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旧一般電気事業者の内外無差別取引を検証する 第62回「制度設計専門会合」

旧一般電気事業者の内外無差別取引を検証する 第62回「制度設計専門会合」

2021/07/09

ほとんどの新電力は発電所を持たないため、電源を外部に依存することになる。一方、旧一電は発電事業と小売事業が一体化している。そのため、旧一電の小売は新電力よりも有利な条件で電力を調達しているのではないか、という懸念が持たれていた。もしそうだとすれば、電力市場で公平な競争がおこなわれていないことになる。2021年6月29日に開催された、電力・ガス取引監視等委員会の第62回「制度設計専門会合」でその検証が行われた。

  • 旧一電による取引はグループの内外において、実施体制面・価格面いずれにおいても一定の評価を得る
  • 旧一電からは社内外の平均取引単価は開示できないとされたため、具体的な数値はほとんど報告されず、より透明な開示が求められる

審議会ウィークリートピック

旧一電の内外無差別取引のコミットメントは守られているか

電力小売部門における新電力のシェアは約19.5%(2021年3月時点)に上昇するなど、小売全面自由化による一定の競争の進展が見られる。

しかしながら、国内の電源の大半を今も旧一般電気事業者(旧一電)が保有していることから、自社の小売部門にのみ有利な条件で卸売をおこなうこと等による、旧一電の発電部門から小売部門への内部補助が懸念されてきた。仮にこのような内部補助を原資とした旧一電小売部門による不当な廉売行為がおこなわれるならば、小売市場における適正な競争を阻害するおそれがある。

このため電力・ガス取引監視等委員会は、2020年7月に旧一電各社に対して、内外無差別に卸売をおこなうことのコミットメントを要請し、旧一電各社はそのコミットメントを表明している。

制度設計専門会合の第62回会合では、監視等委員会からこのコミットメント実施状況に関する確認結果が報告されたので、本稿ではこの概要をお届けしたい。

卸売の内外無差別性の確保

旧一電が上記コミットメントに基づき、電力卸取引を内外無差別に実施するためには、まず自社の組織体制の整備や、運用・管理ルールの設定が必要となる。仮にグループ外の他社(新電力)に向けた卸取引の窓口が旧一電の小売部門に置かれていた場合、十分な情報遮断が出来ないおそれがある。

今回の監視等委員会によるヒアリング調査の結果、すべての旧一電において相対卸取引を担当する窓口は、小売部門から独立した別の部門に設置されていることが確認された。

また旧一電各社は、内外無差別な卸売を担保する仕組みとして、卸売の状況を社内で定期的に確認するスキームを設定していることを回答している。

例えば東北電力では、「事業戦略部」が相対卸取引を所管しており、内外無差別な卸売となるように各卸価格の設定に対して統一的に関与・確認している。また管理面では半期ごとに、取締役も出席する経営会議にコミットメントの順守状況を報告することにより、内外無差別な卸取引がおこなわれていることを確認している。

内外無差別コミットメントが進むことにより、旧一電による社外相対卸取引の契約件数も増加している。2021年5月末時点の交渉件数は643件、成約件数は329件となっている。

年度単位の卸取引が多いものの、期中での取引開始や、特定月だけを対象とした契約もおこなわれている。また確定数量契約だけでなく、数量を柔軟に変動可能な契約も一定数存在する。

表1.旧一電による社外相対卸取引の契約件数

事業者交渉件数成約件数  
確定数量契約変動数量契約
北海道3125241
東北5728820
東電グループ
(東電EP)
411248
中部グループ
(中部ミライズ)
5230291
JERA7120128
北陸4016133
関西10677689
中国77483513
四国3724213
九州981697
沖縄3333033
合計643329223106

出所:制度設計専門会合

卸売の内外無差別性には、「価格」のほか、卸売の条件も含まれる。

まず価格面での確認結果が表2である。単純な平均単価の比較では、東電EPとJERA(西エリア)の2社を除き、社外・グループ外取引価格は、社内・グループ内の取引水準と比べて低い水準となっている。

これはグループ内外の卸取引の前提条件の違いが反映されていると推測される。第一の違いとして、一般的に新電力はベース電源が不足しているため、旧一電との相対取引においては、相対的に安価なベース商品が取引の中心となっている可能性がある。第二の違いとしては、グループ外取引では確定数量契約が多いことにより、数量変動の付加価値が価格に加味されていないことが理由として考えられる。

なおグループ内取引のほうが安価であった2社においても、利用率等の卸取引条件を揃えた場合には、内外価格は同水準になるとの回答であった。

表2.旧一電卸取引 社内外取引価格の比較

事業者社内外取引価格の関係
東電EP、JERA(西エリア)グループ内取引価格 < 社外相対卸平均価格
北海道、東北、中部ミライズ、JERA(東エリア)、北陸、関西、中国、四国、九州、沖縄社内取引価格 > 社外相対卸平均価格

出所:制度設計専門会合

また卸売の条件の一つである変動数量契約の通告変更権の設定において、社内・社外では表3のような違いがあることが報告されている。

複数の旧一電において、社内・グループ内取引では数量変更の通告期限がゲートクローズ(GC)直前まで可能であり、変更量は供給余力の範囲内で大きく柔軟に増加させることが可能な契約条件となっている。

このように柔軟に数量を変更できることは1つの付加価値であり、デリバティブ商品の1つである「オプション」に類似した価値を持つものと考えられるが、現時点ではこの「価値」は明確に定量化されていない。

他方、JERAによるグループ内(東電EP・中部ミライズ)の電力受給契約では、東電EPおよび中部ミライズが、対象となる電源の「固定費の全額+従量料金」を負担しているなど、コスト面での条件にも差異が生じており、単純にグループ内外の有利/不利を比較することは困難である。

このため、卸取引の社内外価格差が合理的な理由によるものであるのかを検証するには、まだ幾つかの課題が存在すると言える。

表3.変動数量契約における通告変更権の設定

事業者区分計画の通告期限通告変更量のアローアンス
北海道社内GC直前まで取り決めの範囲内(小売需要の範囲内)
社外前日まで契約の範囲内
東北社内GC直前まで供給余力の範囲内(小売需要の範囲内)
社外2営業日前まで契約の範囲内
東電グループ
(東電EP)
グループ内前日まで契約の範囲内(小売需要の範囲内)
社外前日まで契約の範囲内(小売需要の範囲内)
中部グループ
(中部ミライズ)
グループ内(変動数量契約なし)
社外前月まで契約の範囲内
JERAグループ内GC直前まで契約の範囲内(小売需要の範囲内)
社外2日前まで契約の範囲内
北陸社内GC直前まで供給余力の範囲内(小売需要の範囲内)
社外GC直前まで契約の範囲内
関西社内GC直前まで供給余力の範囲内(小売需要の範囲内)
社外2日前まで契約の範囲内
中国社内GC直前まで取り決めの範囲内(小売需要の範囲内)
社外2営業日前まで契約の範囲内
四国社内GC直前まで取り決めの範囲内(小売需要の範囲内)
社外2日前まで契約の範囲内
九州社内GC直前まで供給余力の範囲内(小売需要の範囲内)
社外2日前まで契約の範囲内
沖縄社内当日まで取り決めの範囲内(小売需要の範囲内)
社外当日まで契約の範囲内(小売需要の範囲内)

出所:制度設計専門会合

監視等委員会は旧一電の卸取引の1つとして、JEPX先渡市場や先物市場の活用についても調査結果を報告している(表4)。先渡市場を活用していない旧一電はその理由の1つとして、先渡市場では売札と買札の価格が乖離していることを挙げているが、これは鶏と卵の関係であり、市場の流動性を向上させるために、すべての旧一電による積極的な市場参加が望まれる。

また先物市場の活用状況については、売入札を実施している事業者は東北電力のグループ会社1社のみであることが報告されている。ヘッジ会計の適用や、専門的な人材確保も含めた体制整備などが未利用の理由として挙げられている。

表4.旧一電 JEPX先渡市場の活用状況

事業者先渡市場の活用(5月末時点)
東北、東電EP、中部ミライズ、JERA、関西、九州先渡市場への売入札を実施
北海道、北陸、中国、四国先渡市場への売入札は実施していない

出所:制度設計専門会合

スポット市場における旧一電の自主的取組

現在、旧一般電気事業者は、JEPXスポット市場において、余剰電力の全量を、限界費用ベースで市場に供出している。

これは旧一電による自主的取組であって、法的に義務付けられたものなどではない。

この取組はJEPX卸電力取引所の活性化のために開始されたものであり、直近ではスポット市場の取引量は国内需要の約4割を占めるなど、大きな役割を果たしている。

また同時にこの自主的取組は、旧一電の市場支配力による相場操縦行為の発生を抑止することにも貢献している。

価格支配力を行使できる売り手「プライスメーカー」であれば、売り惜しみや価格吊り上げなどの相場操縦により、自社の利益を最大化することが可能となる。

他方、「プライステイカー」(価格支配力を持たない売り手)であれば、シングルプライス方式を採るスポット市場において、限界費用で余剰電力を全量市場供出することは、自社の利益を最大化する経済合理的な行動である。

よって旧一電においても、余剰電力の全量を限界費用ベースで市場に供出している限り、相場操縦行為には該当しないと整理されている。

自主的取組の見直し

現状の旧一電による自主的取組は、法的根拠や位置付けが曖昧なものであるため、まずは「電力適正取引ガイドライン」上での位置付けを明確化することが事務局から提案され、承認された。

現行の自主的取組では「入札量」と「入札価格」については、それぞれ「余剰電力の全量」を「限界費用」で、としているが、ガイドラインに記載するにあたり、これらの定義を明確化する必要がある。

旧一電による入札量(入札可能量)については現状でも図1のように整理されており、売惜しみを適切に防止する観点からは、今後も「余剰全量」の市場供出を求めることが必要と考えられる。今後は、供給力の算定や自社小売需要予測の一層の精緻化が求められる。

図1.現行の入札可能量の考え方

出所:制度設計専門会合

他方、入札価格の規律については大きな見直しが検討されている。

現状の「限界費用」とは、ほぼ「燃料費」を意味している。2020年度冬季の電力需給逼迫および市場価格高騰の際には、この限界費用による売り入札価格はその時点での電気の価値を適切に表していなかったと考えられている。

このため制度設計専門会合第62回会合では、今後は限界費用に「機会費用」を含めることが提案されている。

「機会費用」とは、複数の選択肢の中から1つの選択肢を選んだ場合に、その選択肢を選ばなかった場合に得られたであろう便益の最大値である。例えば、燃料を温存して、来週時点でより高単価で売る機会があるにも関わらずこれを諦め、「今日」発電して安い単価で販売することには、ある種の費用が発生しているという考え方である。

欧州ではすでに「機会費用」が限界費用に含められている。

機会費用に該当する具体的事例や算定方法については、今後の制度設計専門会合において検討が深められる予定である。

まとめ

旧一電のコミットメントによる内外無差別な卸取引は、その実施体制面および価格面いずれにおいても一定の成果を上げていると評価される。他方で、変動数量契約の通告変更権の設定においては、社・グループの内外で取引条件が異なるものが散見されるが、この付加価値が卸取引価格にどのように反映されているのか不透明な状態となっている。

今回の内外無差別性の検証にあたり、旧一電からは社内外の平均取引単価等は経営情報に該当するため開示できないとの主張がなされたため、今回の制度設計専門会合においては具体的な数値はほとんど報告されないこととなった。

これに対して監視等委員会は、透明性を向上させるため、発電部門・小売部門が会計分離をおこない、部門別収支を公表する案を示している。

旧一電の内外無差別な卸売の実効性を高めるため、その取組状況を外部から確認できる仕組み作りが進められることを期待したい。

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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