新たな再エネ発電の事業者にとって最初の課題は、系統接続の予見だろう。2020年7月16日に開催された第26回「系統ワーキンググループ」での議論の結果、指定電気事業者制度が廃止され、中三社(東京・中部・関西)を含む全エリアで無制限無補償ルールが適用される方針となった。
系統接続の課題と系統ワーキンググループ
系統ワーキンググループとは、当時問題となっていた再エネ電源の系統接続保留への対処や電力会社の接続可能量の検証、接続可能量の拡大方策等について検討を行うことを目的として、経済産業省 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会の下に2014年10月に設置されたワーキンググループである。
2020年7月16日に開催された第26回「系統ワーキンググループ」(以下、系統WG)では、「指定電気事業者制度の見直し」をはじめ、「オンライン代理制御(経済的出力制御)」、「上げDRによる再エネ活用環境の整備」、「ノンファーム型接続の全国展開」等、多くの重要な議題が議論された。
今回はこのうち、指定電気事業者制度について報告する(他の議題については、別稿で紹介する予定)。
様々な課題と2015年のFIT法改正
電力はその技術的理由から、一定の管轄エリアにおいて(他エリアとの融通も含め)、発電と需要を常に一致させる必要がある(同時同量)。2012年7月のFIT開始以降、太陽光を中心として再エネ発電の導入量が急拡大しているため、他の発電種も含む総発電出力が需要を超過する場合には、需給バランスが崩れることによる大停電等を避けるため、それらの出力を抑制(制御)する必要がある。
開始当初のFIT法・省令にはいわゆる30日ルールというものが存在し、「30日以内の出力抑制を行ったとしても受け入れることが困難な場合」には、新たな再エネ電源が接続を申請したとしても、上記の技術的観点から電力会社は接続拒否できることが規定されていた。
ところがこの規定が存在すると、あっという間にこの30日ルール枠に達してしまい、新たな再エネ電源がまったく接続できなくなってしまうという問題が生じてしまう。資源エネルギー庁は当初からこの30日ルールで定める量を「接続量の限界」と表現していた。
これに対して再エネ発電事業者側の強い要望もあったため、FIT法の省令を改正し(2015年1月26日施行)、接続量の限界に至ったエリア(指定エリア)では「30日以内の出力抑制を行ったとしても受け入れることが困難な場合」という条件について、電力会社が接続拒否できる事由から外すこととした。つまり発電事業者が30日以上の出力抑制をあらかじめ承諾していれば、電力会社は接続を拒否できないこととなった。
また、当初(2012年)のFIT法・省令にはもう一つ重要な規定があった。30日を超える出力抑制を行う場合には、電力会社は再エネ事業者に対して、出力抑制によって失った売電収入に相当する金額を補償しなければならないこととなっていたのだ。
この点についても2015年の省令改正により、「30日を超えて出力抑制する場合、金銭補償を不要」とした(30日以内の出力抑制は元々補償の対象外)。この30日ルールで定める量はやがて「接続可能量」と呼ばれるようになった。
2013年4月(FIT開始からわずか10ヶ月後)には、北海道電力が太陽光発電において早くも接続可能量に達したと判断された(実質的な指定電気事業者の第1号)。北海道は風力発電立地の有望なエリアであるため、「その導入余地を残しておく必要がある」とエネ庁資料にも明記されている。
2015年1月の省令改正は第3回系統WGや第8回「新エネルギー小委員会」での検討を経て行われた*。系統関連の主な変更・改正点を改めてまとめる。
- 太陽光発電、風力発電について、無補償の出力制御の対象範囲を500kW未満の設備にも拡大。
- 太陽光発電、風力発電について、無補償の出力制御の上限を日数制から時間制に変更 (太陽光発電:年間360時間を上限、風力発電:年間720時間を上限)。
- 電力会社から出力制御するための遠隔出力制御システムの導入義務化。
- 指定電気事業者に対して、出力制御の見通しの公表を義務付け。
この時点から太陽光・風力発電の接続量・接続申込量が30日等出力制御枠を超過した、電力会社(一般送配電事業者)が「指定電気事業者」と呼ばれるようになる。
これに先立つ2014年12月に、前述の北海道電力に加えて、東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力の6社が追加で指定されていた(沖縄は太陽光のみ指定電気事業者に指定されている)。
*経産省プレスリリース「再生可能エネルギー特別措置法施行規則の一部を改正する省令と関連告示を公布しました」2015年1月22日
指定電気事業者制度が抱える問題
これ以降、各指定電気事業者は「接続可能量」と「出力制御の見通し」を毎年公表してきたが、「接続可能量」という名称が「これ以上は接続が不可能である」という誤解を生じさせる恐れがあった。このため、FIT制度において電力会社が30日、360時間(太陽光)、720時間(風力)の出力制御の上限を超えて出力制御を行わなければ追加的に受入不可能となる時の接続量については、「30日等出力制御枠」と名称が変更された。
需要の変化や電源構成の変化等により毎年算定する数値は「○○年度算定値」と命名されたが、現在でもこれを単に「接続可能量」と呼んでいる。本稿でもこれに従う。
必要に迫られてやむなく開始された指定電気事業者制度であるが、新制度開始後に新たに接続する再エネ電源は無制限の出力抑制が掛かる可能性があるのに対して、古くから接続していた電源は30日等の上限があるという、公平性の観点での問題が生じている。
また、新制度後の再エネ電源は、オンライン遠隔操作によりタイムリーに制御できることにより系統運用の柔軟性に一定の貢献が可能となっているが、古くから接続していた電源は電話等の連絡による人間による操作が必要となるため、系統運用に対して硬直的であるという問題も生じている。
指定電気事業者制度の見直し
上記のような問題に対処するため、「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 中間整理(第3次)」(2019年8月)において、出力制御に係る事業者間の公平性の確保、必要な制御量や調整力を確保していく観点から、中三社(東京・中部・関西)を含め、30日等出力制御枠や指定電気事業者制度の見直しについて検討を行うことが求められていた。
今回の第26回系統WGで公表された、中三社の太陽光・風力発電の接続量・接続申込量は表1のとおりである(2020年3月末時点。エネ庁資料に筆者加筆)。
現在、中三社では30日等出力制御枠は設定されておらず、新規に接続する発電事業者には360/720時間ルールが適用されている。
いずれも接続検討申込量は、事業者が1発電所に対して複数地点に検討申込を行ったものを含む(つまり現実の接続量はこれより小さくなる)ことに留意願いたい。
東京エリアは需要規模も大きいが、かなり多くの接続済み・接続申込量が存在することが分かる。
中三社の接続可能量の算定結果
本稿では紙幅の都合上、東京エリアの接続可能量の算定結果だけを示す。
以下の3ケースにおいて、太陽光・風力の接続可能量を算定したものが表2である(エネ庁資料に筆者加筆)。
この接続可能量と、先ほどの「接続量・接続契約申込・接続検討申込」量を重ねたものが以下のグラフ2である。
ケース1の場合、太陽光の接続可能量はすでにゼロという驚くべき結果となっている。
この算定に用いた最小需要日のkWバランスは以下の表3のとおりである。
一般水力を含む再エネ供給力は需要に対し127%となっており、大きな再エネ出力制御が発生することが分かる。
連系線活用がゼロとなっているが、東京エリアでの再エネ抑制時には他エリアも既に再エネ抑制を実施していることが想定されるため、地域間連系線を用いたエリア外への送電は織り込まないことが、他エリアの算定とは異なる点である。
なお本稿では接続可能量の算定条件の詳細説明は割愛したが、原子力で793万kWの出力があるなど、一定の仮定を置いていることには留意が必要である。
既得権益ではない、公平なルールを
出力制御対象を拡大する(対象発電所数が増加する)ことは、1発電所あたりの制御日数・時間数を抑制する効果がある。皆が薄く広く負担することにより、特定の層(将来、再エネ発電所を建設する人)に負担が偏ることを避けることが期待される。
以上の議論を踏まえ系統WGでは、出力制御に係る事業者間の公平性の確保、必要な制御量や調整力を確保していく観点から、可能な限り早期に指定電気事業者制度を廃止し、全エリアについて無制限無補償ルールを適用することが合意された。
再エネの分野においても「先着者が有利」であることが一種の既得権益化となっていないか、事業者の予見性確保とのバランスを踏まえた慎重な検討が期待される。
(Text:梅田あおば)
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