テスラのミッションとEVバッテリーの深い関係 シリーズ:バッテリーからテスラを解剖する 01 | EnergyShift

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テスラのミッションとEVバッテリーの深い関係 シリーズ:バッテリーからテスラを解剖する 01

テスラのミッションとEVバッテリーの深い関係 シリーズ:バッテリーからテスラを解剖する 01

EnergyShift編集部
2021年03月29日

テスラという企業の事業を見渡してみると、EVはもちろん、家庭用太陽光発電、そして産業用蓄電池など、企業としての根幹に横たわるのは、バッテリーだ。自然エネルギーの普及、そして持続可能な社会の命運はバッテリーが握っているといっても過言ではないが、テスラはそのことを、どの企業よりもよくわかっているのではないか。

これから5回にわたり、テスラの各事業をバッテリーから分析するレポートをお届けする。テスラという企業は、バッテリーでも最前線を走っているのだろうか。初回となる今回は、テスラのミッションについて再確認し、EV用バッテリーの最新動向について見ていく。

テスラの考える未来の3つの柱は、持続可能なエネルギーの生成、貯蔵、EV。

テスラは同社のミッションを、「世界の持続可能エネルギーへのシフトを加速すること(Tesla's mission is to accelerate the world's transition to sustainable energy.)」だとしている。

2020年秋、株主総会とともに野外で開催されたBattery Dayの中でもイーロン・マスクは、「持続可能な未来の3つの柱は、持続可能なエネルギーの生成、貯蔵、およびEVの普及であり、テスラはその全てで重要な役割を果たす」と語っている。


2020年のBatteryDayより

エネルギーの貯蔵では、テスラは現在、太陽光パネルと屋根が一体化されたSolar Roofが生成した余剰電力のほか、電力網から電気を蓄電し、自宅に供給することができる家庭用蓄電池Powerwallを販売している。

また、商業用には、より高い管理能力、信頼性、および安全性を保証したPowerpackを生産しているほか、より大規模で送電網への電力供給方法を根本的に変革する産業用蓄電システムMegapackの展開も始めている。

電力のリアルタイム取引プラットフォーム、Autobidder

テスラは、再エネや蓄電池などの電気をリアルタイムで取引することができるプラットフォーム、Autobidderを開発、提供している。すでに南オーストラリアの電力市場に実装され、運用されているほか、米国でも導入されている。

2020年6月からAutobidderは、ヨーロッパ電力取引所ともリンクした。実際に参入したのは、中央・西ヨーロッパおよび英国の電力スポット取引市場だ。蓄電池を所有するエネルギー事業者や電力会社は、Autobidderによって、充電や売電を制御し、収益を最大化することができる。5月にはイギリスで電気事業者として申請が出されたとの報道もあった。


Autobidderの画面

イーロン・マスクのテキサスでの活動を見てきたアングルトンの元市長はBloombergの取材に対し、「イーロン・マスクが発電会社を立ち上げても驚くことはない」と語っている。以上を考えると、今後、テスラが発電事業に本格参入する可能性も、十分にあると言えるだろう。

航続距離!航続距離!航続距離!

さて、EVのバッテリーだが、それは(当然だが)航続距離に直結する問題だ。EVの航続距離は、今まではEVの弱点の一つだと言われていたが、テスラはその常識を塗り替えようとしている。

現在、EVバッテリーの主流はリチウムイオン電池だが、スマートフォンのように小型のものとは違い、車を動かすとなると搭載する電池容量のバランスが重要になる。航続距離を伸ばすためには電池は大きければ大きい方が望ましいが、大きすぎると車全体の性能を落とすことになってしまうからだ。

そうした悩みを打ち破るかのように、テスラ・モデルSのロングレンジ・プラスは昨年6月、アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)の基準の下で402マイル(約644km)を超える航続距離を記録した。現時点で世界最長の航続距離だ。2012年には同じモデルSで265マイルだったことを考えると、かなりの飛躍となる。

これはバッテリー性能だけではなく、ホイールやタイヤ、ドライブユニット、ブレーキ機構など、車の性能全体を見直したからでもある、とテスラはブログで述べている(下は400マイル突破の際のイーロンマスクのツイート)。

2019年モデルと比べ航続距離を2割伸ばしたニューバージョンのモデルSは、すでに昨年から米・カリフォルニア州フリーモントのテスラファクトリーで生産されている


カリフォルニア州フリーモントのテスラファクトリー

冬には冬の電力対策

また、先日発表された最新の決算報告書では、モデル3とモデルYに最新のモーター技術とヒートポンプを組み入れたことにより、冬期の航続距離が伸びたとしている。冬期の冷たい空気は夏に比べ抵抗が大きいことや、ガソリン車と違い熱を放出しないEVでは、車内を暖めるために電気を使用することなどがあり、こうした気温の上下にもEVの航続距離は影響を受ける。

従来使用されていたPTCヒーターと呼ばれるヒーターは、バッテリーの電気を電気抵抗(ヒーター)に通して熱を発生させる一方、新しく採用されたヒートポンプは、熱交換器で外気の熱を冷媒で回収し、バッテリーの電気で駆動させる空気ポンプで加圧、圧縮し熱を発生させ、温風で車内を暖める。

簡単に言えば、前者は、家庭用電気ヒーター、後者はエアコンと同じ仕組みである。PTCヒーターは電力消費が大きく航続距離を減らしていたが、それが改善された。

Battery Dayで発表されたタブレスバッテリー

Battery Dayが開催される直前、いよいよ全固体電池が発表されるのではないかという期待が、世界中で湧き上がった。しかし、結果から言うと全固体電池への言及はなかった。

その代わりといってはなんだが、より低コストで生産可能な新しいバッテリー・アーキテクチャを発表。従来比で5倍のエネルギーを貯めることができ、116%の航続距離、6倍の出力をもたらすポテンシャルがある。これこそが、テスラの新しいタブレスバッテリー、4680だ。


4680バッテリーの構造

タブレスとは、電極の終端部である「タブ」を排し、上部すべてを電極にするという離れ業だ。これにより電子の移動による発熱が少なくなり、大径のバッテリーセルが作成可能になるとのこと。現在のセル2170よりもかなり大きい。大きさが寄与して、現在の2170セルは5,000mAhだが、4680は~9,000mAh程度になるとの報道もある。バッテリー寿命も従来構造よりも長くなる。

このいいこと尽くしの4680は、Battery Dayでの発表時点では実験的な製造がおこなわれているとした。

同時にEVの製造ライン改革にも意欲的だ。これらバッテリー性能と製造効率の向上により、3年後には25,000ドル(約270万円)で完全自動運転のEVを販売することが可能になる見通しだと述べた。

脱炭素社会へEVが利便性でガソリンを上回る時代はもうきている

ガソリン車から排出される二酸化炭素が地球温暖化に大きく影響しているため、電気で動くEVは、従来、環境の側面から見られることが多かった。

確かに、各国が2050年までの脱炭素を掲げる中で、EVの普及が鍵を握っていることは言うまでもない。

しかし、今回紹介したテスラのバッテリーに関する最新の動向を見てみると、もはや利便性の面でもEVがガソリン車を上回る時代が来つつあると言っても過言ではないと感じる。

テスラのバッテリーへの開発意欲は飽くことを知らない。4680バッテリーの搭載も時間の問題だろう。やはり、EVのバッテリー開発がテスラ全体を牽引しているとみて間違いなさそうだ。

第2回:テスラの家庭用バッテリー、ソーラールーフとパワーウォールについてはこちら

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