これからの地域エネルギー事業のヒント 10
2050年カーボンニュートラルは、自治体にとっても重要だ。国に先行して宣言する自治体がある一方、小規模自治体にとって具体的な計画を立てることは簡単ではない。政府は自治体と協力して進める「地域脱炭素ロードマップ」の素案を示している。2021年6月ごろには取りまとめられる予定だ。エネルギー事業コンサルタントの角田憲司氏が解説する。
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昨秋の政府による「2050年カーボンニュートラル宣言」を契機に、あらゆるセクターでそれに向けた動きが活発化している。
このうち自治体に関わる部分では、年末に開催された「国・地方脱炭素実現会議」にて、政府が自治体と協力して進める「地域脱炭素ロードマップ(行程表)」の素案が示された(図1)。
会議資料によると、「地域脱炭素ロードマップ」策定の趣旨は、「地域の取組と国民のライフスタイルに密接に関わる主要分野において、国と地方とが協力して、2050年までに、脱炭素で、かつ持続可能で強靭な活力ある地域社会を実現する行程を明らかにすること」にある。
図1.政府と自治体が作成する「地域脱炭素ロードマップ」のイメージ
環境省資料を元に編集部作成
また、地域の取組と国民のライフスタイルに密接に関わる主要分野として、以下の8分野が挙げられている。むろん、地産地消型の地域エネルギー事業も推奨されている。少し長めだが、地域で何をしてもらいたいかが例示されているので、前文を引用する。
1.地域のエネルギーや資源の地産地消
2.住まい
3.まちづくり・地域交通
4.公共施設をはじめとする建築物・設備
5.生活衛生インフラ(上下水道・ごみ処理など)
6.農山漁村・里山里海
7.働き方、社会参加
8.地域の脱炭素を支える各分野共通の基盤・仕組み
※留意事項:対策施策は、各分野を縦割りに検討するのではなく、分野・組織を超えて横断的に検討。
小規模自治体の脱炭素計画は?
「地域脱炭素ロードマップ」は、同会議での数回の検討を経た上で、2021年6月頃には取りまとめられるが、ロードマップのイメージ(上図1)を見るだけでも論点が浮かぶ。ここでは大きくふたつ述べる。
第1は、「縦割りから横断的への実効性」である。
「地域脱炭素」は、自治体という「地域」を主語にして、かつ、「国(政府)」を主語にしつつ、国(政府)として自治体と協力しながら日本の温暖化対策を進める考え方だと受け取れる。
一方、上記のとおり8つの分野で示された対策施策は、これまで省庁別に策定・推進されてきた温暖化対策施策の列挙にとどまっており、留意点として「対策施策は、各分野を縦割りに検討するのではなく、分野・組織を超えて横断的に検討」が示されている。
カギは、自治体ごとの現実的な検討過程において「縦割りから横断的へ」が本当にこなれたものになるか、だろう。
ロードマップイメージからは、「出だしの5年間で勝負」「やれそうな施策メニューを省庁横断的に示すので、やれることからやってほしい」「それでモデルケースを作って、2030年後以降にドミノ方式で全国的に横展開」という想いが強く感じられる。
それはそれで「(日本の官庁らしい)1つの政策手法」だが、1,700を超える基礎自治体、とりわけ小規模な自治体は「この政策が早い段階から本当に自分たちを支援してくれるのか」と、疑問視するかもしれない。
つまり、アイデア(施策)ベースでの支援とは別に、温暖化対策の基礎体力(温暖化対策に関するリテラシー、人材、資金)への支援がどの自治体にもなされることが、極めて重要と考える(そうでなければ、先行モデルをいくら開発したところで全国大でのドミノは起こらない)。
むろん、国(政府)としては「承知のこと」なのだろうが、「包摂性」を持った支援の仕組みがロードマップの中に示されることを期待したい。
第2は、「2050年カーボンニュートラルという“裾切り”により、自治体の温暖化対策の在り方が変わったことを、ロードマップや他の施策で示せるか」である。
温暖化対策の効果は温室効果ガスの排出量で測るものであり「2050年カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという数値目標である。
むろん、自治体も「地方公共団体実行計画」を立てて排出量(の抑制)をメルクマールとして取り組んできたが、大半の自治体が「事務事業編」に基づき、自治体自身の活動に関わるカーボン・マネジメントしかしてこなかった。
しかし、「地域脱炭素化」で求められているのは、地域全体での排出量の抑制、いや排出量の「ゼロ化」である。
地域全体のカーボン・マネジメントに資するデータ(温室効果ガスインベントリ等)や知見の提供がなければ、たとえば排出量からみた対策効果が薄いものに注力したり、自治体以外のステークホルダー(企業や市民等)をうまく巻き込めなかったりなど、効果的な排出量削減はできないはずである。
環境省も、2021年度から自治体の気候変動対策や温室効果ガス排出量等の現状把握(見える化)の支援をするようだが、先行自治体だけにとどまらず、全ての自治体における「見える化」を実現してほしいものである。
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