テスラの事業を見渡してみると、その根幹に横たわるのは、バッテリーだ。自然エネルギーと持続可能な社会の命運はバッテリーが握っているといっても過言ではない。テスラはそのことを、どの企業よりもよくわかっているのではないか。
テスラの事業をバッテリーから横断してみる本連載、今回はテスラの太陽光発電Solar Roofと、家庭用蓄電池Powerwallの最新動向について見ていく。
目次[非表示]
短期集中連載:バッテリーからテスラを解剖する
1:テスラのミッションと根幹をなすEVバッテリー
2:テスラの家庭用バッテリー:ソーラールーフとパワーウォールは巻き返せるか(本稿)
3:産業用大規模バッテリー:パワーパックとメガパック、テキサス子会社Gambit
4:テスラバッテリーの生産と研究体制に死角はあるか
5:環境負荷からみたテスラという企業
2021年2月、Youtubeのテスラ公式チャンネルにひとつの動画がアップされた。
At Home:Solar Hardwareという名のその動画は、テスラの描く家庭用ソリューションをわかりやすく紹介している。
そこに出てくるのは、屋根そのものが太陽光パネルになっているSolar RoofとSolar Invarter、そして、Powerwallだ。これらをテスラは「Solar Hardware」としてひとつの事業として紹介しているのだ。
まず、屋根そのものが太陽光発電パネルとなる、Solar Roofからみていく。現在のSolar Roofは、2019年11月に発表された第3世代になる。
Solar Roofそのものの構想がはじめて発表されたのは2016年のこと。ところが、その初代は出荷が遅れ、設置契約数は伸び悩んだ。2019年8月にはウォールマートの火災もあった。
それらを乗り越えて発表された第3世代のSolar Roofはタイルを大型化し材質も変更、組み立てに必要な部品数も半減した。25年保証、時速110マイル(秒速49m)の風や5センチの雹にも耐える頑丈さだ。このSolar Roofのタイルは、ニューヨーク州バッファローにあるテスラの工場「ギガファクトリー2」で生産されている。
「改良を重ねていたバージョン1や2とは異なり、バージョン3は偉大な完成品になった。今後数ヶ月でソーラーの設置件数は週に1,000件を超える。Solar Roofは爆発的に成長し、将来的には週に1万件の設置を目指している」と発表当時のイーロン・マスクも自信をのぞかせていた。2020年6月には値下げも発表し、業界最低価格を謳っている。
しかし、昨年末、2020年の決算報告によると、Solar Roofの2020年通期のソーラーパネルの導入量は(わずか)205MWだった。
同報告書では、それでも前年比18%を達成し、業界をリードする価格設定の結果であり、また、設置の効率を向上させ、組織を拡大していると未来志向の報告を行なった。
ただ、四半期導入量が過去最高で200MWだったことを踏まえれば、第3世代の成長が順調に進んでいるとは言いがたい。
唯一、期待出来るニュースといえば先日(3月2日)、テスラのテストハウスに「茶色のSolar Roof」が確認されたことである。これは開発中のあたらしいSolar Roofではないかと噂されている。
#FremontFollies As promised, closeups of those entirely solar-free "solar testing fixtures" which are located at https://t.co/Mw2n745kzy. Have at it, analysts. $tslaQ $TSLA #ThereIsNoSolarRoof pic.twitter.com/iZJc0Ewyqp
— Machine Planet (@Paul91701736) March 1, 2021
テスラのテストハウスで見つけられた「茶色い屋根」
イーロン・マスクは強気だ。テスラのニュースを配信するTESLATIによれば、イーロン・マスクは昨年、「2021年はSolar Roofの年になる」と話したという。第3世代が発表されてからまる1年半が経つSolar Roof、今年、あっと驚く新展開があるかもしれない。
Powerwallは、Solar Roofが生成した余剰電力や、電力網から電気を蓄電し、柔軟に自宅に供給する家庭用蓄電池だ。もちろん、通常の太陽光パネルでも使用可能。
昼間に発電した電力を夜間の消費に当てることができるほか、電力網の停電を検知すると自動で電気を供給する。単体での利用も可能だが、テスラが見据えるのは、Solar Roof、Powerwall、そしてEVの三味一体によるクリーンエネルギーのエコシステムである。
こちらのバッテリーの売れ行きは良く、2020年4月にテスラは10万台目のPowerwallを設置したと発表。最新の決算報告によれば、住宅事業の成長に伴いPowerwallの需要は増加しており、生産も順調に進んでいるため、今年の前半にさらなる供給の増加を見込んでいるという。
現在のPowerwallは第2世代で2016年10月発表。リチウムイオンで13.5kWh、ギガファクトリー1(Giga Nevada)でつくられているそのセルは、(2020年のbattery Day発表の)4680ではなく、(まだ)2170になる。Giga Nevadaはパナソニックとの合弁でできた工場だ。そして、パナソニックは同工場で4680開発着手の報道もある。
Powerwallは2016年の第2世代からすでに5年近くが経とうとしている。つまり、こちらも4680搭載の第3世代がいつ出てもおかしくない。そうなると、Solar Roofとともに大きなてこ入れになるだろう。
Giga Factory Nevada(2019年12月)
テスラは南オーストラリア州政府の支援を受け、潜在的に5万軒の太陽光発電とテスラのPowerwallが構築する世界最大のバーチャルパワープラント、南オーストラリア州バーチャルパワープラント(SA VPP)を開発している。正式なスタートは2020年8月。
このプロジェクトでは、VPPの商業化への道筋を示すための技術的能力の検証のほか、SA VPPが商業的に可能であるか、また、顧客にとって魅力的であるかを実証分析で検証している。
ところで、Powerwallは2020年春に日本での販売を開始している。日本では余剰電力買い取り制度に関しては、2019年11月から10年間の買い取り期間が終了しており、発電した電力を効率的に自家消費する必要性が高まってきている。
価格が82万5,000円(税抜き)と日本国内で流通している家庭用蓄電池の3分の1程度で収まることや、他メーカーの太陽光発電システムと連携できることもあり、Powerwallは今後日本でも広まっていくことだろう。
Teslaのメディア用資料より 日本家屋にもピッタリ
2021年の2月中旬、テキサス州で天然ガスパイプラインの凍結などによる停電が発生した。このさ中、テスラのSolar RoofとPowerwallによる電力供給で助かった人がいたという報道があった。テスラが2019年にソフトウェアアップデートでEVに導入した「キャンプモード」により、バッテリーを消耗することなく空調と照明を利用し夜を越した人もいたという。
さらに、Solar Roofを設置していた家庭では、大雪で堆積した雪を、放出した熱で溶かし、屋根に雪が積もることがなかったという。
図らずも、テキサスを襲った大規模災害が、テスラが構想する太陽光エネルギーによるエコシステムの強靭さを証明したのだ。
Snow caught in action... sliding right off a Tesla Solar roof in Austin, Texas @elonmusk pic.twitter.com/GISPuLluSI
— Tesla Owners Austin (@AustinTeslaClub) February 22, 2021
Solar Roofで雪がとけている様子
Solar RoofとPowerwall、今はまだ、全体として苦戦している印象を受ける。しかし昨年は創業後初めて通期での営業黒字を達成し、儲からないと言われていたEV事業は年50万台の生産目標に到達し軌道に乗せた。
「2021年はSolar Roofの年になる」と意気込むイーロン・マスクの姿からはエネルギーシステム全体を自らの手で刷新する気概が見える。その中において、家庭用のハードウェアは重要性を増してゆくだろう。
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第3回:テスラの産業用大規模バッテリー:パワーパックとメガパックはこちら。
*EnergyShiftの「テスラ」関連記事はこちら。「バッテリー」関連記事はこちら。
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