電気代・ガス代は上がり続けるのか? 日本にも影響を与えている欧州エネルギー危機徹底分析(前編) | EnergyShift

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電気代・ガス代は上がり続けるのか? 日本にも影響を与えている欧州エネルギー危機徹底分析(前編)

電気代・ガス代は上がり続けるのか? 日本にも影響を与えている欧州エネルギー危機徹底分析(前編)

2021年11月17日

2021年11月現在、天然ガスをはじめとする化石燃料の価格が高騰している。日本ではこの冬に向けてLNGを確保しているというが、それでも電気料金は燃料費調整制度に基づいて値上がりしている。欧州の天然ガス価格はさらに深刻な値上がりとなっており、英国ではいくつもの小売電気事業者・小売りガス事業者が経営破綻する状況となっている。今回の価格高騰は何が原因なのか、英国をはじめ欧州の電力・ガス事業はどのような状況になっているのか、そして日本に対する示唆はどうなのか。エネルギー経済社会研究所代表取締役の松尾豪氏が、3回にわたって徹底的に解説する。 

1.危機的な状況の欧州

既に国内でも報道されている通り、英国でエネルギー小売事業者の事業停止・撤退が進んでいる。本稿執筆時点(2021年10月28日)で14社の小売エネルギー事業者が事業停止しており、年末には5-10社ほどの事業者しか生き残らないと見られている。昨年東アジアを襲った寒波・LNG危機の局面において、欧州でも寒波による需要増と風力出力の低迷が重なり、市場価格の上昇を経験したが、社会・経済への大きな打撃は抑えられた。

ところが、欧州では3月以降継続してガス市場価格が上昇し、特に7月上旬から始まったロシアからドイツに天然ガスを送る海底ガスパイプラインNord Streamのメンテナンス停止、8月中旬にロシアがYamal-Europe Gas Pipelineを通じた西欧向けガス供給を急減させてから欧州ガス市場価格が急激に上昇、9月には英国の電力インバランス価格(小売事業者に対する電力需給の不一致に対するペナルティ価格)と前日市場価格が相次いで史上最高を記録し、小売事業者の撤退や産業用需要家の操業停止、一般家庭の電気料金上昇など社会・経済に多大な影響が生じつつある。

ほぼ同時期に発生したトラック運転手不足に伴う物流停滞やパニック買い品不足、物流停滞打開に向けた英国陸軍の投入は英国社会に大きな衝撃を与えた。現在の英国社会は、労働組合のストライキによる電力送電停止やごみ収集停止、物流停滞に直面した1970年代の「不満の冬」を彷彿とさせることから、一部専門家の間では「不満の冬の再来」とも囁かれている。

本稿では、英国をはじめ欧州で発生したエネルギー危機について説明したい。

英国の電気事業者の実情・・・次ページ

松尾豪
松尾豪

合同会社エネルギー経済社会研究所 代表取締役 2012年イーレックス株式会社入社、アビームコンサルティングなどを経て2020年にエネルギー経済社会研究所を設立。CIGRE会員、電気学会正員、公益事業学会会員、エネルギー・資源学会会員。

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