原村からの便り 4
地球温暖化対策は、地域に豊富な再生可能エネルギーのポテンシャルを持つ自治体ほど、取り組むべき課題だといっていい。とはいえ、小さな自治体ほど、取り組むためのハードルは高いだろう。長野県原村は、この課題をどのようにとらえているのだろうか。地方が抱える問題も含め、千葉商科大学名誉教授の鮎川ゆりか氏が報告する。
原村には「総合計画」なるものがあり、これはすべての行政計画の最上位に位置するものである。10年間の基本構想と5年間の前期・後期の基本計画から構成され、今は「第5次総合計画」前期基本計画の最後の年度になっている。このため現在、後期基本計画が策定されているところだが、これは令和3年(2021年)度より令和7年(2025年)度までの5年間の計画である。
基本計画を策定するにあたり、従来は住民アンケートの実施や、住民ワークショップなどを開き、住民の意見を聴きながらやるのだが、今回はコロナ禍でこれができない。そのため役場職員どうしでワークショップを開き、さらに20代~30代の若手職員7名に「地域経済分析プロジェクト」を発足させ、村の地域経済循環率を分析させた。
その結果が6月頃発表され、村の広報誌「はら」9月号にも掲載されたので、第4回「自立する美しい村研究会」で、プロジェクトリーダーにこの報告をしていただくことにした。2020年11月21日(土)に、中央公民館講堂で、参加者を30名に限り、希望者にはZoomによるオンライン参加を準備して、開催した。タイトルは「原村における地域経済の分析と循環に向けた施策提案」。原村役場総務課の小池祐貴氏に報告をお願いした。
研究会の様子
報告で私が最も驚いたことは、原村の地域経済循環率は57.7%で、県内町村の中央値59.1%よりも低く、隣の茅野市は84.1%、富士見町は98.0%と、原村を大きく引き離していることだ。また基幹産業の農業からの生産額は11%と全体の中で最も低く、第3次産業は51%、建設業、製造業を含む第2次産業が38%である。
しかし地域外から所得を獲得している産業は農業が1位で、第2次産業や第3次産業より大きい。地域外へ所得を最も流出している産業は「公共サービス」で、これは医療や福祉など。コンサルを雇う業務委託などの「公務」とともに大きな出費である。流出率としては32%で、県内市町村中4番目に高い。
地域経済循環率を向上させるために「漏れバケツモデル」を用いて原村のバケツの穴は何かを分析し、住民の買い物調査で、村内の消費機会が少ないことを発見。実際に村内施設を使っている事例は農協、セブン-イレブン、ガソリンスタンドくらいで、買い物や飲食は隣の市町へ行っていることがわかった。
これを是正するための施策も提案され、農業では「地産地消」。役場が率先して学校給食に原村産食材の使用率を高めたり、花のある生活を庁舎ロビーで展開したり、村内の農産物を住民へ供給する仕組みを整備するなどがある。
商工業・観光業でも村内の商業施設を使うインセンティブとしてのポイントカード・商品券発行、飲食店送迎バス・タクシー事業などがあげられ、さらに「公務」では村内の事業者を使うことを条件化する入札方法、戦略的な観光誘客など。
そして化石燃料に支払っている6億円、電気への3億円を自然エネルギーに転換すると、原村のポテンシャルは需要に対し100%近くあるとのことだ。その中には農業用水を使った小水力、屋根上ソーラーと蓄電池・電気自動車の組み合わせなどが、災害時に役立つとの提案もある。
こうした提案はプロジェクトチームのもので、村の立場ではないとし、これは可能だけどこれは難しい、と言いながら発表された。しかし村の立場と切り離してもプロジェクトチームが総力をあげて考えたことを発表した役場職員に、私は敬意を抱いた。
地域経済分析プロジェクトによる施策への提案
*農業とエネルギーのみをまとめた
さて「第5次総合計画後期基本計画」であるが、研究会後、2020年11月25日~12月24日までパブリックコメントが行われた。全体はさっと見ただけだが、プロジェクトチームの「地域経済循環率」を改善するための施策提案はほとんど反映されていなかった。
私は「地球温暖化防止対策」という第3項を見たが、「再生可能エネルギー利用の促進及び省エネルギーへの取り組み」が1ページあるだけだ。それも「・・・導入促進・推進を検討します」と書いてあるだけで、具体策がない。さらに「達成指標」は「環境学習を通して、新たな施策を検討」だけで、目標値はない。「公共施設等における温室効果ガス削減」という「取り組み」はあるものの、実施目標がない。
昨年春にパブコメにかけられた「第2期原村地域創生総合戦略」では少なくとも「公共施設の温室効果ガス排出削減」の目標値として「平成30年(2018年)から2%削減」とあった。これは安倍政権の元に始まった「地方創生戦略」の一環で行われる事業のためのものであり、「総合計画」とは別物ではあるが、地球温暖化防止対策の点からだけ見ると「後退」に見えてしまう。「地球温暖化防止」問題への関心が「低い・ない」と言わざるを得ない。
そもそも「総合計画」とは最初に書いたように、「基本構想」(10年)とこれに基づく「基本計画」(5年)から成り、10年の基本構想が土台にあるために、5年目の大幅な変更は難しいらしい。しかし「10年の基本構想が土台」とはいえ、2020年のコロナ禍で世の中、および世界は1年で大きく変わった。またこの10年で気候変動や生物多様性の喪失等は、大幅に進行してしまった。こうしたことを考えると、「10年の基本構想」にとらわれていたら時の変化に柔軟に対応できないのではないか、と危ぶむ。
国立環境研究所地球環境研究センター副センター長の江守正多氏が「温暖化、なぜ日本世論は盛り上がらないのか」(毎日新聞2021年1月9日)で語っているように、日本では温暖化対策は「経済的負担」としか思われていない。またそのため政府が経済界とともに後ろ向きであったので、国会でも議論されず、メディアでもとりあげられず、情報が広く一般の人々に行き渡っていなかったのではと思っている。しかし菅政権が「2050年カーボンゼロ」を打ち出した事で、状況は大きく変わるはずだ。
温暖化対策は経済的負担ではなく、分散型自然エネルギーを増やすことで災害時の停電・熱供給に役立ち、建物は断熱性・気密性を高めることで省エネ・頑強になり、暴風雨災害・地震にも耐えうる上、燃料費は減る。これは防災・減災・適応策である。さらに江守氏が言うように、皆が「倫理」という視点を持ち、将来世代や、経済弱者(日本では地方自治体、世界では途上国等)への責任意識を深められるようになる事こそを願う次第だ。
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