審議会ウィークリートピック
梶山弘志経済産業相は2020年7月3日の記者会見で、二酸化炭素を多く排出する非効率な石炭火力発電所の2030年に向けたフェードアウトを確かなものにする、新たな規制的措置の導入等の検討開始を表明した。石炭火力フェードアウト方針そのものは、現在の「第5次エネルギー基本計画」にも明記されているが、その具体的措置について言及されたのは初めてのことであったため、各方面から驚きを持って受け止められた。
では、そのエネルギー基本計画はどこでどのようにして策定されているのか。その答えは「基本政策分科会」である。今回の「審議会ウィークリートピック」では、この基本政策分科会についてお届けしたい。
1年ぶりとなった「基本政策分科会」
第31回「基本政策分科会」が7月1日に開催されたが、その前回第30回が開催されたのは約1年前の2019年8月である。開催頻度が低いのは、今がエネルギー基本計画(以下、エネ基)策定のいわば「端境期」にあたるためである。
エネ基は、「エネルギー政策基本法」により、「少なくとも三年ごとに、必要があると認めるときには、これを変更しなければならない」とされており、現在の「第5次エネルギー基本計画」は2018年7月に策定されたため、次の第6次エネ基の見直し検討の着手期限は2021年夏となっている。
基本政策分科会の歴史
少し歴史を振り返っておくと、最初のエネ基は2002年に成立したエネルギー政策基本法により、2003年に第1次エネ基が策定された。
その後、2011年の東日本大震災および福島第一原発事故を受け、当時の第3次エネ基を白紙から見直すこととして、新しいエネ基の策定に向け、総合資源エネルギー調査会総合部会「基本問題委員会」において議論が開始された。
検討は「総合部会」に引き継がれたが、2013年の政令(総合資源エネルギー調査会令)改正、総合エネ調査会の組織の見直しにより、その名称が「基本政策分科会」へと変更された。
よって基本政策分科会とは、総合資源エネルギー調査会令によって総合資源エネルギー調査会のもとに設置された分科会であって、エネルギー基本計画の案を作成することが政令上定められている。
なお基本政策分科会の下には、「再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会」や「持続可能な電力システム構築小委員会」、「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」、「ガスシステム改革小委員会」など、多数の小委員会が設置されており、具体的な制度設計はこれら小委員会で担われている。
このように基本政策分科会では、大きな基本計画について議論されており、具体的・細かな制度を決める場ではない。
資源エネルギー庁事務局から大部(今回85ページ)の資料説明があったのち、20名の委員が大所高所から、思い思いの意見を述べている。通常、委員間の議論のようなものはなく、与えられた持ち時間(3分で原則1回きり)の中で、委員各人の関心に沿った自由な発言がなされている。
具体的な制度を作る審議会では、一定程度、委員の「合意」を得ることを目的としていると思われるが、基本政策分科会では必ずしも他の委員の合意を得ることを目的とせず、全く異なる多様な観点から意見が述べられているように感じられる。例えば、ある委員が原発だけについて発言し、ある委員は分散型電源、デジタル化について発言するなど、断片的に聞いていると同じ審議会とは思えないほどの自由さが存在する。
また後述するように、事務局資料上では原発に関する記述の比率はそれほど大きなものではないのだが、委員発言タイムにおいては、大半の委員が(賛否を問わず)意見の一つとして原発について言及しているため、実質的に、原発の在り方が分科会の最頻テーマの一つとなっている。
脱炭素社会の更なる具体化をエネルギー情勢の現状と課題
現在の第5次エネ基は、2015年に策定されたエネルギーミックス(長期エネルギー需給見通し)に基づいた計画となっている。2030年の電源構成は原発が20~22%、再エネが22~24%、石炭が26%となっている。
第31回分科会では、事務局からエネルギーミックスの進捗が報告された。ここでは2013年度が基点とされている。
出所:エネ庁事務局資料を基に筆者抜粋新型コロナウイルスの影響によるエネルギー情勢の変化も今回分科会の主要テーマであった。世界のGDP予測は2020年に▲4.9%、2021年に+5.4%であるが、エネルギー需要については2020年に▲6%程度、2021年以降では需要は一部回復するものの、構造変化が起こる可能性が指摘されている。
出所:エネ庁事務局資料を基に筆者抜粋ここでは例えば、「人」や「物」の移動・流れの恒久的な変化が起こる可能性が指摘されており、個人や企業等の新たな日常・生活様式・企業活動を踏まえた、「with COVID-19」のエネルギー需要高度化・全体最適化に向けた取り組みの検討が課題として挙げられている(表3、課題①)。
事務局からは今後のエネルギー政策の方向性の論点として、以下のような6つの課題と取り組みの方向性が示されている。
世界的な脱炭素化・グリーンリカバリー(コロナ後の経済復興を脱炭素化を主軸とするもの)を契機として、電化・水素化等のエネルギー転換の高度化が求められると同時に、自然変動再エネ(太陽光や風力)の導入拡大に沿った、エネルギー需要側の「最適化」(デマンドレスポンス等)の推進・支援が示されている。
左列の課題④⑤⑥に対しては、右列の「対応の方向性」がひとつにまとめて記述されている(この表は筆者による抜粋であり、オリジナルはもっと長文である)。
確かに、課題と対応が1対1の関係に留まらず、多方面に相互関連していることは理解できるものの、エネ庁事務局側でも整理に苦労した痕跡が見て取れる(決して、筆者がうまく整理できるということを意味しているわけではない)。
逆に言えば、一つの取り組みが複数の課題を同時に解決できる可能性も秘めている、と考えられる。
また、上記「課題・対応の方向性」はいずれも重要な論点であるが、その大半は従来から繰り返し述べられてきたことの再掲であり、今回特に目新しい論点が提示されているわけではない。
この意味では、この第31回分科会の2日後に公表された、冒頭の「石炭火力フェードアウト」のための新たな規制的措置の導入等は、画期的であり具体的な方向性であると評価できる。
また、エネルギー政策の一つとして省エネは大変重要であるが、上記の「課題・対応の方向性」では、やや記述が薄い印象である。これは、例えば住宅等の建築物の省エネ政策や、運輸の省エネ政策は国土交通省が所管しており、エネ基を取りまとめる経産省とは異なる省庁であることが一因であるかもしれない。本件に限らず、縦割りではなく、他省庁と連携して(一体となって)国全体としてのエネルギー政策を検討する場を設けることを期待する。
エネルギー全体を見渡した、経済的インセンティブの考え方・枠組みを再考するタイミング
事務局資料において、「消費側」の観点で、「電化」への言及が多いことは筆者としては歓迎したい。ところが現状では(あくまで筆者の私見であるが)、電化を料金面で妨げる要因が幾つも存在する。
例えば、FIT賦課金は電気だけに掛かっているため、ガス等の他燃料と比べ、電気は相対的に割高な二次エネルギーとなっている。また非化石証書制度のような、「電気だけ」を対象とした制度も、国全体の脱炭素化をゆがめる(非効率的な)仕組みであると認識している。
エネ基の見直しにおいては、エネルギー全体を見渡した、経済的インセンティブの考え方・枠組みについて再考すべきタイミングなのではないだろうか。
言い古された手法ではあるが、(税収中立的)炭素税や排出量取引の本格的導入がその候補として考えられる。
表3の最下行にある「コスト・税・電気料金/賦課金等のトータルの負担の適正化」が、この検討・抜本的見直しの入り口を意味していることと期待したい。
前回、第5次エネ基策定準備にあたっては、2017年8月に第21回基本政策分科会を開催した後、2018年5月の第27回分科会まで計7回の集中的な議論が交わされた。
今回は、冒頭のような「石炭火力フェードアウト」の具体化という大きな変更が見込まれるため、議論のペースが変わる可能性もある。基本政策分科会の下の複数の小委員会でも具体的な議論が始まることが想定されるため、本「審議会ウィークリートピック」では、今後も継続的にこれら議論の趨勢をお届けしたい。
(Text:梅田あおば)