経産省の非効率石炭フェードアウトで、利害は錯綜するのか | EnergyShift編集部

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経産省の非効率石炭フェードアウトで、利害は錯綜するのか

経産省の非効率石炭フェードアウトで、利害は錯綜するのか

2020/09/03
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経産省審議会ウォッチ

政府は気候危機対策として、非効率石炭火力発電のフェードアウトに動き出した。とはいえ、一概に非効率石炭火力発電といっても、鉄鋼や製紙工場などの自家用発電設備もあれば、運用によって非効率化しているケースもある。さまざまな業界の利害や経済産業省と環境省のそれぞれの思惑もある。複雑化した石炭火力問題を、エネルギージャーナリストの木舟辰平氏が解説する。

一筋縄ではいかない、非効率石炭火力をめぐる議論

「脱炭素社会の実現を目指すために、非効率な石炭火力発電所のフェードアウトを確かなものにする新たな規制措置を導入する」

2020年7月3日の閣議後記者会見における梶山弘志経済産業相のこの表明は、各方面に波紋を広げた。

非効率な設備に限定するとはいえ、経産省が重要なベースロード電源と位置付けてきた石炭火力の抑制に乗り出すことは、結果的に電力産業構造の変革を誘発しかねない。多くの既存制度や市場取引に影響が及ぶことは必至だ。

経産省は、① 発電事業者への省エネ規制強化、② 対象設備の市場退出を事業者に促す支援措置、③ 非効率石炭火力の発電量を抑制する方向への送電線利用ルールの見直し、という3つの施策により円滑なフェードアウトを実現させる狙いだ。

各施策とも別々の審議会で検討が始まった段階で関係者の関心は高いが、いずれも議論は一筋縄ではいかなそうだ。

① 省エネ規制強化」では、規制対象とする「非効率な発電設備」の定義づけが最初の課題だった。経産省は当初、発電方式で区分し、亜臨界圧と超臨界圧の設備を非効率とする想定だったが、同じ発電方式でも設備によって効率性は異なるといった異論が事業者から出たことを受け、軌道修正した。仕組みの詳細を検討する8月25日の「石炭火力検討ワーキンググループ(WG)」に、発電方式ではなく発電効率を判断基準とすることを提案し、了承された。

これによって議論の出発点にようやく立ったかたちだが、前途はなお多難だ。一定の発電効率以下の設備を一律に「非効率」と区分するような単純な話にはならないからだ。

抵抗勢力は非効率火力を抱える電力会社だけではない

25日のWGでは、九州電力が再エネ出力抑制の際には石炭火力も最低出力運用などを行うため発電効率は悪くならざるを得ないと説明し、こうした事情を考慮するよう要望した。バイオマス混焼や排熱活用などの対策をどう評価するかも重要な論点になる。

こうした要素を加味して、非効率か否かを区分する客観的な基準が設けられたとしても、一件落着にはまだ遠い。さまざまな理由で規制対象からの除外を求める声が出ることは必至だからだ。

大手電力の中で非効率と区分される可能性の高い設備を多く保有しているのは北海道電力や沖縄電力、中国電力などだ。これら事業者が供給安定性や電源立地地域への配慮を理由に、非効率設備の継続使用を要望する可能性は高い。

石炭火力を自家発電などとして保有する製鉄や化学、製紙などの業界も有力な〝抵抗勢力s〟だ。

25日のWGでは、鉄鋼連盟と日本化学工業協会がプレゼンした。鉄連は、自家発電は鉄鋼の生産工程と一体不可分だと説明し、規制対象になれば「事業存続に関わる」と強い懸念を表明した。日化協も、石炭火力の廃止はコスト増になり「事業撤退の懸念が生じる」と訴えた。

ただ、こうした声に押されて規制の適用除外とする非効率設備が増えていくと、黙っていないのが環境省だ。環境省は7月14日に公表した電力分野の地球温暖化対策の進捗状況評価で、非効率石炭火力フェードアウトの取り組みが着実に進まなければ、電力業界に課した30年度のCO2排出係数目標の達成は困難と分析した。そのため、フェードアウトに向けた仕組みの検討作業を「厳しく注視」するとしている。

環境省からのプレッシャーを背中に感じる経産省が、抵抗する発電事業者に非効率設備の休廃止をそれでも促すため、「② 対象設備の市場退出を促す支援措置」を思い切り手厚くすることもありえそうだ。

だが、その場合には別の利害関係者の反発を招くことになる。新電力だ。

支援措置は、非効率設備の休廃止を率先して決断した発電事業者が経済的利益を得られる仕組みとなる方向だが、特に休止電源は非常時の供給力としての価値を有することが対価を支払う根拠になる。政策目的が部分的にかぶる容量市場と同様に、小売事業者が必要なコストを負担するスキームになることへの新電力の警戒感は強い。

メリットオーダーでは石炭火力が有利に

石炭火力を保有しない事業者がとばっちりを食いかねない構図は「③ 送電線利用ルールの見直し」も同様だ。

系統混雑時に出力制御を受けるノンファーム型接続電源の対象を、現在の新規接続電源限定から非効率な石炭火力にも広げる方向で、これは非効率石炭火力の発電抑制と再エネの有効活用を同時に実現する一石二鳥の施策だ。
出力制御を受ける既設電源を非効率石炭火力にとどめるか、他の火力発電にも広げるかが最大の焦点になる。

他の火力発電も対象に含まれれば、発電コストが安い順に送電線利用を認めることが経済性の観点からは最も合理的だが、その場合、限界費用ゼロ円の再エネが最優先で発電される。一方、火力発電の中では低コストの非効率石炭火力の優先順位も高くなる。非効率石炭火力の市場退出というそもそもの目的に照らし合わせれば本末転倒といえる。

いずれにせよ、従来の先着優先ルールのもとで既得権を持つ事業者から反発が出ることは必至だ。

このように、3つの施策のいずれもが関係者の利害が絡んでおり、誰もが納得する仕組みにすることなど至難の業だ。経産省の手腕が問われている。

参照
木舟 辰平
木舟 辰平

エネルギージャーナリスト。1976年生、東京都八王子市出身。一橋大学社会学部卒 著書:図解入門ビジネス 最新電力システムの基本と仕組みがよ~くわかる本

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