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COP26で日本は何を成しえたか 排出削減目標引き上げ、米中対立、合意文書の修正など

2021年11月22日

二重計上防止の貢献で日本は存在感を示す

そして、最後に触れるのが、閣僚級会合で議論の難航が予想されたGHGの「国際排出枠取引制度の詳細なルール決定」だ。これについては、パリ協定の6条で概要が規定されたが、先進国と途上国の利害対立などを背景に具体的な運用ルールは決まらないままだった。

排出量取引では、先進国などが途上国に対して、脱炭素事業に技術・資金などを支援した場合、削減成果を「クレジット」として受け取り、自国の削減分に算入できる仕組みを想定している。先進国の支援を受けた途上国では、再エネ導入などが進む見込みで、2030年時点で年50億トンほどの排出削減につながる可能性があると試算されている。

しかし、具体的な運用ルールが定まらなかった背景には問題があった。それが削減成果の「二重計上」防止だった。

二重計上とは、排出量削減を達成したという成果を、クレジットを受け取った先進国側だけでなく、途上国側も自国分に算入したいというものだ。しかし、この二重計上を許せば、実際の排出削減量と乖離が生じる。支援する先進国、される途上国の双方で、削減効果を分け合う仕組みづくりが必要だが、ブラジルは一部取引で二重計上の容認を求め、EUなどと対立してきた。

また、パリ協定の前身の京都議定書の下で発効した過去のクレジットをどう扱うかも主要議論の一つだった。ブラジルやインドなどは使用可能に賛成し、EUや日本などはパリ協定の排出削減効果が弱まるとして反対する。さらに、温暖化被害国への支援基金に充てるためクレジットへの手数料徴収を求める途上国と、難色を示す先進国という構図もあった。

しかし今回のCOP26で、国際排出枠取引制度については、ある程度の前進が見られ、過去のクレジットがパリ協定に移管するかについては、2013年以降に出されたものに限って移管を認める折衷案に落ち着いた。

さらに、二重計上についても支援側と被支援側、各国政府が承認したクレジットのみを各国の削減目標(NDC)に適用できるようにした。政府公認のクレジットは国同士で調整することが定められている。

この二重計上の合意内容について、大きく貢献したと自負している国がある。そう、日本だ。排出量取引に関して、日本はすでに17ヶ国と独自の削減量取引「2国間クレジット制度」を行ってきた実績がある。そして今回、この制度で得た削減量が国際的に認められるばかりか、世界的に適用される見通しがついた。このことについては、「我が国が打開策の一つとして提案していた内容がルールに盛り込まれ、合意に大きく貢献した。」と外務省ホームページでも表明されている。

二国間クレジット制度は、途上国・新興国に対して、優れた脱炭素技術等の支援などを行うことで地球温暖化ガスの削減に取り組み、その削減の成果を両国で分け合う制度のこと。

支援国からの排出削減への貢献を適切に評価して、支援国の削減目標の達成に活用する。2030 年度までに排出量を46%削減するという日本の目標は、この制度が前提となっている。

日本は今回のCOP26であまり大きく目立つことが適わなかった。途上国への支援増額は巨額ながら、米国やEUなどそのほかの先進国の取り組みと一緒くたにされ、石炭発電の廃止や2040年までのガソリン車の新車販売停止については後ろ向きの姿勢を見せたことが報じられた。特に石炭については、脱炭素ができていない国に贈られる称号、化石賞を受賞したとして、多くのメディアが取り上げた。そうした中で、世界の脱炭素に大きく貢献できたとするのが、GHGの新たな国際的な取引ルールに関してであり、その存在感を示す機会となったのだ。

 

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高橋洋行
高橋洋行

2021年10月よりEnergyShift編集部に所属。過去に中高年向け健康雑誌や教育業界誌の編纂に携わる。現在は、エネルギー業界の動向をつかむため、日々奮闘中。

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