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節電所づくり、省エネゲームから社会実装へ

節電所づくり、省エネゲームから社会実装へ

2021年01月22日

レジェンド? はたまた惰性? ~足温ネット20年の軌跡

前回は、1990年代のドイツにおける「節電所」の調査について紹介した。この成果をもとに、日本でも具体的な省エネルギーを地域で進めていく事業を目指すことになる。とはいえ、それ以前に人々に省エネルギーについて知ってもらうことが必要だ。そこで取り組んだのが、「省エネゲーム」である。それがどのようなゲームであり、そしてどのように全国に展開していったのか、足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ(足温ネット)事務局長の山﨑求博氏が当時を振り返る

省エネゲームの開発

さて、ドイツの節電所づくりに学びながら、省エネ家電買い替えサポート事業を展開することになるわけですが、この事業の土台となったのがワークショップ形式で行う「省エネゲーム」の開発です。このゲームは、2002年3月に開催された全国地球温暖化防止活動推進センター「地球の学校」のワークショップ用として作られました。

当時、家電メーカーでは冷蔵庫やエアコンの省エネ性能にしのぎを削っており、省エネルギー財団やメーカー各社の情報を調べれば、従来の製品に対してどれだけ省エネになるか数字で示すことができました。そこで、省エネ性能を可視化しようと理事の一人である田中優さん(現・環境運動家)が、省エネ型の家電製品や低燃費車に替えたり、窓を複層化したりすることなどによって、どれだけのCO2排出量と光熱費が減らせるかを一覧にまとめました。

この情報を基礎に、どの省エネアイテムを選ぶ=購入することで、どれだけ省エネ効果があったかを競い合うゲームの原型ができました。それを、まちづくりワークショップの経験を持つ今井邦人さん(現・日本総合研究所主席研究員)が流れを整えました。

「地球の学校」のワークショップでは、4~5人がチームとして家族4人の世帯となり、300万円の資金を使って様々な省エネアイテムを購入し、その結果を自分たちで計算して、20年間の省エネ効果を疑似体験するという流れで行われました。そして、ワークショップを重ねながら改良を続け、2003年4月には合同出版から書籍化され、ゲームキットとセットで販売されるにいたります。

主な改良点としては、リアリティを持たせるため、買い替えた後の廃棄にかかるCO2排出量を加算すると共に、ゲームの途中でアクシデントカードを引かせ、省エネ効果が人生ゲームのように逆転する仕掛けもいれました。参加者からは「分かりやすい」と好評で、アクシデントに一喜一憂しながら、20年間の省エネ分でアイテム購入金額を上回る結果が出ると驚きの声があがりました。

ファシリテーターとして全国各地へ

書籍化に当たり、私たちは「ものぐさ省エネゲーム」というタイトルを提案しました。ものぐさな人間でも大きな省エネ効果が得られるという意味だったのですが、出版社から「ものぐさという言葉はイメージが悪い」と却下され、『Ecoエコ省エネゲーム』というべたなタイトルに落ち着きました。

4月に出版されると、3ヶ月の間に1,000部が売れ、新聞にも取り上げられたことから、あちこちからファシリテーター派遣依頼が来るようになりました。多かったのは、全国の都道府県に設置された地球温暖化防止活動推進センターからの依頼で、主に推進員の養成講習で使われました。

依頼があまりに多いので、講師依頼をルール化し、講師料3万円+交通費別途という当時としては高めの設定にしましたが、それでも依頼は途切れませんでした。当時、地球温暖化問題について学べるソフトが少なかったこともあるでしょう。

ファシリテーターは、運営委員会メンバーが当たり、北は北海道から南は沖縄まで行きました。ある時、どうしても行けるメンバーがおらず、ゲームの進行をしたことが無い筆者が派遣されることになりました。最初は、未経験で腰が引けていたのですが、場所が沖縄と聞き二つ返事で引き受けました。参加者を前に見様見真似でゲームを始めました。

本と首っ引きでの進行でしたが、何とかワークショップとして形にできました。というのも、出版社が教育本を多く手掛けていたため、学校の授業で使えるようになっていて、書籍にはゲームの進行が事細かに書かれ、省エネの意味や地球温暖化問題との関係などの解説も充実しており、この通りに進めれば誰でもゲームを進められるように作られました。

ゲームから社会実装へ

ファシリテーターとして全国各地に行くことで、様々な方々と知己を得たり、色々な話を聞いたりしました。前述の沖縄では、東京に比べ冷房需要が高いため東京で行った時のような省エネ効果が上がらないことが分かり、現地の気候風土に合わせたバージョンが必要だという話になりました。

秋田では、理容業協会の代表から、「技術が高ければハサミだけで髪を整えられる。電気を食うドライヤーに頼るのは腕が無い証拠だ」との話を聞き、感心した記憶もあります。青森では、酒を酌み交わしながら地域の未来について語りあったりもしました。

実際にゲームを体験してみると、地域差はあるものの、省エネ効果は少なくとも40%減は可能という数字が出てきました。机上の計算とはいえ、これだけの結果が得られたことで、私たちは自信を得ました。そして、このゲームが正しいかどうか社会で試してみようということになりました。社会実装というやつです。こうして、省エネ家電買い替えサポート事業が2003年8月からスタートしました。この事業がどうなっていくのか、それはまた次回で。

山﨑求博
山﨑求博

1969年東京江東区生まれ。東海大学文学部史学科卒。現在、NPO法人足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ事務局長。自分をイルカの生まれ変わりと信じて疑わないパートナーとマンション暮らし。お酒と旅が大好物で、地方公務員と環境NPO事務局長、二足の草鞋を突っかけながら、あちこちに出かける。現在、気候ネットワーク理事、市民電力連絡会理事なども務める。

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