今この瞬間に、地球上で永久に失われてしまうものがある。
温暖化によって地球上の壮大で記憶に残る風景が消失している。果てしない氷河、動物の楽園、海の産物──。コロナで海外旅行がままならない今、地球上のかつてあった美しい風景、地球の宝を守るべく、かの地に想いを巡らせてほしい。
風雨の浸食でできた奇岩、リマーカブル・ロックスは人気の観光ポイント。写真は火災の約半年前。この周辺も木々も焼き尽くされた ©藤原浩
第1回、第2回と氷河の融解をレポートしたが、今回は温暖化がもたらした乾燥で、火災による動植物への被害が拡大した現場をお伝えしたい。この数年は世界各地で大規模火災が報告されている。オーストラリアも東海岸の複数の世界遺産エリアで火災が起きていたが、2019年12月に南オーストラリア州のカンガルー島で発生した火災は、島の半分近くが焼失する壊滅的な被害をもたらした。
オーストラリアは乾燥大陸と呼ばれるほどで、雨期シーズンの北部を除けば気温が高いわりにカラッとした過ごしやすい場所が多い。オーストラリア全土に生えているユーカリは葉に油分を含んでいるため、その落ち葉も燃えやすい。先住民族の人々は森に適度に火を入れることで、大火にならないようコントロールしていた。オーストラリアの森は太古の昔から火災によって生態系が維持されてきたのだ。
植物も火災を利用するように進化してきた。バンクシアというボトル洗いブラシのような花をつける樹木は、火事の熱で種子がはじけ飛んで発芽できる植物だ。ユーカリの一部も火災で種子の発芽を促される。オーストラリアでは火災が起きることで植物の種子が発芽できる状態になり、森にすむ生き物たちを養ってきた。
火災の被害を免れたシールベイ。ここではアシカたちと出合える。子連れの家族も見ることができる ©藤原浩
カンガルー島は南オーストラリアの州都アデレードからアクセスできる東京都の約2倍の大きさの島だ。人気者のコアラをはじめ、カンガルーやワラビー、アシカ、リトルペンギン、小動物や鳥たちまで、檻のない動物園というほど高い密度で、野生動物たちを見ることができる。島の西側と南側の複数の地域が国立公園に指定され、自然が厳しく守られていたが、今回の火災では西部エリアのほとんどが焼けてしまった。大火災の要因は極端な乾燥だとみられ、インド洋の水温低下が影響したと考えられている。
島にはビクトリア州からもたらされたコアラが5万頭近く生息しており、一時は増えすぎて殺処分が検討されたほどだった。今回の火災により1万頭以下になってしまったと推測されている。島には固有種もおり、指に乗るくらい小さなサイズのピグミーポッサムは火災の前に確認できていた個体数がわずか113匹しかいなかった。今回の火災で絶滅が危惧されていたが、2020年12月に生存が確認された。
焼け跡には早々に木々が再生し、火傷を負った動物たちも森に戻っているという。しかし今回の被害は、回復するまでは相当の年月が必要と考えられ、住処がなくなったことで絶滅の危機に瀕している動物たちも多い。
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