サプライチェーン全体の脱炭素化のためには、海運の脱炭素化は避けては通れない。業種を問わず多くの企業に関わる問題だ。特に、グローバルでビジネスを行う世界大手にとっては、海運の脱炭素化をどのように進めるかがスコープ3の喫緊の課題だ。
10月、アマゾンやイケア、ミシュラン、ユニリーバなど多様なセクターの世界大手が、2040年までにゼロエミッションの船舶を採用するイニシアチブに加わった。これは海運の脱炭素化にとってどのような意味をもつのか? 世界の海運にこれから訪れる荒波を予想し、海運大国ニッポンにおける海運の脱炭素化に向けたアクションを探る。
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現在、世界品の貿易のほとんどが海上輸送されており、海運によるCO2排出量は世界全体の約3%だ。
2018年、国連の国際海事機関(IMO)は国際海運における排出削減目標を発表した。2030年までにCO2排出量を40%以上、2050年までに50%以上(いずれも2008年比)削減するというものだ。
しかし、排出削減は難航している。IMOによると、2012年のCO2排出量が9億6,200万トンだったのに対し、2018年には10億5,600万トンと約9%増加したという。
新型コロナの影響で直近の排出量は減少する見通しだが、将来のシナリオも芳しくない。長期目標に反して、2050年には基準年である2008年の排出量の90~130%になるという予測も出されている。非常に厳しい状況であることが見て取れる。
そんな中、IMOは2021年6月、船舶のCO2排出規制の対象をこれまでの新造船から既存船にまで広げると決定した。この規制は2023年1月から始まる予定で、これによって海運の脱炭素化が進展すると期待される。
この規制の見直しは、昨年のIMOの海洋環境保護委員会で日本を含む19ヶ国が共同提案した。船舶の燃費性能を事前・事後にチェックして格付けを行い、低ランクだった場合は改善計画を提出しなければならない。これによってCO2排出量の40%削減を目指す。
海運の脱炭素化で欧州が一歩先行していると考える理由は2つある。1つは、デンマークの海運大手マースクのグリーンアンモニアなどの先駆的な取組み、もう1つは、EUの排出量取引(EU ETS)をめぐる欧州委員会の姿勢だ。
デンマークのマースクは、2030年までに2008年比で60%のCO2排出量を削減し、2050年にはネットゼロ・エミッションを目指している。同社の脱炭素化戦略は、船舶燃料を重油からLNGにするという一般的な策ではなく、バイオメタノールやグリーン水素などへの燃料転換を中核とする。
また、2023年までにカーボンニュートラルな船舶を運航するとして、再生可能エネルギーでアンモニアをつくるグリーンアンモニア製造施設の設立も支援している。
EU排出量取引制度(EU ETS)とは、いわゆるキャップ&トレード方式の排出量取引だ。対象者の排出量に上限(キャップ)を定め、それを超過する場合にはクレジットなどによる相殺や排出枠の追加購入を認めている。逆に排出枠が余った場合は、売却することができる。そして、排出量の上限を守れなかった場合は、超過排出量に応じた超過金が課される。
EU ETSは2005年に開始され、2012年に航空機も適用の対象となったが、海運はこれまで対象外だった。しかし、今年7月に提出されたEU ETSの改正案では、海運をはじめ、陸上輸送や建築物も対象に加えるとされた。
案では、5,000トン以上の大型船は、船籍に関わらず2026年から適用する旨も盛り込まれた。したがって日本船籍の大型船舶も対象になる。
クレジットや排出枠の追加購入、あるいは超過金といったコストを回避するには、船舶の脱炭素化が必須だ。この観点からも、船舶燃料の転換を積極的に進めなければならないといえる。
アマゾンたちがゼロエミ海上輸送を目指す意味。そして日本企業は・・・次ページ
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