11月3日には、IFRS(国際会計基準)財団が、企業による気候変動リスクの情報開示について、2022年6月をめどに世界共通の基準をつくるとした。基準は「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」と名付けられた新組織が担うこととなり、フランクフルトに拠点が置かれる。
これまで気候変動を含むESG(環境・社会・企業統治)情報開示は、民間団体がそれぞれ独自に基準をつくってきた。そのため、開示基準が乱立して、指標とすべきものがわかりにくい難点があった。今回IFRS財団が発表した新基準は、世界の金融当局が設置し、ISSB設立までの準備作業部会に参加した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に基づき、その内容を検討していく。
TCFDは2017年に気候変動に関する取り組みを発表するよう、企業側に促すためにつくられた提言で、今後の脱炭素戦略をどのように進めようとしているかが垣間見えるものとして、評価を得てきた。その一方で、分析に使うシナリオや具体的な開示方法を企業に委ねたため、開示内容が統一されていなかった。
ISSBが公表した基準の原案は、温室効果ガス排出量について最大限の開示を求める内容となった。排出量は対象を企業活動のどの範囲まで広げるかで大きく変わり、スコープ1(直接排出)とスコープ2(間接排出)、スコープ3(サプライチェーンを含めた排出)と規定されている。新基準では、所属産業にかかわらずスコープ3まで開示を求め、排出内容の具体的な説明も必要となるほか、気候関連についての企業統治の体制やリスク管理についても企業は開示する必要がある。IFRS財団は「乱立していた基準の統合が来年6月までに完了するはずだ」と発表したと報道されている。
日本はISSBに対して資金と人材投与をしていくとともに、経団連が意見発信のための新団体を財務会計基準機構(FASF)の傘下に設立することを提言している。
脱炭素に向けた新基準を設けるのは、IFRSだけではない。世界経済フォーラム(WEF)は11月4日に企業の脱炭素の技術開発を促す新枠組み「ファースト・ムーバーズ・コアリション(FMC)」を設立。FMCに加盟したグローバル企業は、分野ごとの脱炭素目標と導入したい脱炭素技術を事前に提示していくことになる。脱炭素製品の調達を予告することで、サプライヤー企業側の技術革新の意欲や予見可能性を高めるのが狙いだ。
WEFのボルゲ・ブレンデ総裁は、FMCはそれ自体が財源を持つわけではなく、企業が自らの目標と購入宣言をする場となるとしている。大企業の購入宣言があるというだけで、新技術を開発する側に安心感を与え、開発意欲を促すことにつながるというのが狙いだ。また「大企業が購入を約束することは民間投資だけでなく、その呼び水となる政府の公的支援の投入が期待でき、官民の資金の相互補完も促進できる」とも報道されている。
すでにアップルやアマゾン、ボーイングといったグローバル企業が名を連ねており、今後に向けては、複数の日本企業との参加交渉も進んでいると報じられている。
現時点で対象となっている分野は「トラック輸送」「航空」「船舶」「鉄鋼」の4分野で、これらは目標や購入予定の提示の対象になる。さらに、バイデン米大統領はCOP26での演説で、FMCに言及し、今後はアルミや化学などの分野も追加して最終的に8分野とする見通しであることを説明した。
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