こうした背景を踏まえて、アマゾンらのアクションの意味を考えたい。2021年10月19日に、アマゾン、イケア、ミシュラン、パタゴニア、ユニリーバなど9社は、2040年までにすべての海上輸送をゼロエミッション船にシフトするイニシアチブに参加した。
これは、Cargo Owners for Zero Emission Vessels (coZEV)というイニシアチブで、環境団体のアスペン研究所が主導している。アマゾンら9社は最初の参加者となったということだ。
coZEVが目指すのは、ライフサイクル全体でゼロエミッションな船舶燃料だ。したがって、再生可能エネルギーでつくられるグリーン水素やグリーンアンモニア、バイオメタノールなどが当てはまる。
これらの新しい船舶燃料はまだ十分に商用化されていない。しかし、小売や消費財の世界大手がこうした意思表示をしたことで、研究開発が促進され、コストだけでなく安全性や生産性も飛躍的に向上すると予想される。
一方で、ゼロエミッションでない船舶燃料は彼らのサプライチェーンから締め出されることになる。こうした流れは今回の9社にとどまらず、RE100参加の大手企業を中心に広がっていくだろう。EU ETSの改正を控えた欧州では、2040年を待たずしてこの流れが顕著になっていくかもしれない。
アマゾンは再生可能燃料の開発に取り組むスタートアップであるインフィニウムに投資している。同社は、CO2と水素からゼロエミッション燃料をつくり、航空、海運、陸上輸送での活用を目指している。
イニシアチブ参加と時を同じくして、アマゾンはインフィニウムに6,900万ドルの追加投資を完了した。共同出資者には、米国のイケてる電力会社ネクステラグループのネクステラ・エナジー・リソースも含まれている。
こうしたアマゾンの動きからは、陸上輸送の電化はもちろん、海上輸送を燃料転換することで脱炭素化しようとする強い意志を感じる。EVのリビアンの例でも示されたように、アマゾンのクリーンテックへの投資には、最新技術を自社に優先的に提供させる囲い込みの側面もある。その範囲が海運や航空までカバーされていることにも注目したい。
もちろん日本勢も頑張っている。2021年6月には、伊藤忠商事など23社が、アンモニアの船舶燃料の実用化を目指して協議会を立ち上げた。この協議会のメンバーは、翌7月には34社に増え、デンマークの海運大手マースクなども参加した。
また、川崎汽船などとアンモニア燃料船の開発も進めており、2028年までに社会実装を目指すという。
一方、日本郵船はエネルギー大手bpとパートナーシップを結び、バイオ燃料やメタノールへの燃料転換を進め、将来的には水素やアンモニアなどのゼロエミッション燃料の開発を行うとした。
国際海運のゼロエミッションへのシフトにあたり、ぜひ日本勢にリーダーシップを発揮してほしいと願う。また、グリーン水素やグリーンアンモニアといった、ライフサイクル全体でゼロエミッションな燃料の実用化にも力を入れてもらいたい。
サプライチェーンの脱炭素化に不可欠な海運でも、今後ゼロエミッション燃料への移行を巡りすさまじい攻防が起きそうだ。その舞台でも日本が勝ち残っていけるように、そして海運大国であり続けるように、今回のイニシアチブやEU ETSの改正動向について、我々も注視していきたい。
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