FIT制度開始後、太陽光発電が突出して導入が進んだことに対して、地熱発電や風力発電の導入はやや遅れている。この理由として、様々な規制の存在がこれら再エネ電源の開発を困難にしている一因であることが指摘されている。2021年4月27日に開催された、内閣府の第8回「再エネ等に関する規制等の総点検タスクフォース(TF)」では、地熱発電に関して温泉法・自然公園法に対する規制改革の要望が、また風力発電に関して自然公園法に対する規制改革の要望が議論されたので、この概要を紹介したい。
審議会ウィークリートピック
国内の地熱資源量2,347万kWは世界第3位のポテンシャルであるにも関わらず、導入済み設備容量は60万kWと、ポテンシャルの約2.5%に留まっている。これは現行のエネルギーミックス(2030年)で想定された140万~155万kWと比べても進捗率4割程度に留まっている。
国内の地熱資源はその約8割が国立公園などの自然公園内に存在するため、自然公園内での開発の是非が地熱発電の導入促進に大きく影響する。開発には一定の規制が掛かるものの、自然公園内においてもFIT制度開始の2012年以降で62件の案件開発が進められている。
表1.国立・国定公園内における地熱開発の状況
R2年7月末時点の開発段階 | 地表調査 | 掘削調査 | 探査 | アセス | 開発・生産 | 操業 | 計 |
国立公園 | 20 (4) | 13 (5) | 7 (0) | 0 | 3 (0) | 4 (0) | 47件 (9件) |
国定公園 | 5 (1) | 4 (4) | 3 (2) | 1 (1) | 0 | 2 (0) | 15件 (8件) |
※( )内の数字は、想定出力3,000kW以上 出所:TF環境省資料
国立・国定公園内における地熱開発の取扱いを定める現在の環境省「通知」では、自然環境保全上重要な地域および公園利用者への影響が大きな地域では原則として認めない、とされている。このため地熱発電事業者が植樹や配色などによる環境配慮対策を計画した案件であっても、登山道等から見えることを理由に発電所設置が容認されないケースが散見される。
これに対して日本地熱協会は、風致景観へ配慮した設計や敷地造成を行う案件については発電所設置を容認するよう、環境省ガイドラインの見直しを要望している。
また、発電所詳細計画提出のタイミングに関して、調査初期段階(地表調査や調査井掘削時点)では発電規模も決まっていないため、発電所の詳細レイアウトの提出は困難である。
地熱協会からの要望に対して環境省は、調査初期段階の詳細レイアウト提出を不要とする規制緩和をおこなうことを回答した。
国内の温泉地数は2,971ヶ所、源泉数は27,969ヶ所存在し、温泉は地域にとって重要な資源として地域経済の核となっていることから、温泉資源の保護を図りながら再エネの導入を促進することが重要である。
このため温泉法では温泉の保護等を定めており、環境省が定める「温泉資源の保護に関するガイドライン(地熱発電関係)」では、地熱発電の開発の各段階における掘削等について許可または不許可の判断基準の考え方を示している。
図1.温泉資源の保護に関するガイドライン(地熱発電関係)イメージ
出所:TF環境省資料
地熱開発における有望地点は、国立公園内や保安林内等に位置する場合が多く、風致景観や自然環境への影響低減が必要とされている。このため、地熱資源に向けて地下垂直に最短距離で掘削することがコスト優位であるにも関わらず、地熱発電事業者は環境への配慮を最優先に考えて「傾斜掘削」を採用している。
これにより1つの基地から複数の地熱有望地点(断層構造)をターゲットとすることが可能となり、掘削基地を集約することで敷地およびアクセス道路等の土地改変面積を低減している。
図2.1つの基地から複数の地熱地点に向けた「傾斜掘削」
出所:TF地熱協会
図2のような傾斜掘削の場合、当然ながら、坑井の地上部の口(坑口)は、かなり近接したものとなる。ところが、自治体により具体値は異なるものの(例えば300m)、温泉法(内規)による規制として、坑口間や坑跡全区間で一定の離隔距離を取ることが求められている。
この場合、複数の掘削基地が必要となり土地改変面積増加による環境への影響が生じるほか、コストアップにもなるため地熱開発事業性への影響が懸念される。また地域によっては、掘削本数に制限(1施設2坑井など)が掛けられているため、資源量に見合った適正かつ効果的な開発ができないことが課題となっている。
このため、地熱協会は坑口の離隔距離ではなく、地下の地熱貯留層・熱水採取区間同士での距離に統一することや、大深度掘削における地熱開発に係る掘削本数制限については撤廃することを要望している。
また、地権者同意取得の観点では、坑跡上の全ての土地所有者同意取得を求められる地域もあり、共有地や土地所有者が死亡している場合(法定相続人の同意が必要)、同意取得に時間と手間を要し、地熱開発の大きな障害(開発の⾧期化および開発断念)となっている。
例えば鉱業法では、地下50m以深に対しては地権者の権利が及ばず鉱業権を設定可能であることなどから、温泉法でも一定深度以下の地権者同意取得を不要とするなど、手続きを簡素化することを要望している。
地熱協会では、これらのような「内規」が都道府県レベルで独自に定められている原因としては、都道府県の温泉部会(温泉法の規定により設置された審議会)に地熱専門家が不在であることを理由として挙げている。
地熱発電では新規案件の開発に10年、もしくはそれ以上の年月を要している。
このリードタイム短縮策の一つが、環境アセス手続き終了前に一部の調査を前倒しでおこなうことである。特に積雪地域では年間の実質作業期間が短いため、前倒し調査をおこなうことにより、年単位でリードタイムが短縮される可能性がある。
このため地熱協会では、環境アセス期間内でも現況調査を除いた期間であれば、地盤土質ボーリングや調査井掘削等の調査作業については容認、明確化することを要望している。
以上のような地熱協会や事業者等からの要望を踏まえ、環境省は4月27日に「地熱開発加速化プラン」を取りまとめたことを発表した。上述のような自然公園法や温泉法の運用見直し等をおこなうことにより、従来は10年以上掛かっていた地熱発電の開発期間を、最短8年に短縮することを目指している。
国内の陸上風力の開発可能な面積47,915 km2(風速6.0m/s以上)のうち、自然公園エリアは、8,093km2を占めている。森林等との重複を考慮した後の面積に基づくならば、自然公園内の陸上風力発電のポテンシャルは23.9GW(2,390万kW)と推計されている。
表2.陸上風力発電のポテンシャル
風力発電用地 | 主な立地制約 | 導入容量(重複考慮後) |
農地 | 農地転用・農振除外 | 5.4 GW (3.8 GW) |
森林 | 林地(保安林等) | 212.9 GW(136.2 GW) |
緑の回廊 | 緑の回廊 | 16.7 GW (5.5 GW) |
自然公園 | 特別地域・普通地域 | 80.9 GW (23.9 GW) |
出典:JWPA『コスト競争力強化TF報告書』(2019年1月)より抜粋・編集 出所:TF日本風力発電協会
風況の良い山稜線などは自然公園の「特別地域」であることが多いが、特別地域における発電設備の建設は、「許可制」となっている。現行の工作物(発電設備)の新設にかかる許可基準では案件開発を断念せざるを得ないケースが多いため、日本風力発電協会(JWPA)では許可基準を緩和することを要望している。
また、自然公園の「普通地域」では工作物の新設については「届出制」であるにも関わらず、実質的に許可制と同様の運用がなされており、特別地域と同様に開発を断念せざるを得なくなることがJWPAから報告された。
これに対して環境省は、普通地域における審査は届出に対して措置命令等を発出するか否かの検討をするものであること、その期間は届出から原則30日以内としていることを通知したうえで、運用改善する旨の回答がなされた。
風力発電が自然公園内の眺望に与える影響に関して、環境省は「国立・国定公園内における風力発電施設の審査に関する技術的ガイドライン」を策定している。
ガイドラインでは、「主要な展望地から展望する場合の著しい妨げ」、「山稜線を分断する等眺望の対象に著しい支障」があるものなどを不許可要件としており、その解釈および運用において風力発電開発の障壁となっている。
このためJWPAでは、風力発電施設の見え方に関する新たな知見(NEDO報告書等)を収集・分析するなど検証をおこなうことにより、実態に即していない内容については見直しすることを要望している。
自然公園地域と保安林エリアは重複することが多いため、自然公園地域における許可等が保安林の手続きに伴い長期間を要する可能性が高いことがJWPAから指摘されている。
自然公園や保安林設置の目的を尊重しつつ、風力発電・地熱発電を最大限導入するために、環境省や林野庁による省庁の壁を越えた一元的管理や規制緩和がおこなわれることを期待したい。
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