これまで送配電事業は発電事業や小売事業と異なり、地域独占が認められる事業だった。しかし、2022年4月から配電事業については新たな参入が可能となる。とはいえ、参入のハードルは高く、具体的な事業のイメージも描きにくい。こうしたことから、2021年6月7日に開催された、経済産業省の第12回「持続可能な電力システム構築小委員会」において、配電事業に関する第二次中間取りまとめが了承され、公表された。
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災害時のレジリエンス向上やコスト効率化の観点から、特定の区域において、新たな事業者がAI・IoT等の技術を活用しながら、自らが面的な系統運用をおこなうニーズが高まっている。
このため2020年6月に成立した改正電気事業法においては、新たに配電事業が位置づけられ、配電事業制度は2022年4月からの開始予定となっている。
詳細は後述するが、配電事業への参入は「許可制」とするなど、配電事業の多くは一般送配電事業と同様の規律が課されたものであり、あくまで規制事業である。規制事業は決して利益率の高いものではないが、一般的にはその収益は安定的であると考えられる。
他方、配電事業では例外的に、小売電気事業等との兼業が認められるケースがあるなど、「競争分野」としての一面も持つ。
また類似する既存制度では、新規参入にあたっては送配電設備投資の初期費用負担が大きかったのに対して、「配電事業制度」では一般送配電事業者の既設送配電網を活用することが可能であるなど、新規参入のハードルを引き下げる工夫がなされている。
「持続可能な電力システム構築小委員会」の第12回会合において、配電事業の詳細な制度設計に関する第二次中間取りまとめが公表されたので、本稿ではその概要をご紹介したい。
規制事業たる配電事業に対して期待される効果の原則は、やはりエネルギーの3E(安定供給、経済性、環境性)の向上である。
順不同であるが、まず安定供給・レジリエンス強化の観点では、平時は一般送配電事業者(一送)の既存系統と接続するものの、災害時には上位系統との接続を切り離して独立運用をおこなうことにより、配電事業エリア内の需要家に対して電力供給サービスを継続する効果が期待される。もちろん、独立する配電系統内に分散型電源(再エネ電源等)が確保されていることが前提となる。
図1.災害時独立運用の事業類型イメージ
出所:持続可能な電力システム構築小委員会
第2に経済性の観点では、AIやIoTを活用した技術イノベーションによる電力システムの効率化やメンテナンスの合理化等によるコストダウンが期待される。
またこれは「環境性」にも関連するが、潮流合理化等による設備のダウンサイジングをおこなうことや、配電網内で混雑を解消することにより、高額の費用を要する上位系統の増強を回避することが期待される。
第3に環境性の観点では、太陽光等の再エネの変動を配電網内の調整力を活用することにより再エネ導入量を増加させる効果や、上位系統の大規模な増強工事を回避することにより、安価で速やかに再エネの接続を増加させることが期待される。
図2.送電下位系統の混雑管理型の事業類型イメージ
出所:持続可能な電力システム構築小委員会
この他、地域のニーズに合わせた託送事業や他のインフラ事業等との共同実施などによる、地域サービスの向上の観点による効果も期待されている。
改正電気事業法では配電事業は、「自らが維持し、及び運用する配電用の電気工作物によりその供給区域において託送供給及び電力量調整供給を行う事業」と定義されている。
なお「配電用の電気工作物」とは、「7,000V以下の配電設備及びこれらの配電設備と一体で運用することが適当な送電・変電設備等」である。
配電用電気工作物を自らが「保有」することは必須ではないため、一送から送配電設備の貸与を受けることにより、配電事業に参入することが可能である。
また図3の配電事業者の主な業務のうち、潮流管理や周波数調整等のように一送が一体的におこなうことが合理的と考えられる業務も多く存在するため、当面の間は新規参入した配電事業者はこれらの業務を、元の一送に委託することができる。ただし配電事業者は、早期にこれらの技術的能力を備えることが求められる。
なお、配電事業の実施には技術的専門性が必要となるため、一送がIT企業等と合弁会社(子会社)を設立することにより、配電事業に参入することも期待されている。
図3.配電事業者の主な業務例
出所:持続可能な電力システム構築小委員会
なお配電事業に類似する既存の事業類型として、特定送配電事業や特定供給がある。これらと対比することにより、配電事業の特徴が把握しやすいと考えられる。
なお簡易化のため、表1では特徴的なものだけを抜粋記入している。
表1.分散型系統運用の事業類型
配電事業 | 特定送配電事業 | 特定供給 | |
要件 | 許可 | 届出 | 許可 |
対象 | 供給区域 | 供給地点 | 供給の相手方・場所 |
主な基準 | 相手方と密接な関係を有すること | ||
供給対象 | 一般の(=不特定多数の)需要 | (届け出た)特定の需要 | (許可を受けた)供給地点の需要 |
主な義務 | ・託送供給義務 ・電力量調整供給義務 ・接続義務 ・電圧・周波数維持義務 | ・小売電気事業者等と契約している場合は、託送供給義務 ・電圧・周波数維持義務 | (特になし) |
事例 | 六本木エネルギーサービスなど | CHIBAむつざわエナジーなど |
出所:持続可能な電力システム構築小委員会
配電事業を開始しようとする事業者は、経済産業大臣に対し、①配電事業の参入許可申請をおこない、許可後に、②引継計画の承認申請と③託送供給等約款の届出をおこなう必要がある。
これら申請手続きの詳細は後述するとして、事業者が③託送供給等約款を作成・届出するには、配電事業でどのような収益が得られるのか、事前に見積もる必要がある。
まずは送配電設備の費用面の算定である。
新規参入者は、新たに開発された街区等では送配電設備を新設することも可能であるが、通常は既存の街区において、既設の送配電設備を一送から譲渡もしくは貸与を受けるものと想定される。
参入予定の区域(大都市か山間部か等)により、期待される収入や費用は大きく異なるが、貸与/譲渡価格も区域によって異なる。
貸与の場合で説明すると、図4の②配電設備の償却費用、③上位系統費用、④地域調整費用の合計が毎月の貸与費となる。区域による収益性の差異を調整するものが、④地域調整費用である。
大都市では当該区域から得られる「託送料金期待収入」は大きいため、地域調整費用も高く算定され、貸与価格全体も高くなる。逆に、山間部等では期待収入は僅少、もしくはマイナス(赤字)となることが予想される。
期待収入が赤字であるということは、地域調整費用もマイナス金額となるため、貸与価格全体がマイナスとなる場合も考えられる。(一送から配電事業者に貸与価格が支払われる)
この価格設定方式により、事業者がどの区域に算入しようとも、それ自体では有利・不利の違いが生じない工夫がなされている。レベニューキャップ制度の導入により、一送の託送料金自体が5年ごとに見直されるため、貸与価格等も5年ごとに見直しがおこなわれる。
図4.一送からの貸与/価格の算定イメージ
出所:持続可能な電力システム構築小委員会
次に収入面、配電事業の託送料金の算定である。
配電事業の託送料金は、経済産業大臣による変更命令基準に抵触しない範囲では、自由に「託送供給等約款」を定めることが可能である。「特定の者に対して不当な差別的取扱いをするもの」などの場合には、経済産業大臣は託送供給等約款の変更命令を出すことができる。
料金制度専門会合において当該変更命令の具体的な基準について検討した結果、一送の託送料金の個別需要家ごとの単価と比べて、配電事業者の託送料金の個別需要家ごとの単価の水準が年平均±5%以内である場合には、配電事業者の託送料金が適正な水準であると判断される。
配電制度区域内の個別需要家ごとの単価の水準は、季節別や時間帯別に常に±5%以内になっている必要はなく、年間での平均単価の水準が±5%以内であればよいとされているため、例えば高負荷時間帯の託送料金を高く、低負荷時間帯の託送料金を低く設定することにより、需要のピークシフト等に資する託送料金メニューを設定することなどが期待される。
配電事業者に対しては一送同様に、事業の中立性を確保する観点から、情報遮断等の行為規制や区分会計の適用が求められている。
また配電事業者は一送同様に、小売電気事業や発電事業等との兼業が原則禁止されている。
しかしながら、規模が小さい配電事業者においては、小売電気事業等との兼業を認めないことにより業務の運営が非効率となる可能性もあるため、兼業を例外的に認めることとされた。
具体的には需要家軒数が原則5万軒以下である場合には(離島等の例外あり)、小売電気事業等と兼業することが認められる。なお、配電事業者の親会社が複数の区域において子会社を通じた配電事業をおこなうことも想定されることから、5万軒以下の基準は、グループ全体の合計値に適用される。
ただし、一送のグループ会社は元々の一送の供給エリア内で配電事業をおこなう場合には兼業は認められず、他エリアに域外進出する場合のみ、グループ子会社を通じた兼業が認められる。
配電事業に参入するにあたり、事業者の経理的基礎や技術的能力、事業計画の確実性等、当該エリアの安定供給や需要家利益を確保する主体としての適格性が審査される。
この審査対象には、参入予定区域の需要家や自治体等に対して十分な説明がおこなわれることも含まれる。
配電事業者は、一送から譲渡/貸与を受けた設備を用いて事業をおこなう場合、従前どおり安定供給を確保するため、その業務の引継ぎが適切におこなわれるよう、当該一送と共同で「引継計画」を作成し、国の承認を受ける必要がある。
また参入時の取り決めだけでなく、設備の返却等の「撤退時に備えた取決め」を一送と作成しておくことも必要とされる。
多様なメリットが期待される配電事業制度であるが、新規参入のハードルは高いと考えられる。このため国は、新規参入を促進する観点から「分散システム導入プラン(仮称)」を策定する予定としている。
これは配電事業やその他の分散システム導入の手引きと位置付けられるものであり、分散システム導入の意義のほか、配電事業参入に当たっての具体的な事前準備(必要な情報の取得、自治体・需要家等への説明等)、配電事業者の申請(参入許可、引継計画承認、託送供給等約款届出等)、配電事業の運用、設備の譲渡/貸与価格・委託料等の算定方法、託送料金等の設定方法等が記載される予定である。
2022年度に配電事業参入を検討する事業者にとって、非常に有益な手引きとなると期待される。
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