そして現在EUは、ハイブリッド車が、走行中の燃費には優れるが、バッテリーやモーター、そしてこれらを制御するPCU(パワーコントロールユニット)の製造時に大量のCO2を排出しているところに目をつけ、各製造工程において環境性能が優れているかどうかを判断するLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)を進めようとしている。
LCAでは、資源採取から、原料生産、製造、流通・消費、そして最終工程の廃棄・リサイクルまですべての過程で発生するCO2の排出量を算定するため、ハイブリッド車を筆頭にしてICE車への負担はさらに拡大することになる。だが、これは同時にEVメーカーにとっての負担も増やすことになる。バッテリーの製造時にも大量のCO2を排出するからだ。
現状では、バッテリー製造時におけるCO2排出量の算定基準が、研究機関や調査会社よって異るため、統一規格が存在しない。低炭素でバッテリーを製造する指標をどのように形成していくかが、EVメーカーにおける喫緊の課題となっている。
このようなEUの動きを受け、EV専業の自動車メーカーであるテスラへの影響はどれほどあるのだろうか。今後LCAが採用された場合、再生可能エネルギーや原子力といった低炭素の電源比率が高い国とそうでない国でCO2の排出量が異なってくるため、欧州や中国、そして米国に工場を構えるテスラにとっては、CO2排出量換算によるコスト負担が現状より増えるのは確実だ。
加えて、EVの普及にともない、米国12州で実施されているZEV規制などの恩恵を受けている排出権売上高も減少傾向にある。実際、同社の排出権売上高は、2021年第一四半期の5億1,800万ドルをピークに第三四半期には2億7,900万ドルまで低下している。LCAの採用によりテスラのコスト面での負担増は避けられないだろう。
時代はEUが主導して自動車製造にLCAを組み込む方向に動き始めている。地球への負担を考えれば、製品の原材料調達から、流通、廃棄まで一連の流れで発生するCO2を換算するのは、理にかなっているからだ。車は動いているときだけCO2を排出しないからクリーンだという考えは過去のものになりつつある。地球規模で環境にやさしいEVのあり方がCOP26を機に改めて問われ始めようとしている。
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