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EVは本当にCO2排出削減にならないのか?(前編) 〜欧州で検討中のLCA規制とは

EVは本当にCO2排出削減にならないのか?(前編) 〜欧州で検討中のLCA規制とは

2021/02/16

連載:EVはカーボンニュートラルを目指す

火力発電が主体となっている現在の電力システムでは、EV(電気自動車)を導入しても、CO2排出削減にはならない、という主張が一部でなされている。しかし、本当にそうなのだろうか。あらためて、ガソリン車とEVのLCA(ライフサイクルアセスメント)を通じた排出量を産業技術総合研究所の櫻井啓一郎主任研究員が検証する。

欧州市場ではすでに新車の4分の1がEVとPHVになっている

昨今、世界各国でEV(BEV:純粋な電気自動車)の導入が始まっている。販売数も増加し、2020年11月には世界の新車の4%超がEVとなっている[1]。つまり新車25台のうち、1台はEVだ。

中でもホットなのは、欧州市場である。昨年(2020年)は通年でEVが6.2%のシェアとなった[EV Sales]。絶対量としてはまだ少ないが、2019年(2.2%)に比べるとほぼ3倍増である。しかも直近の12月だけで見れば14%、PHVまで合わせたプラグイン車両では23%にも達している。これらを合わせると、新車の実に1/4近くが充電可能な車両になっている。

EVとガソリン車を、走行時ではなくLCAで比較する

LCA(ライフサイクルアセスメント)とは、製品の製造、輸送、販売、使用、廃棄・リサイクルまで、つまり「ゆりかごから墓場まで」のライフサイクルの間の環境負荷を評価することである。

現状でも欧州は厳しい燃費規制を導入しており、2021年からは走行1km当たりのCO2排出量を平均95g/km以下に抑えることを義務づけている。この場合の排出量は給油後の使用段階での排出だけを算入する、”Tank-to-Wheel(タンクから車輪まで)”と呼ばれる算定方法を用いている(図1)。EVでは、ここはゼロになる。

「タンクから車輪まで」か「油井から車輪まで」か

これに対してLCAでは、原油を掘り出して精製し、ガソリンスタンドに輸送するまでの間の排出量も換算する”Well-to-Wheel(油井から車輪まで)”と呼ばれる方式になる。EVでは、使用する電力由来の排出量も算入する。さらに車体の製造から廃棄・リサイクルまでにかかる排出量も、全て計上するのが基本である。

図1 自動車の走行に伴うCO2排出の算定範囲。


自動車の走行に伴うCO2排出の算定範囲。このほかに、車そのものの製造に伴う排出量もある。2021.1.16 K.Sakurai (AIST) CC-BY 4.0

EVは製造時の排出量が化石燃料車に比べて概して多めだが、走行に伴う排出量は概して少なく、ある程度以上走行すると化石燃料車より排出量が少なくなる(図2)。

図2 化石燃料車(純エンジン車)とEVのCO2排出量のイメージ


車体やバッテリーを製造する際の排出はEVの方が多いが、走行用の電力調達に伴う排出は概して少なく、ある程度以上の距離を走るとEVが全体的に排出削減になる。また購入後に電力の脱炭素化が進むと、その分さらに排出削減幅が拡大する。2021.1.16 K.Sakurai (AIST) CC-BY 4.0

世界の95%でEVはCO2排出量が削減される

昨今の技術や生産条件では、世界の95%で排出量の削減になる[2]。たとえば欧州における見積もりで見ると、確かにバッテリーのために金属やミネラル資源は多めに必要だが、温暖化ガス排出量やエネルギーの消費量、大気汚染物質の排出等においてEVはエンジン車に対してはもちろん、HVに比べても優れている(図3)[3]。LCA規制導入後も、EVが最も優遇される科学的根拠がある。

図3 欧州の平均的条件における乗用車の駆動方式別のLCA結果


EVは鉱物資源を多めに必要とする代わりに、他の全ての環境負荷において優れる。今後バッテリーの性能向上や電力の脱炭素化が進むと、これよりもさらに環境負荷が低減する[3]。(Determining the environmental impacts of conventional and alternatively fuelled vehicles through LCA, 欧州委員会、2020年より)

EVの製造時のCO2排出量も削減の方向に

2050年までにカーボンニュートラルを達成するには、EVの製造段階の排出量も削減しなければならない。そのうち特にバッテリー製造時の排出量が大きく影響することから、EUは昨年12月にバッテリーの製造・廃棄・リサイクルに関するLCA規制を提案している[4]。主な提案内容は下記のようなものである。

  • 2024年より、製造に伴う排出量が明示されてないバッテリーを販売禁止
  • 2027年より、バッテリー製造時の排出量に上限を導入
  • 2030年より、工業用・EV用のバッテリー中のコバルト、鉛、リチウム、ニッケルのリサイクル率の義務付け

このように排出量だけでなく、資源のリサイクルまで考慮した規制強化が導入される見込みだ。

今のところはバッテリーのみが対象のようだが、カーボンニュートラルを達成するにはバッテリー以外の部分、つまり鉄・アルミ・樹脂等で出来た車体の構成部材も全てカーボンニュートラルで生産する必要がある。カーボンニュートラルを目指す限り、最終的にはそこまで要求されることになると考えられる。

中国は石炭火力発電が多いだろう!は本当か

このLCA規制が“中国製品を締め出すため”だという見方があるが、筆者にはそうは思えない。というのは、中国は着実に、低炭素生産の環境を整えつつあるからだ。

良く言われるのが「中国は石炭火力発電が多いだろう!」という意見だ。確かに電力需要の増加と共に、中国の石炭火力の発電電力量は増えている。一方で発電電力量に占める割合で見ると、2019年時点で化石燃料火力は7割を切り、減少傾向にある(図4)。

地域別の電力の排出原単位で見ると、2014年時点で907g-CO2/kWhと高い地域もある一方、現在の日本(463g-CO2/kWh)より少ない399g-CO2/kWhという地域も既に出現している[5]。これに加えて再エネが安くなったため、CATL等の大手バッテリーメーカーも自前の再エネ電力を利用している。

図4 中国の発電電力量の内訳


石炭火力も多いが、比率としては年々低下している。また今後はさらに減る見込みである。2030年のシナリオは市場任せの場合(BAU)と電力由来の排出量の総量を半減させた場合(50%減)を示している。

LCA規制で不利になるのは、中国よりも日本?

2030年時点の電力コストは、図4のように国全体の発電由来排出の総量を2015年の半分まで減らした上で送電網増強や蓄電池導入のコストを含めても、市場任せの場合(BAU)より6%ほど安上がりになると見られている[6]。現時点の中国全体の平均では電力排出原単位は他国より多いが、もしもこれが今後10年で半減したら、主要先進国と競える水準になるかも知れない(図5)。

図5 各国の電力の排出原単位の推移


主要国が着実に減らす一方、日本は2011年の原発停止で一気に増加した。再エネも排出削減に寄与してはいるが、他先進国に比べて不利な状況である。データ出典:EIA, EEA, IEA, 環境省 

そうなれば電力由来の排出が多いと後ろ指を指されるのは、中国や米国でなく、日本になるかも知れない。追加で関税を課されたり、そもそも製品を選んで貰えなくなったりしたら一大事である。気候変動対策を急がねばならないことには既に世界的な合意があり[7]、排出削減のための規制は今後も増えるだろう。2011年の原発事故とその後の混乱で思うように進んでいないが、電力の脱炭素化を着実に進めなければ、日本の製造業全体にとって不都合な事態が危惧される。

この項続く

参照文献
[1] Bloomberg New Energy Finance, Electric Vehicle Outlook 2020.
[2] F. Knobloch et al., Nature Sustainability 3, 437–447 (2020).
[3] European Commission, Ricardo Energy & Environment, Determining the environmental impacts of conventional and alternatively fuelled vehicles through LCA, 2020.
[4] European Commission, Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council concerning batteries and waste batteries, repealing Directive 2006/66/EC and amending Regualtion (EU) No 2019/1020, COM(2029) 798/3, 2020/353 (COD), 2020.
[5] X. Tao et al., Sustainability 8(6), 506 (2016).
[6] G. He et al, Nature Communications 11, 2486 (2020).
[7] UNEP, Emissions Gap Report 2020.

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櫻井啓一郎
櫻井啓一郎

1971年生まれ。京都大学大学院工学研究科博士課程修了、工学博士。 独ハーンマイトナー研究所客員研究員、米国国立再生可能エネルギー研究所客員研究員等を経て、現在、産業技術総合研究所安全科学部門主任研究員。 著書に「トコトンやさしい太陽電池の本第2版」「太陽と風のエネルギー」等。