産業用大規模バッテリー:パワーパックとメガパック、テキサス子会社Gambit  シリーズ:バッテリーからテスラを解剖する 03 | EnergyShift

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産業用大規模バッテリー:パワーパックとメガパック、テキサス子会社Gambit  シリーズ:バッテリーからテスラを解剖する 03

産業用大規模バッテリー:パワーパックとメガパック、テキサス子会社Gambit  シリーズ:バッテリーからテスラを解剖する 03

EnergyShift編集部
2021年03月31日

テスラの事業を見渡してみると、その根幹に横たわるのは、バッテリーだ。自然エネルギーと持続可能な社会の命運はバッテリーが握っているといっても過言ではない。テスラはそのことを、どの企業よりもよくわかっているのではないか。

テスラの事業をバッテリーから横断してみる本連載、今回はテスラが商用に展開する大規模蓄電池PowerpackおよびMegapackの最新動向と、新子会社のエネルギー貯蔵プロジェクトについて報告する。

Powerpackは導入のしやすさがポイント 日本でも導入が進む

前回、テスラの家庭用ソリューションを紹介した。テスラのエネルギーストレージ製品は、家庭を超え産業用、電力網にまで及んでおり、現在すでに2つの製品を展開している。PowerpackとMegapackだ。

2015年4月にPowerwallと同時に発表された初代Powerpack。2016年10月にはPowerpack2となり、初代の100kWhから200kWhへと倍のエネルギー密度になった。発電所、商業施設や政府機関向けエネルギーストレージで、すでに2GWhの導入実績がある。

ピーク時のエネルギー需要を抑えることで電気料金を減らすピークシェービングや負荷シフトのほか、電力網への接続やデマンドレスポンスプログラムで利益を生むこともできる。また、Powerwallと同様、緊急時のバックアップ電源としての役割も担っている。

ひとつのPowerpackには16のバッテリーポッドがあり、それぞれに独立したDC-DCコンバータがついている。交換も容易だ。モデル3、Powerwallと同じくネヴァダのギガファクトリーでつくられている。

2019年3月には大阪の私鉄である近鉄が42機(容量7,098kWh)を導入。同年10月にはインターネット大手IIJが千葉県白井データセンターにも導入した。最も有名なのはアメリカ、サモア島のプロジェクトで島内の電力をメガソーラーとPowerpackを使い、ディーゼルからクリーンエネルギーに転換したものだろう。

2020年秋のBattery Dayの直前、テスラはPowerpackの価格を17万2,000ドルから12万5,000ドルへと5万ドル近く(約27%)値下げした。約500万円の値下げだ。これは、テスラのエネルギーストレージが、益々手に取りやすくなっていることを示している。セルが大規模に生産されるほどに、最終的にはEVを含め、テスラの製品全体の価格を引き下げている。

大容量Megapackも導入が進む エネルギー事業は2030年にテスラの総収益の30%に

2019年に発表されたMegapackは、さらに大規模で、送電網への電力供給方法を根本的に変革する産業用蓄電池である。例えば、現在、カリフォルニア州でPG&E社と共同で建設しているMoss Landing projectでは、Megapackが天然ガスのPeaker power plant発電所の代わりとして機能する。

カリフォルニア州では増大する太陽光発電や風力発電の不安定さを補うため、従来は天然ガスを使ったPeaker power plant発電所が使われていた。

Peaker power plantは電力網が需要を満たす電力を供給できないときに稼働する予備の発電所のようなものだが、稼働効率が悪く、通常の発電所に比べ環境負荷が大きい。そこで、風力または太陽光で発電された余剰電力をMegapackに貯めておき、電力網のピークをサポートするのである。

実際に、フランスの再生可能エネルギー企業のネオエンと提携し、オーストラリアのビクトリア州に設置したビクトリアン・ビッグ・バッテリーは、電気代を1年で約4,000万ドルを節約した上で、電力網を安定させた。

Moss Landing projectでは、2020年10月に最初のMegapackが設置された。PG&E社によれば、2021年初頭にはシステムを完成させ、第2四半期に稼働させるという。もう間もなくだ。

最新の決算発表より バッテリー導入量

『Q4 and FY2020 Update』

先日発表された、2020年第4四半期の決算発表では、これらが順調に売り上げを伸ばしていることを報告した。2020年は初めてバッテリーの導入総量が単年度で3GWhを超え、前年比83%上昇した。直近5年のグラフを見ても、順調に伸びていることが分かる。

世間で注目されるのは、急速に上昇した株価や続々と増産が進んでいるEVだが、このようにテスラにとってエネルギー事業は大きな位置を占めている。

2030年代までに、同社の総収益の最大30%をエネルギー事業が占めるとも予測されており、エネルギー事業は、EV事業よりも早く成長しているとも言われている。昨年、50万台の生産目標を達成したEV事業が先に軌道に乗りつつあるが、エネルギー事業の成長も今後加速するだろう。

ERCOTに登録された「謎の」エネルギー貯蔵プロジェクト「Gambit Energy Storage」

ブルームバーグの記事によれば、Gambit Energy Storage LLCというテスラの子会社が、テキサスのアングルトンに100MWを超えるエネルギー貯蔵プロジェクト施設を建設しているという。これは暑い夏のピーク時に、約20,000世帯に電力を供給することができる規模である。Gambitによって構築されているバッテリーストレージシステムは、すでにテキサスの電力網を運営するテキサス電気信頼性評議会(ERCOT)に登録されており、ERCOTの関係者は、6月のサービス開始を提案されていると述べたという。

今回のプロジェクト施設は、テキサスーニューメキシコ変電所に隣接されており、電力網のピークを支える役割を担うことになるだろう1

ちなみに、テキサス州はイーロン・マスクが拠点を移した土地であり、テスラが建設中の新工場のほかにも、スペースXの打ち上げ施設や製造拠点もある。先日、「スターベース」と呼ばれる、新たな都市の建設をイーロン・マスクが考えているというニュースが報じられたが、今回のエネルギー貯蔵プロジェクトもその一環なのかもしれない。

テスラのエネルギー事業は加速している

先日明らかになったテキサス・アングルトンでのGambit Energy Storageプロジェクトは、カリフォルニアに続く大規模プロジェクトである。ブルームバーグにスクープされたばかりで、詳細な情報はまだ出ていないが、新子会社が設立された動きを見ると、今後のエネルギー事業の加速が予測される。

自身が定義する持続可能な未来の3つの柱(持続可能なエネルギーの生成、貯蔵、およびEVの普及)の全てで重要な役割を果たすと語るイーロン・マスク率いるテスラは、今後、EV以外の分野でも存在感を高めることになるだろう。

第4回 テスラのバッテリーの生産と研究体制 はこちら

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