2050年カーボンニュートラル、2030年の温室効果ガス排出量46%削減の達成に向けて取り組むものの、その動きは世界的に遅れているといわれる日本。そんな中で、日本の開発力・技術力が世界的にリードしているのが「全固体リチウム硫黄電池」をはじめとした全固体電池の分野だ。
出光興産やトヨタ、日立造船や産業技術総合研究所(産総研)、GSユアサなど、各業界の日本を代表するメーカーがその開発を競う全固体電池について、その特長から今後の展望までをまとめた。
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液体リチウムイオン電池 | 全固体電池 | |
仕組み | 液体の電解質の中で、リチウムイオンが負極と正極を移動し、充放電が行われる。 | 固体の電解質の中で、リチウムイオンが負極と正極を移動し、充放電が行われる。 |
長所 | 量産体制が整っており、実用化済。現時点での蓄電池の主流。 | 発火、液漏れが起こりにくく安全。高いエネルギー密度や急速充電が期待できる。材料の選択肢が多い。 |
課題 | 発火、液漏れの危険性があるとともに、原料のリチウムが貴重である。 | 製造中に有毒ガスが生じやすく、界面抵抗の少ない電解質の開発が求められるため、量産体制の確立がこれから必要。 |
まずは、全固体電池とはどういう電池なのかという点から説明したい。
現在、蓄電池の主流となっているリチウムイオン電池は、充電・放電の際にイオンを運ぶ電解質が液体なのに対して、全固体電池はその名の通り、電解質が固体であるものを指す。EV関連の中でも、特に力を入れて研究・開発が進められている分野だが、その理由の一つは、発火リスクを抑えた安全性にある。先述のリチウムイオン電池が可燃性の有機電解液を用いるのに対して、全固体電池は燃えにくい無機の固体電解質粒子を用いているのだ。
さらに、この高温への耐性や高いイオン伝導率を示す固体電解質が発見されたことに起因して、全固体電池では従来の液系リチウムイオン電池よりも大電流での、急速充電が可能になると期待されている。
期待される可能性としてはその容量の大きさもある。2021年10月には、大阪府立大学大学院工学研究科のグループによって、エネルギー密度がリチウムイオン電池の約2倍となる全個体電池の実現可能性が示された。この研究では、硫化リチウム正極活物質(電池の正極側でリチウムを出し入れすることによってエネルギーを貯めたり、取り出したりすることが可能な物質)の容量と、固体電解質の分解耐性の関係を明らかにした。そのうえで、全固体リチウム硫黄二次電池用(二次電池は充電ができて繰り返し使用できる電池。以下、全固体リチウム硫黄電池)に高エネルギー密度を持つ正極を開発。全固体電池の中でも特に注目を集めるリチウム硫黄電池の可能性を広げることとなったのだ。
また、乾電池でもよく見られる液漏れにおいても、安全性が確保されている。液漏れの心配がないということは、液漏れを防ぐための形状の縛りがなくなることを示す。薄くしたり、折り曲げたり、多重構造となるように重ねたりすることが可能となる。このことにより、多少の傷がついても電池の性質を失わず、熱や圧力への耐性も備わった電池となるのだ。
そんな全固体電池は、使用する電解質の違いから数種類に分けられる。
代表的なのが硫化物系、酸化物系の2種類で、さらに窒化物系やそのほかの種類の全固体電池が追従している。
次にそれぞれの特徴とその研究を進める代表的な企業の取り組みについて述べていきたいと思う。
硫化物系全固体電池の開発でリードしている企業はどこか?・・・次ページへ
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