2050年カーボンニュートラル実現に向けて、再生可能エネルギーの比率をどこまで上げるのか。再エネの導入拡大は重要な論点のひとつだが、その普及スピードや天候による発電量の変動を鑑みると、ある種の現実解として「原子力発電」をどこまで稼働させるのかも、考えるべき論点になっている。事実、次世代原子力である小型モジュール炉(SMR)の導入議論が日本でも起こりはじめた。原子力の最大の課題である「安全性」の壁を乗り越える技術のひとつと称されるSMRについて、もとさんこと本橋恵一が解説する。
目次[非表示]
小型原子炉(SMR:Small Modular Reactor)とは、出力が比較的小さく、パッケージ(モジュール)で製造される次世代原子炉を指す。IAEA(国際原子力機関)の定義によれば、出力が30万kW以下とされ、主流の大型炉(100万kW超)に比べると3分の1から4分の1ほどの規模となり、主流の大型炉よりはるかに小さい。なかには5,000kWというものもあり、マイクロ原子炉と呼ばれている。
実はSMRに近いものはすでに存在している。それが原子力潜水艦だ。潜水艦の内部には、数万kWの原子炉が入っており、それで電力をつくり、海中を走っている。
主流の大型炉より工期が短く、安全性が高いとされるSMRを導入しようと、各国が開発を進めている。10月12日、フランスのマクロン大統領は原子力発電分野での「破壊的イノベーション」に取り組むと宣言し、2030年までに10億ユーロ(約1,300億円)を投じてSMRを複数導入すると表明した。
海外電力調査会によると、世界では73基のSMRが開発中で、アメリカ18基、ロシア17基と、この2国が特に積極的で、全体の約半分を占める。次いで中国8基、日本の7基が続く。
出典:海外電力調査会
世界で唯一、SMRを実用化したのがロシアだ。2020年5月、SMR2基を搭載した海上浮体式原子力発電所(FNPP:Floating Nuclear Power Plant)が運転を開始。また、中国は2021年7月にSMR「玲龍1号」が着工しており、海外電力調査会は「アメリカ、イギリス、カナダの完成時期が2025年以降であるのに対し、ロシア、中国は2020年の運転開始や2021年の運開を予定するなど、先行している」という。
日本でも導入議論が高まりつつあるSMRは、次の4つ特徴を持つ。
ひとつ目が、安全性だ。そもそも原子力発電は、原子炉の中でウランが核分裂するときに出る熱で水を沸かして蒸気をつくり、その蒸気の力でタービンを回して発電している。この原子炉が暴走したとき、原子炉そのものを冷やす必要があるのだが、今、主流の大型の原子炉はポンプで水を汲み上げて冷やさなければならず、電気の供給が途絶えると冷却できない、という問題を抱えている。
一方、SMRは小型であるため、大型炉よりも冷却が早いとされ、しかも、原子炉全体をプールの中に沈めておくことができるため、メルトダウンを起こしにくいとされている。
2つ目が工期の短さだ。SMRは、モジュール化して工場で組み立てて、現地へ運ぶことができるため、品質管理がしやすく、しかも工事期間も短くて済む。
3つ目が核不拡散だ。原子力施設には核兵器への転用を防ぐため核不拡散の原則がある。
SMRは原子炉全体を工場で組み立てて現地に設置することも可能になるとされている。原子炉の持ち運びが可能になれば、発電が終わったら、原子炉全体を撤去することもできるということだ。そうなれば、途上国などにつくったとしても、途上国などがSMRを解体して核兵器をつくることを防ぐことができる。そうした意味では、核不拡散にもつながる。
最後の4つ目が水素製造への利用だ。原子力は電気をつくるだけではなく、発電時に排出される熱を使って水素をつくることも可能だ。原子力による電気エネルギーのみを使って、水を電気分解して製造された水素はイエロー水素と呼ばれ、日本でも研究開発が進められている。
世界でSMR導入に対する関心が高まる背景には、活発化する技術開発がある。そこで次に国内外の開発状況を見ていきたい。
SMR開発をめぐる各国の状況とは・・・次ページ
エネルギーの最新記事