅰ´の確保量は増加している。
また新たに、最大需要発生の不等時性を考慮することにより、需要減少率が加味されることは、電源Ⅰ´の必要確保量の減少要因となっている。全エリアで必ずしも同一時刻に需要ピークとなるわけではない(現実にはピーク時間はバラつく)ことを、不等時性と呼ぶ。
これら増減両方向の要因により、2020年度電源Ⅰ´の確保量は、2019年度の203万kWから428万kWへと倍増している。
電源Ⅰ´の構成は以下の表5のとおりである。デマンドレスポンス(DR)などの需要抑制・自家発電は総量として増加しているが、石油火力等の発電機の増加のほうが大きかったため、全体に対してDRが占める比率は相対的に小さくなった。
2020年度調整力の確保に関する計画の取りまとめについて 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会事務局 2020年6月11日 第50回調整力及び需給バランス評価等に関する委員会資料より(P24)また電源Ⅰ´は2020年度から、エリア外からの調達(広域調達)も開始された。調達量実績は27.4万kWであり、全体の調達量428万kWに対する割合は約6%であった。一般論として、他エリアに存在する安価な調整力を活用できることは、総コスト抑制の観点でメリットがある。
しかしながら、調整力を他エリアから調達するには、あらかじめ地域間連系線の容量を確保しておく必要がある。限られた資源である連系線空き容量を何に充てるか? は悩ましい問題である。
現時点では、エネルギー取引(kWh)を優先させることとして、スポット取引への影響を最小限に抑えるという観点から、調整力のために事前確保する連系線容量には、上限値が定められている。例えば、東西周波数変換装置:FCでは、調整力のための事前確保量はゼロとされている。エネルギー取引のニーズが高い連系線では、調整力のために大きく容量確保することは難しいと考えられる。
次回後編では、2021年度向け調整力公募に向けた課題、電源Ⅰ・Ⅱの必要量はどのような考え方に基づき算定されているのか、などについてご紹介したい。
(Text:梅田あおば)
参照