サステナブル(持続可能)なスポーツへと進化するこれからのゴルフ場 | EnergyShift

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サステナブル(持続可能)なスポーツへと進化するこれからのゴルフ場

サステナブル(持続可能)なスポーツへと進化するこれからのゴルフ場

2020年10月02日

ゴルフ場といえば、一昔前までは乱開発の象徴のように思われてきた。しかし、自然との共生を前提とするスポーツゆえに、よりいっそうのサステナビリティが問われてくるものでもある。プロフェッショナルロングドライバー(ドラコンプロ)でもあるafterFITの安達愼氏が、サステナブルなゴルフ場の最前線を報告する。

緑あふれる自然と戯れることができるゴルフの楽しさ

読者の皆様の中にはゴルフをなされる方も多いでしょう。

都会の喧騒の渦から離れ、緑あふれる静かな場所で、豊かな自然と戯れることができるゴルフ。とても楽しいですよね。

ドラコンプロの私は、ドライバーショットの甲高い打撃金属音とともに、風を切り裂きグリーンに突き進むゴルフボールの放物線の姿がたまらなく好きです。ラウンドで、パー4のミドルホールやパー5のドッグレッグならば、まずホールインワンを狙います。同行者やキャディーの方が、その無謀にも映る姿を「こんなシーン、初めて見た!」と驚いて楽しんでくださり、その見守って下さる時間を共有できることをとても嬉しく感じております。

ゴルフ場の大きさを想像してみよう

世界には様々なスポーツがあるのですが、ゴルフほど広大な自然を相手にするものは、他には見当たらないでしょう。

日本の国土全体で考えてみましょう。ゴルフ場をひとつ建設するのには、一般に100ヘクタールが必要とされています。日本には2,500ほどのゴルフ場がありますので、ゴルフ場の総面積は25万ヘクタールになります。ゴルフ練習場を除いてもこの広さです。

国土交通省の最新の『土地白書』によると、平成30年における我が国の国土面積は3,780万ヘクタールであり、内訳は、森林2,503万ヘクタール(66.2%)、農地442万ヘクタール(11.7%)、道路140万ヘクタール(3.7%)、水面・河川・水路135万ヘクタール(3.6%)、原野35万ヘクタール(0.9%)、工業用地16万ヘクタール(0.4%)、その他389万ヘクタール(10.3%)となっており、こうした生活空間「以外」の用途で、国土の96.8%を占めております。

残りのわずかな面積のみが、生活空間となる住宅地120万ヘクタール(3.2%)です。25万ヘクタール(0.7%)以上もあると推定されるゴルフ関連用地は、日本の人口1.2億人が日々生活をする宅地面積の5分の1に匹敵する大きさとなるわけです。その広大さが日本の『土地白書』からも読み取れます。

ゴルフの歴史

歴史的に見ても、ゴルフというスポーツはとても古く、1457年3月6日のスコットランド議会で、当時の君主ジェームスII世がゴルフ禁止令を出したことが記録に残っています。

この画像は、スコットランドでゴルフが行われていたことを示す最古の文書です。当時のスコットランドは、イギリスやフランスなどの隣国との戦闘態勢の渦中。軍事訓練が12歳以上のすべての男性に義務づけられていたにもかかわらず、スコットランド兵士たちは教会の庭や通りなどの公共の場でゴルフを楽しんでいたそうです。

この1457年のゴルフ禁止令は1471年と1491年にも繰り返されたので、ゴルフは法律を飛び越え、大流行していたと考えられます。

ゴルフ場建設が及ぼす環境破壊を凌駕する

2016年、リオオリンピックのゴルフ競技のために、リオデジャネイロ市内にすでに2つのゴルフ場があるにもかかわらず、さらに、ゴルフ場が新設されました。

選ばれた土地は、野生植物、動物 (238種の絶滅危惧種を含む) が豊富に生息するマラペンディ環境保護区域内に位置していました。環境活動家と州検察官らはゴルフ場建設の決定に対して即座に抗議し、プロジェクトに環境許可を与えた市の決断に異議を唱え、起訴をしました。しかしながら、建設中止への要求は、裁判所によって却下され、建設工事は6,000万レアル (約19億円) のプロジェクトへと進みました。残念ですが、そのような、コンセンサスを得られないゴルフ場の無謀な開発については、自然破壊となってしまうのも事実です。

しかし、それらのネガティブ要素を凌駕できるポジティブ要素も、自然に囲まれたゴルフ場には、豊富に揃っております。樹木に差し込む光、美しい景色、可愛い小鳥のさえずり、風が吹き抜ける森、香りや鮮やかな色に魅了される野花、グリーンを灌漑するスプリンクラーの放水にかかる虹、コース上で知り合うゴルファーへの優しい気遣い、クラブハウスでの名産の飲食、地元キャディーさんたちとの親しみのある会話など、心和む状況に、あふれかえっています。ゴルフを楽しむことは、持ちつ持たれつの関係性で、地域社会に依存し、地域経済に貢献していることが、イメージされます。

ゴルフは、世界にある他の多くのスポーツがそうであるように、単独で存在し、遂行されるものではなく、より幅広い生態系の一部を構成し、社会的、環境的、経済的にも、互いに溶け合うバランスが必要とされているといえるでしょう。

だからこそ、ゴルフにはサステナビリティ(持続可能性)の考え方がより必要なのです。

サステナブルなゴルフの推進

サステナビリティという言葉ですが、そのルーツは1987年の世界環境委員会での、開発報告書「Our Common Future」(別名「Brundtland Report」)の中で、「将来の人間世代の欲求も満たしつつ、現在の人間世代の欲求も満足させるような開発」という概念で初めて表現されました。

この中には、経済的、人間的、環境的な保護の要素も含まれています。サステナビリティとは、「グリーン」という環境保護的な意味だけではなく、ビジネスを成功させるための「人、地球、利益の3つのボトムライン」に焦点が当たっています。

ゴルフ競技の世界的な総本山として知られる英国のゴルフ組織であるロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフ・クラブ・オブ・セント・アンドリュース(The Royal and Ancient Golf Club of St Andrews 以下、R&A)の思想は、サステナブルなゴルフについて、経済的に健全であり、社会的に責任ある管理の下で、自然環境の保全と調和したゴルフ場のプレーの質を最適化すること。

この考え方は、各々のゴルフ場や施設の限られた予算範囲内で、汚染、水の使用、エネルギーの使用、廃棄物の発生を最小限に抑えながら、ゴルフ競技の質、自然保護、会員、ビジター、スタッフ、近隣住民へのプラスの価値を最大化するような場所を管理・維持することと考えています。

サステナブルなゴルフをサポートする様々な認証プログラム

オーデュボン・インターナショナルは、ニューヨーク州トロイを拠点とする非営利の環境教育団体です。

1987年に設立されたこの団体は、36ヶ国のコミュニティ、土地開発者、リゾート、ゴルフ場と協力して、持続可能な自然資源管理を計画し、実施するとともに、教育、技術支援、認証、認定を通じて、オーデュボン・インターナショナルは世界中で環境的に持続可能な管理方法を実践しています。

認証するオーデュボンサンクチュアリプログラムは、組織や企業がゴルフ場の自然環境を保護しながら収益を向上させることを支援するための受賞歴のある教育・認証プログラムです。このプログラムの「plan-do-check-act」アプローチは、効率性を向上させ、資源を節約し、保全活動を促進する環境管理計画を実施するための情報とガイダンスを提供しています。

オーデュボンサンクチュアリプログラム認証

米国ゴルフ場管理人協会(GCSAA)のベストマネジメントプラクティス(BMP)計画ガイドとテンプレートは、州レベルでのゴルフ場のBMPプログラムの開発のために役立っています。

栄養塩分、干ばつ、水管理、害虫管理など、ゴルフ場管理のためのBMP計画の必要性は、これまで以上に高まっています。ゴルフ場は、その多くが周辺住民の監視下にあるため、住民、メディア、環境保護活動家の利権団体から、投入物(農薬や殺虫剤など)の使用や、ゴルフ場の管理方法への監視が強化されています。

BMPプログラムのゴルフ場例

ゴルフ業界が持続可能な土地管理の方法を示すことは非常に重要です。具体例では、チェサピーク湾やメキシコ湾のような政策・規制の対象となった地域の精査などを行い、フロリダ州、ジョージア州、ミシガン州、ニューメキシコ州のGCSAA加盟支部では、BMPを推進しています。ニューヨーク州、オレゴン州、バージニア州は、その成功と重要性を実証しています。

GEO(Golf Environment Organization)は、ゴルフの根底にある社会的・環境的価値の歴史を基に、ゴルフを持続可能なスポーツとビジネスのリーダーとして位置づけようとしています。

野生生物の保護、あらゆる年齢層の健康と福祉、地域のサプライチェーンを通じた雇用と経済的価値など、多くの点で、ゴルフは自然と地域社会にとって有効と考えています。

GEO Certified®は、ゴルフ業界の3つの主要分野、すなわち、ゴルフ施設の運営、ゴルフ場開発と改修、ゴルフトーナメントのために特別に開発された、包括的で現代的な認証です。この認証は、自然、資源、地域社会に関連した真の成果と継続的な改善を伝えるための信頼できるプラットフォームとしての役割を果たしています。

GEO認証取得を希望するゴルフ場は、getoncourse.golfにあるOnCourse®ウェブアプリを使用して、自然、資源、コミュニティに関する実践、重要なデータ、ハイライトを簡単に記録し、それの検証者は、現地視察を含めて、基準に照らして提出物を評価し、将来の改善のための良い機会について有益なアイデアを提供し、その後、GEO認証を取得となります。

OnCourseウェブアプリ

サステナビリティはコストなのか?

サステナビリティという言葉に対して、まだ日本では、コストがかかるものと思われている方が多くいらっしゃいます。これは、時間と予算に余裕がないときに、より多くの作業や費用がかかることをイメージされることだからと思われます。

小さな気づきがもたらす改善で、ゴルフ場の日々の運営にちょっとした手を加えるだけで、費用をかけずに、すぐに、コスト削減やその他のメリットをもたらすことができるものもあります。例えばプレーエリア外の草刈りを減らすことで、スタッフの時間を節約し、エネルギー消費量とコストを削減し、動物や昆虫の生息地を拡げることに貢献することもできます。

長期的に考えると、サステナブルなゴルフ場は、維持コストを少なくさせることができます。

化学薬品や灌漑システムなどの水の投入が少なくて済むので、ゴルフクラブの資金を他の場所に使うことができます。過度の水やりや化学処理によって手入れされた不自然なほど緑の多いゴルフ場は、使用できる水の量や農薬などの環境規制がますます厳しくなっているため、持続可能なものではないことがますます明らかになってきています。

サステナブルなゴルフ場のコントロールは、動物や昆虫の生息地の多様性を高め、希少な生息地を保護することにもつながります。プレーヤーやキャディーや周辺住民との親和性も、環境に優しい質の高いプレーやゴルフ場運営を維持することで、ゴルファーや近隣の人々からの評判を最大限に高めることができます。

効率的な灌漑や再生可能エネルギーへの取り組みにより、短期的にも長期的にもかなりの節約になっています。サステナビリティの観点で、ゴルフ場を管理することは、美しい自然を守るだけでなく、ゴルファー、スタッフ、地域社会に価値を提供することを意味します。

サステナブルなゴルフ場管理の事例

そうした「サステナブルな管理をしているゴルフ場」の例をいくつか挙げてみましょう。

パインハーストNo.2

パインハーストリゾートの目玉であるパインハーストNo.2は、今でも世界で最も有名なゴルフ場のひとつです。全米で一番多くのシングルゴルフ選手権の開催地となっており、2014年には初めて全米オープンと全米女子オープンが2回連続で開催されました。全米オープンは2024年に再開催されます。

効率的な灌漑システムに移行し、水の消費量を65%削減しています。自然で戦略的な特徴を復元し始めました。このプロジェクトには、約35エーカーの芝の撤去と、自然のバンカーエッジ、ネイティブのワイヤーグラスの再導入が含まれています。今日では、復元されたコースを当初のイメージ通りにプレーすることができます。

パインハーストNo.2

クエイルリッジカントリークラブ

フロリダのボイントンビーチに位置するクエイルリッジカントリークラブは、18ホールの前述のオーデュボンサンクチュアリのゴルフ場を擁しています。このゴルフ場では芝生の栽培量を減らし、主要な持続可能性への取り組みに挑戦しました。

プレーエリア外にある多くの場所を自然の植栽に戻し、さらにはリサイクル水を使用して、芝刈り機やその他の機器を洗浄し、その処理後の水をリサイクルする自己完結型の洗浄ステーションを設置しています。

農薬の必要性を最小限に抑えるために、天敵利用など、生物学的製品の使用も行っています。
夏の間の適切な栽培をもう一つの鍵と考えており、有機物と土壌検査の科学的な測定に基づいてエアレーションを行っています。これらのサンプルをラボに送り、その結果をモニターします。それがグリーンの寿命を延ばすのに役立っています。

Quail Ridge Golf Club

ベア・トレース・コース

テネシー州のハリソン・ベイにあるベア・トレース・コースは、ジャック・ニクラウス設計のコースです。

50エーカーの新しい自然生息地を含むコース上のより多くのスペースを自然化することで、水の使用量とメンテナンス時間を制限し、年間約750万ガロンの水を節約することに成功しました。地下水の流出による汚染を排除した結果、地下水ガーディアン・グリーンサイトにも指定されています。

また、地元の気候に適した芝にプレー面を変更するプロジェクトにも取り組み、年間4万ドルの保護処理費用を節約し、さらに水とメンテナンス費用を節約することができました。また、コースは、近くに本社を置くジェイコブセン社から購入した電気自動車を使用することを選択し、ガソリン消費量を年間9,000ガロン以上削減しました。

Bear Trace course

サステナブルなゴルフとは

主に、アメリカのサステナブルなゴルフへの取り組みについて、見てきました。ゴルフ場業界が持続可能であるためには、メンテナンスコストを削減し、水の消費量を管理することが重要になります。それには様々な戦略を展開する必要があります。

メンテナンスと灌漑を行う面積を減らすことも王道ですし、バンカーとラフのメンテナンスの効率化や水分センサーの活用や蒸発散データを活用した灌漑システム管理や新しいタイプの芝草の品種の採用など、それらにAIデータを用いる世界もやってきております。

ゴルフはアウトドアスポーツであり、人の手に負えないことがあるのは周知の通りです。ゴルフ場の規模や、水、農薬や殺菌などの化学薬品、エネルギー、労働力など、ゴルフ場を最高の状態に維持するために消費される資源の量を、少しでも、地球に優しいもので置き換えられたら良いと思います。

昨今は、再生可能エネルギーを積極的に使う時代です。ソーラーゴルフバギーも導入されているゴルフ場も現れてきました。太陽光発電、風力、バイオマスなどの新世代のエネルギー源が商業的に可能になり、ゆっくりと社会のエネルギーミックスの中で、より影響力のある位置を占めるようになってきました。再生可能エネルギーの研究開発は現在、海洋エネルギー、ガス化、第二世代バイオ燃料の商業化を含む新しい展開がやってきております。

ゴルフには、化石燃料からの脱却を始めるために、エネルギー源を多様化するチャンスがあります。地熱冷暖房システムを導入したり、小規模な風力発電、太陽光発電の設置の実行可能性を評価したり、エネルギー消費量を削減するために電圧最適化装置を設置することは可能でしょう。

設備、照明器具、各種センサー、断熱材、換気、スタッフや顧客への教育などのエネルギー効率対策と組み合わせることで、ゴルフ場のオペレーションは再生可能エネルギーに切り替えられ、将来的には、分散型エネルギーを生み出す「エネルギー発生装置」になる可能性さえあるかもしれません。

サステナビリティとは、現在と未来のためのゴルフを通じ、環境と地域社会の長期的な利益になるように、意思決定をしながら利益を確保していくことです。不可能な理由を考えるのではなく、可能性のある未来を、ゴルフを愛するわれわれ皆で、考えていきたいですね。

参考文献

掲載したゴルフ場の事例

安達愼
安達愼

織物関係の町工場と着物販売会社のせがれ。子供のころから中小企業経営に興味。初アルバイトは5歳の時、亡父と数えた機械部品の袋詰め。大阪市立大学大学院経営学研究科修士取得。大学院時代にITベンチャーを起業し、IPOではなく、事業譲渡で完了。その後、上場企業数社のプロジェクトワークに参戦。海外駐在ベトナム、カナダ、フィリピン合計6年。 現役プロフェッショナルロングドライバー(ドラコンプロ)。元プロキックボクサー。 現在、afterFIT社でエネルギーシフト実現の夢を追いかけて素敵な仲間たちと挑戦中。一緒に活動をしてくださる方がいらっしゃれば、お声をかけていただきたいです。 afterFIT社は、高度技術者、工事専門家、ドローンパイロット、システムエンジニア、データ解析者まで、充実した自前体制を構築しております。ぜひ、賛同者、個人投資家、小中学校の先生、大学教授、エンジェル、ファンド、CVC、銀行···お声がけをいただければ幸いです。大歓迎いたします。一緒に、草の根レベルから、日本の再エネの明るい未来を創り出したいですね。

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