ゴールデンウィークといえば、多くの事業所が休日となるため、電力需要が減少する一方、太陽光発電の発電量が増加する時期だ。しかしそれゆえに、再生可能エネルギーの出力制御にもつながる。これまでは九州エリアにおいて出力制御が実施されてきたが、今年は北海道・東北エリアでも現実的なものとなっている。2021年4月28日に開催された第34回「電力・ガス基本政策小委員会」について報告する。
審議会ウィークリートピック
太陽光発電や風力発電等の再エネ電源の導入量が増加するに従い、北海道・東北エリアにおいて再エネ出力制御の可能性が高まっている。
本稿が掲載される頃には、2021年ゴールデンウィーク(GW)期間中の出力制御実施の有無が明らかとなっているだろう。
第34回「電力・ガス基本政策小委員会」では、北海道電力ネットワーク株式会社(北電NW)および東北電力ネットワーク株式会社(東北NW)から2021年GWの需給見通しが報告されたので、本稿ではこれを報告したい。
北海道エリアでは2021年4月末時点で、太陽光発電は201万kWが連系しており(連系承諾済が別途19万kW)、風力発電は53万kWが連系している(連系承諾済が別途25万kW)。
図1.北海道エリアにおける再エネ導入状況
出所:北電NW
※2021年1月末時点で連系承諾済の量
北海道エリアでは、GW期間中が年間で最も電力需要が低下する時期である。至近5ヶ年のGW期間(5/3~5/5)において、太陽光発電の発電出力が最も大きくなる時間帯(12~14時)の電力需要の平均値は275万kW、最小値は245万kWであった。
北電NWでは2021年のGWの最小需要は、コロナウイルスの影響による電力需要の減少や気象庁の1ヶ月気象予報を踏まえて、250万kWと想定している。
北電NWはGW期間の需給バランス想定として、表1のような2つのシナリオに基づき再エネ出力制御の要否を試算している。
「シナリオ1」は、需要と発電出力のいずれもが至近5ヶ年の平均的な数値であった場合のケースである。シナリオ1では余剰電力は発生しないため、再エネ出力制御は不要となる。
なお火力やバイオマス発電は運転制約等を考慮した最低出力での運転を想定している。
これに対して「シナリオ2」は、需要は上述の250万kWを用いたうえで、水力・太陽光・風力は実績に基づく最大出力で評価したケースである。
表1.北海道エリアGW期間の需給バランス想定
出所:北電NW
シナリオ2の場合、揚水発電や蓄電池の活用により需要を78万kW創出したとしても、さらに28万kWが余剰となることが予想されている。
ここで地域間連系線の活用により全量を他エリアに送電可能であれば、北海道エリア内の出力制御は不要となる。
現在、北海道-本州間には北本連系設備60万kW、新北本連系設備30万kW、の合計90万kWの連系容量があるため、通常であればここがボトルネックになることは考えにくい。
ボトルネックは東北東京間連系線の制約である。
北海道・東北エリアの両方で晴天となり、両エリアが同時に供給過多となった場合、両エリアとも大需要地である東京エリアに送電する必要がある。
東北東京間連系線の容量に十分な空きがある場合は問題が生じないが、連系線に混雑が生じる場合には、公平性の観点から、両エリアからの申出量(供給過多となり連系線を通じて送電せざるを得ない量)により按分して対応する予定とされている。
(例えば、東北2:北海道1の申出の場合、東北東京間連系線を2:1で割付する)
この結果、按分後の割り当て量が北電NWが当初希望した容量より少ない場合、北海道エリア内で再エネ出力制御が必要となる。
図2.東北東京間連系線容量の按分
出所:電力・ガス基本政策小委員会
地域間連系線の増強により、このボトルネックは一定程度解消することが期待される。
北海道-本州間では「新々北本連系設備」が計画されており、2027年度末には30万kWが増強される(既存の90万kWと合わせ120万kWへ拡大)。
また東北-東京間でも455万kWの増強工事が進められており、2027年11月の増強完了が予定されている。
東北エリアでは2021年4月末時点で、太陽光発電は658万kW、風力発電は159万kWが連系している。
図2.東北東京間連系線容量の按分
出所:東北NW
2021年GWのエリア需給見通しに関して、東北NWも2つのシナリオに基づいた試算をおこなっている。
右列のように、エリア需要および再エネ出力を至近2ヶ年の平均値とした場合には出力制御は不要である。
他方、天候や需要の動向次第では、左列のように92万kW程度の再エネ出力制御が必要となる見込みである。
表2.東北エリアGW期間の需給バランス想定
[万kWh]
2021年GWの想定バランス | エリア需要、再エネ出力を 至近年平均とした場合 | ||
エリア需要 | 710 | 724(* 1) | |
揚水運転・蓄電池活用 | 50 | 50 | |
エリア外への送電 | 332 | 332 | |
需要+揚水・蓄電池+他エリア送電 計(①) | 1092 | 1106 | |
供給力 | 水力 | 197 | 197 |
太陽光 | 567 | 490(*2) | |
風力 | 100 | ||
火力・バイオマス他 | 320 | 320 | |
計(②) | 1184 | 1007 | |
下げ調整余力(①-②) | -92 | 99 |
出所:東北NW
(※1) 2020年GWの需要は新型コロナウイルス対策による需要減少が見られたため,2018年,2019年のGW需要を対象とした。
(※2) 2019年4月下旬~5月末の太陽光・風力発電出力合計値の平均値における設備利用率(58%)より算出(2021年4月末、太陽光・風力合計連系設備量(想定値)845万kW×58%)。
この再エネ出力大のシナリオの場合、表3のように変動再エネ比率は総需要に対して61%、純粋な需要に対して94%となる。
太陽光・風力は⾮同期電源であるが、総需要に対する⾮同期電源の⽐率が約50%を超えると、大規模発電所が緊急停⽌した場合に、同期化力・慣性力不⾜から広範囲の停電リスクが増大する可能性があるとの分析が、「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」で示されている。
東北エリアは東電エリアと交流連系しているため、東北エリア内の非同期電源の増加がただちに問題となるわけではないものの、系統の安定性維持の観点からも速やかに対策が進められることを期待したい。
表3.東北エリア GW期間の変動再エネ比率
①太陽光・風力出力合計 | 667万kW |
②需要+揚水・蓄電池+他エリア送電計 | 1,092万kW |
③純粋な需要 | 710万kW |
①/② 変動再エネ比率 | 61% |
①/③ 変動再エネ比率 | 94% |
出所:東北NW資料を基に筆者作成
九州エリアではすでに2018年以降、再エネ出力制御が実施されており、北海道・東北エリアにおいても、送配電事業者および再エネ発電事業者において同様の準備が進められている。以下は東北NWの例である。
(1)再エネ出力制御システムの構築
需給バランスの維持および電力安定供給に向け、再エネ出力制御を効率的に公平かつ確実に実施するため、再エネ出力制御システムを構築。
(2)出力制御機能付PCS(パワーコンディショナ)等への切替対応
太陽光のPCS切替についてはほぼ完了。風力はオンライン制御化を推進中。
(3)オフライン事業者との情報連絡訓練の実施
計4回の訓練実施において、95%程度の実効性を確認。
(4)でんき予報サイトでの再エネ出力制御見通しや出力制御指示内容等の周知
再エネ出力制御の可能性がある場合には、3日前から本サイトにて出力制御の見通しを周知。
なお、オンライン出力制御の対象となる高低圧連系の発電事業者に対しては、通常のインターネット回線経由で出力制御信号を送信している。このためインターネット回線が不通となり出力制御信号が不達となることを未然に防ぐため、出力制御の可能性が高い日をあらかじめ年間スケジュールとして発電所側に事前登録する運用方式を取っている。
このうえで、出力制御が不要となる場合には、年間スケジュール上で予定されている出力制御を「取り消す」信号を送配電事業者から送信する仕組みとなっている。これは電力需給バランス余剰の観点で安全サイドに立った方式と言えるが、取り消し信号が不達となった場合には、不要に再エネを出力制御してしまう。
第34回「電力・ガス基本政策小委員会」では、東北NWの設定誤りにより誤制御が発生した事案が報告された。仮に、意図せぬ不要な出力制御を大規模におこなってしまうと、供給力不足を招くおそれもあるため、適切な制御がおこなわれることを期待したい。
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