『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『夕陽に赤い町中華』などでおなじみの北尾トロさんの新連載がはじまります。カーボンニュートラル?脱炭素?SDGs??という自称・脱炭素オンチの北尾トロさんが、「知らぬが仏」にしておけないキーワードを自ら調べ上げ、身近な問題として捉えなおします。
知らぬがホットケない 第1語 SDGsの7番
知っているようでよくわかってない人が多そうな言葉について考える当コラム。最初のお題は『SDGsの7番』である。
「どうですか、この言葉が何か説明できます?」と試されたみたいで少しイラっとしたが、悔しいことに説明できない。
いや、SDGsが持続可能な開発目標のことだとは知ってるんですよ。問題は7番だ。つまりこの問い、言葉の意味ではなくて中身についての質問である。
僕はすぐ、我が家秘蔵の新聞ストック箱をひっくり返した。大切そうだし興味もあって読んだけどすぐ忘れそうな記事を保管しているのである。
見開きカラー2ページのSDGs特集はすぐに見つかった。まず答えを発表しておこう。7番とは<すべての人々が安くて信頼性の高い持続可能で近代的なエネルギーを利用できるようにする>こと。太陽光などの再生可能なエネルギーの使用を広める必要がありますよ、という内容だ。
書店には"人は〇〇が9割"という、いかにも根拠の薄そうな本が並んでいるけど、日本は誇張なしで、電気やガスを作る資源の9割が輸入頼み。3.11を経てもなお原発を推進したい人を除き、多くの人がこれからは自然エネルギーだと思っているだろう。
資源には限りがあるし、環境問題のことを考えても、そろそろ本気で取り組まないと手遅れになりかねない。太陽光でも風力でも小水力、地熱、バイオマスでも、使えるものがあるんだから、そっちにシフトしていこうよという提案は正しいと思える。
僕も賛成であります。ということで、正解を短く述べると、「クリーンエネルギーをみんなに行き渡らせよう」になる。
全部で17項目あるSDGsの全体も読んでみた。貧困をなくそう、飢餓をなくそう、不平等をなくそう、気候変動への緊急対策を講じよう---。素晴らしい。賛成しない理由が見つからないことだらけだ。
国連発足70年の節目にあたる2015年に誕生したSDGsは、世界が至急取り組まねばならない大きな課題をピックアップすることで、すべて実現出来たら理想の社会になりますと語りかけてくる。
言うだけじゃ絵に描いた餅になることもわかっていて、目標数値を設定。2030年までに達成する約束(らしきもの)もしている。うまくいったら、この1月に人類滅亡までを時計に見立てて"残り100秒"だと発表したアメリカの科学雑誌『ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ』も大幅に時間を巻き戻すことだろう。
そんなの無理に決まっている、と言いたいのはわかる。世界には地域格差があるし、取り組み方にも温度差がある。市民の参加を促したり、民間企業がビジネスとして取り組めるようになってきたとはいうものの、あと15年かそこらで理想の世界が出現するなんて、当の国連だって思っていないに違いない。
それでも、いけしゃあしゃあと理想を掲げるのが国連ってもので、その存在意義は経済規模も政治の体制も異なる国や地域間に一種の競争原理をもたらすことだと僕は思う。
学校に例えてみよう。
上級生から下級生まで全クラスの学級委員が集まり、「このままでは廃校確実だ。どうすればいいか」を話し合ったら、きれいごとの意見にまとまった。学級委員がクラスにそれを持ち帰り、いついつまでにやりましょうとみんなに言う。できっこないよと反発する生徒もいるが、目標を与えられて張り切る生徒もいて、なんとなく進み始める。
そのうち、隣の〇組はこうしている、3年にすごいクラスがあるといった情報が入ってくると、ふてくされていた生徒がポツリと言うのだ。「負けてらんねーな」。全体のことを考えすぎると、「俺一人がんばっても意味ない」と思えることも、「隣のクラスより実績上げて褒められよう」ならできそうだ。結果、満点は取れなくても合格ラインに達し、学校が存続できればめでたしめでたし。
日本もそれでいいと思う。2020年6月に発表されたリポートで日本は世界166ヶ国中17位、アジアでは1番らしいので、とりあえずベスト10入りを狙いますと大臣が言えばいい。オリンピック開催はやめて、SDGsでメダルを取りましょうと言えばもっといい。
そのためにすぐ打てる手もある。早急にSDGs(持続可能な開発目標)の表記を、持続可能な開発目標(SDGs)に改めるのだ。いまだにSDGsのことを韓流アイドルグループと勘違いしている輩は少なからずいると思うから。
参考資料:東京新聞2020年12月6日朝刊「SDGsってなに?」
(この連載は隔週金曜日に掲載です)
気候変動の最新記事