審議会ウィークリートピック
北海道は風力発電など再生可能エネルギーのポテンシャルは高いが、域内需要や送電網の問題があり、十分に導入することができていない。本州に送るにあたっても、連系線の容量は現状90万kWだ。そこで、その増強の検討が行われている。2020年6月26日に開催された、電力広域的運営推進機関の第48回「広域系統整備委員会」や「電力レジリエンス等に関する小委員会」について報告する。
新々北本連系設備の費用便益分析
再エネ主力電源化の一方策として、地域間連系線の増強が検討されている。
本稿では、すでに具体化が進められている「北海道本州間連系設備」(いわゆる新々北本連系線)および「東北東京間連系線」の計画概要と費用便益評価、その費用負担方法についてご報告したい。
これら地域間連系線の増強については、主に電力広域的運営推進機関(以下、広域機関と呼ぶ)の「広域系統整備委員会」で議論・検討されている。
現在、北海道-本州間は2019年3月に運転開始した「新北本連系設備(30万kW)」により、合計90万kWの直流連系設備で連系されている。
表1のように、広域系統整備委員会で増強容量等の異なる複数案を比較検討した結果、「新々北本連系設備」は30万kWを増強する(合計120万kWとする)案が採用された。総額は約480億円、工期は5年程度と見積もられている。
表1の金額は、評価期間における費用および便益の現在価値換算値の合計であるため、単純な工事費とは一致しない。
表1.新々北本新設による費用対便益評価結果
出所:広域機関地域間連系線の増強工事は、連系線そのものの工事費のほかに、「地内」の送電設備等の増強を伴うことがあり、むしろ地内増強工事のほうに大きな費用と工期が発生することがある。新々北本(30万kW)では、地内増強無しの場合で費用(C)617億円・工期5年、地内増強ありの場合で費用3,595億円・工期15年程度と見積もられた。費用便益(B/C)評価としては前者が便益(B)967億円で便益比B/Cが1.57と「1」を超えたのに対して、後者は便益1,323億円でB/Cが0.37であり一定の感度分析をおこなっても1を超えることは無かった。
北海道エリアでは2018年度末時点で再エネが175万kW(太陽光131万kW+風力44万kW)導入されているが、将来447万kW(太陽光185万kW+風力262万kW)まで増加しても、新々北本の増設効果により再エネ抑制率は3.5%に抑えることが可能と試算された。
また、この新々北本30万kW増設により、全国の「燃料費+CO2コスト」年間削減効果は約68億円、このうち再エネ電源による効果は約37億円であり、再エネ効果比率は54.1%と試算された。
図1.新々北本連系設備の年間便益
上記の燃料費等削減効果のほかに安定供給の観点から、大地震等の稀頻度リスク発生時の停電量削減(32~61億円程度の効果)が想定されるが、今回の金額評価試算には計上されていない。
また容量市場開始後には、確保必要な容量の削減(容量確保契約金額の抑制)や、需給調整市場の開始後には、調整力確保支払額を抑制する可能性があるが、現時点ではそれらの価格や市場分断発生状況を予測することができないため、費用便益評価の対象とはしていない。
新々北本連系設備の費用負担の考え方
上述のとおり、新々北本増強の費用総額は明らかになったが、誰がどのようにこの費用を負担するのかを決める必要がある。
冒頭で「再エネ主力電源化」について触れたが、地域間連系線を増強することによるメリットは再エネ導入の拡大だけではない。むしろ、ここ1~2年で連系線増強が再びホットなテーマとなった最大の要因は「レジリエンス強化」の観点である。
2018年には、西日本豪雨や台風21号、北海道胆振東部地震など多くの自然災害が発生したため、国には「電力レジリエンスワーキンググループ」や「持続可能な電力システム構築小委員会」などが設置され、広域機関には「電力レジリエンス等に関する小委員会」が設置された。これら複数の審議会において同時並行的に地域間連系線の増強が検討され、電力レジリエンスWG中間取りまとめ(2018年11月)では、北海道ブラックアウトを踏まえた再発防止策として「北本連系線の更なる増強等の検討に着手すること」が求められた。
そして費用負担・回収の観点では、「持続可能な電力システム構築小委員会」において、地域間連系線の増強を促進するための制度整備の論点として、① 全国調整スキームの設計、② 再エネ特措法(FIT法)上の賦課金方式、③ JEPX値差収益の活用、などについて検討された。
一般的に、地域間連系線を増強することにより、
- 他エリアとの広域融通による、安定供給(供給信頼度)の向上:Energy Security
- 広域メリットオーダーによる、全国大の発電費用抑制(価格低下):Economic Efficiency
- 再エネ電源導入増加による、CO2排出量削減:Environment
などの便益(エネルギー政策の3E)向上が期待される。
これらのうち価格低下やCO2削減の便益は、特定の地域だけでなく全国的に効果が及ぶため、その費用負担については原則全国負担と整理された。具体的な徴収方法としては託送料金への上乗せである。
さらに、再エネに由来する便益(価格低下及びCO2削減)に対応する費用については、FIT法の賦課金方式を用いると整理された。
なお、安定供給強化の便益分については、連系線に直接つながる両端のエリアの一般送配電事業者が負担する(最終的にはそのエリアの託送料金に反映される)こととした。
上記の全国から費用回収する部分については、託送料金だけでなく、JEPX値差収益も活用すると整理されているが、現時点でその具体的な方法は未定である。JEPXではスポット市場の分断が発生した場合、そのエリア間値差による値差収益が計上されている。現在これは区分経理した上で、経済産業大臣の事前了承がなければ使用できない制度となっている。
増強工事(総額480億円)には、まったく新しく工事する部分と、既設設備の「更新」に当たる部分の両方が含まれている。既設設備の更新は、新々北本の増強が無くともいずれ実施されていたはずの工事である。よってこの更新に伴う受益分は、当該エリア(北海道・東北)の安定供給確保の便益分にあたることから、当該エリアの一般送配電事業者が負担することとした。新々北本では、この工事費は約24億円と試算された。図2の①に当たる部分である。この24億円を差し引くことにより、全国調整スキームの対象額は456億円となった。
図2.新々北本連系設備の費用負担概要
上述のとおり、全国で費用負担すべき「②再エネ由来の効果」は54.1%と試算されているため、全国調整スキーム456億円×54.1%=約247億円がFIT賦課金方式になると考えられる。
次に、図2の③「その他電源由来の効果」分45.9%の209億円は誰がどのように負担すればよいだろうか。
「脱炭素化社会に向けた電力レジリエンス小委員会」の中間整理では、費用回収の確実性を高める観点から、③-a「両端の事業者がまずは負担する部分」と③-b「沖縄を除く9社が固定的に負担する部分」を1:1とすると整理されている。
図3.新々北本連系設備の費用負担全体像
図3の③-aについて補足しておくと、託送料金には、一般送配電事業者間の「事業者間精算」という制度がある。あるエリアで発電された電気が他のエリアに送電される場合、他エリアへの送電量に応じて一般送配電事業者間で費用精算される仕組みである。今回、初期費用のほぼ全額が北海道側の負担となるが、中長期的には東北電力ネットワーク株式会社を通じて、需要家(受益者)の負担として転嫁される。
③-bについても、一義的には9つの一般送配電事業者が費用負担するとしても、それらは結局託送料金に転嫁されるため、需要家負担の重さが一律となるようにエリア需要電力量(kWh)の比率で分担することとした。例えば東京エリア(東京電力パワーグリッド株式会社)は、全国需要電力量8,649億kWhのうち2,788億kWhを占めるので、費用負担比率も32.2%となっている。
以上が、新々北本連系設備の費用負担の考え方と具体的な負担者・負担金額である。
東北東京間連系線増強の費用負担
東北東京間連系線の増強は、すでに2017年4月から工事が着手されており、所要工期は10年8ヶ月、増強の完了時期は2027年11月と見込まれている。計画策定時の工事費総額は1,530億円となっている。
連系線の運用容量は、現在の583万kWから1,088万kWへ、505万kWの増強となる。
元々、東北東京間連系線の増強は、東北エリアに新たな発電所を建設し、東京エリアにその電力を送電しようとする事業者からの提起により、増強が決まった連系線である。この提起事業者が受益する部分を「特定負担」方式により事業者自身が負担し、残りを「一般負担」(託送料金による回収)とした。
全国調整スキームのうち、67.5%が再エネ由来の効果であると試算されている。
図4.東北東京間連系線増強の費用負担
その他、基本的な考え方自体は、新々北本と同様であるので説明は割愛する。
同じ地域間連系線の増強でも、「新々北本」と「東北東京間」の費用負担の構造はかなり異なることが見て取れる。
「第47回広域系統整備委員会 コネクト&マネージ N-1電制本格適用に向けて「後編」」でもお伝えしたとおり、今後は広域機関が電力系統に関するマスタープラン(「広域系統長期方針」と「広域系統整備計画」)を策定することが求められている。
このマスタープランに基づいた、新たな地域間連系線の増強が検討される可能性が高い。 現在の費用便益評価はまだ一部便益が捨象されるなど暫定的な姿に過ぎない。
費用便益評価や費用負担の在り方については、今後一層の精緻化が望まれる。
(Text:梅田あおば)