カーボンニュートラルに向けて取り組むべきこととして、もっとも優先度が高いのは再生可能エネルギーの普及拡大ではなく省エネルギーの徹底である。そして再生可能エネルギーの普及拡大によって省エネルギーのあり方も大きく変化していくことになる。2021年5月21日に開催された、経済産業省の第34回「省エネルギー小委員会」では、新たな省エネルギーと、2030年46%削減に向けた取り組みが議論された。
審議会ウィークリートピック
2020年の2050年カーボンニュートラル宣言に続き、2021年4月22日に菅首相は日本の2030年度における温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減すると発表した。
この実現のためには非化石エネルギーの最大限の導入と並び、徹底した省エネを推進することが不可欠である。
本稿では、省エネ政策の具体化を担う「省エネルギー小委員会」の第34回会合での議論の概要をお届けしたい。
詳細は後述するが第34回会合では、現行のエネルギーミックス2030年目標である省エネ量5,036万kL(キロリットル・原油換算値)から、約6,200万kLへ省エネ量を約1,200万kL深掘りすることが公表された。
ただし、以前の記事(「減らす省エネ」から「需要の高度化」への転換:第29回「省エネルギー小委員会」)でもご紹介したとおり、省エネ小委の議論は単なる省エネを超えて、需要の高度化、需要の最適化、レジリエンス強化などの視点が豊富に含まれている。
よって本稿の前半では、幅広い需要側の取り組みを目指す省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)の新たな体系について、後半では省エネ対策量の上積みなどについて、ご紹介したい。
現在省エネ法では、エネルギー消費効率の年平均1%以上の改善や業種別ベンチマーク目標等を通じて、エネルギー使用の合理化を求めている。
省エネ法の正式名称は、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」である。
ところが省エネ法における「エネルギー」という用語の定義は、以下のような「化石由来」の「燃料、熱、電気」といった一次・二次エネルギーのみが対象となっており、再エネや水素・アンモニアといった非化石エネルギーは合理化の対象外となっている。
これは省エネ法(昭和54年制定)がオイルショックを契機に、エネルギーの安定供給確保のため、化石エネルギーの使用を合理化・効率化することを目的としているためである。
図1.省エネ法における「エネルギー」の定義
出所:省エネルギー小委員会
2050年に向けては、水素・アンモニアを含む非化石エネルギーが過半を占めることが予想されることから、このままでは省エネ法によるカバー率が著しく低下するおそれもある。
特に水素・アンモニアについてはその多くを海外から輸入する蓋然性が高いことから、安定供給の確保や経済性の観点から、「使用の合理化」を求めるべきエネルギー資源であると言える。
よって省エネ小委事務局からは、現行省エネ法の「エネルギー」の定義を見直し、非化石エネルギーを含むすべてのエネルギーの使用を合理化の対象にすることによって、総合的なエネルギー消費効率の向上を目指す枠組みとすべきことが提案され、委員から了承された。
また省エネの推進だけでなく、再エネ等の非化石エネルギーの導入拡大に向けては、エネルギー供給事業者側の取り組みだけでなく、製造プロセスの電化や水素化等といった需要側における非化石化・エネルギー転換を進めていくことが重要である。
よって需要側の非化石エネルギーの導入拡大についても、省エネ法の枠組みの中で制度的に担保する仕組みを構築していく方向性が示された。
図2.需要側における「省エネ」と「非化石エネルギー拡大」のイメージ
出所:省エネルギー小委員会
2013年法改正以前の省エネ法では、時間の概念を持たず総量としてのエネルギー使用量の削減・合理化が求められていたが、東日本大震災による電力需給逼迫を経て、電力のいわゆるピークカット・ピークシフトを促すために、夏冬の昼間に電気需要の平準化を求めている。
具体的には電気需要平準化時間帯(7~9月、12~3月の8時~22時)に使用する電気については、使用量換算時に係数「1.3」を乗じて国に報告することとなっている。
他方、特に太陽光発電を中心とした再エネ電力の増加により、九州エリアでは再エネの出力制御が頻発している。こうした余剰電力が発生する軽負荷期の昼間に、需要側が「上げDR(デマンドレスポンス)」をおこなうことで需要をシフトするならば、エネルギーの有効活用につながると考えられる。
なお筆者の集計(表1)によれば、省エネ法上の電力ピーク時間帯である7~9月、12~3月の8時~22時において、九州エリアでJEPXスポット価格が0.01円となったコマ数は2020年度ではすでに308コマに達している。係数1.3の存在は、需要家が上げDRの実施を躊躇する要因の1つとなっていると考えられる。
表1.電気需要平準化時間帯 JEPX九州エリアプライス0.01円コマ数
2020年度 | 0.01円発生 コマ数 |
7月 | 11 |
8月 | 12 |
9月 | 12 |
1月 | 14 |
2月 | 75 |
3月 | 184 |
合計 | 308 |
出所:筆者作成
また太陽光等の変動再エネの出力が、天候の急変により事前の予測値よりも大きく減少する際には、需要側による「下げDR」の実施はこれ自体が電力安定供給に資するものであるほか、火力発電の出力増加を回避するならば、CO2排出削減にもつながるものである。
よって電力需要を上げ・下げ両方向でDRをおこなうことによる、需要の最適化は非常に重要である。DRをおこなう需要家が不利とならぬことは当然の前提として、DRを促す何らかのインセンティブを省エネ法上で講じることが必要となる。例えば省エネ法報告上の新たな「係数」の設定である。
また省エネ小委では電力小売事業者から需要家側に対して、時間単位の電力需給バランス情報やダイナミックプライシング等の新たな料金プランが提供されるような制度的枠組みを検討すべきとしている。
太陽光発電等の非同期再エネ電源が増加し、火力等の同期電源の比率が50%を下回ると、大規模発電所が緊急停止した場合に、慣性力不足等から広範囲の停電リスクが増大する可能性があることが指摘されている。
この課題に対して発電側では疑似慣性力機能付きPCSの技術開発等を進めているが、今後は需要側での対策を合わせて実施することで、レジリエンスの強化を図ることが重要である。
前項の「電力需要の最適化」がkWhベースであったのに対して、ここでは需要家リソースを活用した調整力ΔkW・供給力kWの確保が主な論点となっている。
この点でも、省エネ法は単なる「減らす省エネ」から脱皮し、需要側リソースのスマートなマネジメントを促す法制度に移行しようとしていることが見て取れる。
ただし現時点、省エネ小委で提案されている具体例はまだ少数であり、需要側に設置されたガスコジェネ等の自家発電機の活用や、「自律分散型負荷制御機能」付エアコンが例示されている。
「自律分散型負荷制御機能」とは、系統周波数が0.8Hz以上低下した場合に、エアコン側がこれを検出し消費電力を自動で5%低下させ、10分間保持する機能である。エアコン負荷が夏期の総需要に占める割合は約3割であり、大幅な周波数低下時に電力系統の安定化に貢献することを目的に具備された機能である。一種の自動DRであると言える。
図3.「自律分散型負荷制御機能」付エアコンの動作例
出所:電力中央研究所
旧来型の扇風機が系統と「同期」する需要側リソースであったのに対して、エアコン等の近年のインバータ機器は「非同期」リソースであるため、周波数復元力を補完するための機能と言える。周波数を安定化させるリソースが多数確保されることにより、変動性再エネの導入拡大にも資すると考えられる。
現在省エネ法では機器トップランナー制度のもと、テレビやエアコン等の29機器を対象に機器の省エネ化を進めているが、今後はエアコンに限らず、周波数低下時の自動負荷制御機能の有無が機器評価の対象となる可能性もあろう。
現行のエネルギーミックスでは、2013年度の最終エネルギー需要3.61億kLから1.7%の経済成長を前提として想定した2030年度の3.76億kL(対策前)に対して、省エネにより5,036万kLの削減を見込んでいる(対策後3.26億kL)。
図4.現行エネルギーミックスにおける省エネ目標
出所:省エネルギー小委員会
第34回「省エネルギー小委員会」では、産業・民生・運輸等すべての部門において省エネ対策を見直すことにより、省エネ対策量を約6,200万kLへと上積み(深掘り)可能であるとの試算結果が公表された。これは3.76億kL(対策前)からの省エネ率が旧目標では13.4%であったのに対して、新目標は16.5%へと改善されている。
表2.省エネ対策量の上積み
2019年度 実績 | 2030年度 現行目標 | 2030年度 見直し後目標 | 増加分 (見直し後目標ー現行目標) | |
産業部門 | 322 | 1,042 | 約1,350 | 約300 |
業務部門 | 414 | 1,227 | 約1,350 | 約150 |
家庭部門 | 357 | 1,160 | 約1,200 | 約50 |
運輸部門 | 562 | 1,607 | 約2,300 | 約700 |
合計[万kL] | 1,655 | 5,036 | 約6,200 | 約1,200 |
出所:省エネルギー小委員会
追加的な省エネ対策の一例として民生部門では、高効率給湯器の普及台数を見直すことにより、省エネ量を304万kL→ 332万kL程度に上積みしている。
表3.高効率給湯器の普及見込み
2030年ストック台数 | (参考)進捗状況 2012年度→2019年度 ※()は進捗率 | ||
見直し前 | 見直し後 | ||
潜熱回収型 給湯器 | 2,700万台 | 3,050万台 | 340万台→1050万台 (30%) |
燃料電池※ | 530万台 | 300万台 | 5万台→30万台 (5%) |
HP給湯器 | 1,400万台 | 1,590万台 | 400万台→690万台 (29%) |
出所:省エネルギー小委員会
他方、産業部門の鉄鋼業では2030年における粗鋼生産量の想定を1.2億トンから0.9億トンに見直すことにより、省エネ量は280万kL(見直し前)から 174万kLへと縮減されている。
民生部門では、既築住宅における断熱性能の改善による省エネ深掘りが大きな課題と認識されている。このため、国土交通省・経済産業省・環境省の共管による「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」が設置され、規制強化も選択肢とした住宅等の省エネ対策について検討が進められている。
産業・民生・運輸などいずれか特定の部門に負担が偏ることのなきよう、コスト効率のよい省エネ対策が進むことを期待したい。
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