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テスラバッテリーの生産と研究体制に死角はあるか シリーズ:バッテリーからテスラを解剖する 04

テスラバッテリーの生産と研究体制に死角はあるか シリーズ:バッテリーからテスラを解剖する 04

EnergyShift編集部
2021年04月01日

テスラの事業を見渡してみると、その根幹に横たわるのは、バッテリーだ。自然エネルギーと持続可能な社会の命運はバッテリーが握っているといっても過言ではない。テスラはそのことを、どの企業よりもよくわかっているのではないか。

テスラの事業をバッテリーから横断してみる本連載、EV用バッテリーとエネルギー関連製品の研究開発と生産拠点、特に現在報道されている工場建設計画について報告する。

エネルギー関連製品をまとめてみる

現在展開しているエネルギー関連製品は下記の4つ。ただし、それぞれのエネルギーストレージは並列して使用することで容量を増やすことができる。例えば、テスラの公式ホームページで紹介されているPowerpackの事例(Jackson Family Wine)では、最大24台接続している 。

Megapackについては公式ホームページには出力が掲載されていないものの、2020年1月にカナダのセント・ジョンに導入されたMegapackは1.25MWの出力であると報道されている。

製品機能特徴
Solar Roof屋根一体型太陽光パネルVersion 3
Powerwall家庭用蓄電池13.5kWh/7kW

最大10台まで並列可能

Powerpack商業用蓄電池232kWh/130kW
Megapack商業用大規模蓄電池3MWh/1.25MW

研究開発状況は

今回の連載で紹介したエネルギー関連製品の最新の研究開発についてまとめておきたい。

テスラは昨年夏より、南オーストラリア州政府と共同で、Powerwallを使った世界最大のバーチャルパワープラント(VPP)の実証実験を行っている。この実験の中では、VPPの商業化への道筋を示すための技術的能力の検証が行われている。

EV用バッテリーについては昨年秋のBattery Dayの中で、新型のリチウムイオン電池「4680」の開発に着手していることを発表。現行のモデル3の価格を下回るEVが、3年後に発売できるとしている。


Battery Dayより 左からテストベンチ(検証)、ラボ、パイロット版。「シンプルなことが難しい」

Solar Roofについては先日、新型のタイルがテスラのテストハウスで見つかっており、ほかの事業に比べて苦戦しているSolar Roofの巻き返しが期待されている。

日付製品内容
20年08月Powerwall南オーストラリア州で実証実験開始
20年09月EV用バッテリー新型電池「4680」の開発発表
21年03月Solar Roof新作タイルの試験が発覚

世界へと広がる生産拠点

テスラは現在、全世界に7つの生産拠点を展開しており、その内5拠点が稼働している。EVに欠かせないのがリチウムイオン電池だが、全世界で急速にEVにシフトしていく中でその膨大な需要に応えるため、テスラはネバダ州にギガファクトリーを建設している。

すでに稼働を始めている同工場では、予測されるEV需要の増加に応じてバッテリーを供給することができ、現在、モデル3のドライブトレインおよびバッテリーパックのほか、エネルギーストレージ製品PowerwallおよびPowerpackが製造されている。

稼働(予定)都市製品
2010フリーモントモデルS, X, 3, Y
2013ティルブルフモデルS, X
2016ネバダEV用バッテリー, エネルギーストレージ
2017ニューヨーク太陽光発電関連, スーパーチャージャー
2019上海モデル3, Y
2021ベルリンEV用バッテリー, モデル3, Y
2021テキサスモデル3, サイバートラック

一方、太陽光発電(Solar Roof)やモジュールなどの製品は、ギガファクトリー2と命名されているニューヨーク州バッファローの工場で生産されている。2019年には、スーパーチャージャーやエネルギーストレージの電気部品などを生産するラインを新たに追加している。

テスラのベルリン新工場の意味するところ

また、2021年中に稼働を予定しているベルリンのブランデンブルク州に建設中の新工場には、世界最大級のリチウムイオン工場が併設されると発表されている

世界最大のEV市場である欧州では、独フォルクスワーゲン(VW)が昨年、純EV販売でテスラを抜いて首位に浮上しており、アナリストからは、欧州市場における販売押し上げはこの工場にかかっているとの指摘も出ている。

ニュー・ストリート・リサーチの分析によると、テスラは現地生産により輸送や保険、関税などのコストを減らすことができるため、欧州でのモデル3の価格を最大20%引き下げることが可能になる見通しだが、これは日本人には見覚えがある光景ではないだろうか。

テスラは2021年2月、日本におけるモデル3の価格を最大で約24%(156万円)引き下げた。これは、日本への出荷元をこれまでのフリーモント工場から上海工場へ切り替えたことで可能になったが、この価格改定以降、日本ではモデル3の売り上げが急増している。試乗するにも3週間待ちの状態だ。

テスラは現在、世界中に工場を建設する計画を立てているが、これらの計画が様々なコストを削減し、より一層製品の価格を引き下げていくことになるだろう。


ベルリンで建設中のギガファクトリー

東アジアへの進出計画

2021年に入り、インドネシアとインドに、テスラの工場を誘致する計画が存在することが明らかになった。インドネシアはEV用バッテリーの重要素材であるニッケルの生産、また、インドはリチウムイオン電池の部品において、それぞれ大きなシェアを持っており、テスラがアジアでバッテリーの供給計画を着々と進めていることが分かる。

インドネシアでの計画の詳細は明かされていないが、インドネシアは2020年1月よりニッケル鉱石の輸出を禁止しており、政府としては原材料の販売だけではなく、完成品まで国内で生産し、サプライチェーンを展開することを目標としている。リチウムイオン電池の生産を中心に、エネルギーストレージの生産にも言及している。

一方のインド政府も、製品の組み立てだけではなく製品全体をインドで生産することを求めており、ガドカリ運輸相が、「テスラがインド国内でのEV生産を決めた場合、中国より確実に低いコストで生産できるよう対応する」と述べたとロイター通信が報じた。

生産拠点の世界での拡充がテスラの成長のキーになる

連載の1回目で紹介した通り、テスラが作るEVは、すでに性能の面でガソリン車を超えつつあり、環境意識のいかんに関わらず、市場で受け入れられ始めている。従来、そんなテスラ車の障害になっているものの一つが価格だった。ところが、生産拠点が広がるにつれてその状況も変わってきている。

例えば、先述のモデル3廉価グレードの「スタンダードレンジプラス」は、日本国内での販売価格が429万円に引き下げられたが、国や自治体がEV購入に支給する補助金を加えれば300万円台から買える計算になる。つまり、ガソリン車と価格でも競争できるレベルに到達しているのだ。

電池工場がアジアに生まれれば、さらに下がるだろう。

それだけではない。生産設備の効率化がEVの価格を引き下げることも、第1回で紹介した通りである。EVが当たり前になる時代は、我々の目の前まで来ているのである。

第5回:環境負荷からみたテスラという企業はこちら

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