英国に拠点を置き、香港をはじめとするアジア地域やアフリカ地域などでも事業を展開するスタンダード・チャータード銀行が、SDGsの目標実現にあたって、深刻な投資不足に直面しているという調査結果をまとめた。特に新興経済国への投資は十分ではない。しかし、この調査結果に対し、同銀行は、新興経済国へのユニークな投資機会を提供する、とも述べている。
2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、2030年までに貧困や気候変動に対処するなど加盟193ヶ国が達成する17の目標を掲げたものである。これに沿って各国政府やNGOがさまざまな活動をしているが、それだけでは必要な投資額は賄えず、民間セクターも重要な役割を果たすことが求められている。
多くの投資家、企業、金融機関がSDGsの達成にコミットしていると言う一方、SDGsへの投資が最も重要な国には、必要なスピードで資本が流れていない。新興市場だけでも、2030年までに17のすべての目標を達成するためには、年間3.9兆米ドルが必要になると国連は推定しているが、現状では年間2.5兆米ドルが不足していると国連は試算している。
民間セクターによるSDGsへの投資に関して、英スタンダード・チャータード銀行は、2020年7月から8月にかけて、大規模なアンケート調査を行った。対象は投資額世界上位300の投資会社であり、その内容は「SDGs達成に向かって、世界経済と環境にどのような投資活動を行っているか」について。 対象となった300社の投資総額は、50兆米ドル(世界のGDP総額の半分に相当)に及ぶ。
投資会社300社の内訳は欧州と北米が42%ずつ、8%が日本、3%が中国を拠点としている。
調査の結果をまとめると、下記のとおりである。
調査によると、投資会社の81%がSDGsを考慮した投資に対して真摯なアプローチをしていることを示している。しかしながらこれはSDGsへの投資には直接つながっておらず、SDGsにリンクした投資はわずか13%でしかない。
投資が進まない理由は、以下の回答からうかがえる。
問: SDGsに対する投資を検討する上で、主な障壁は何ですか?
SDGsは投資の主流とは関係がない | 55% |
SDGsへの投資を査定する予定であるが、まだ達成していない | 50% |
SDGsへの投資は難しすぎる | 47% |
SDGsは、投資の評価には関係がない | 47% |
SDGsに貢献する投資は行わない | 66% |
問: SDGsへの投資を促進するためのツールとインセンティブは何ですか?
SDGsにリンクする製品を奨励する制度 | 74% |
SDGsにリンクする投資の税制上の優遇策 | 63% |
SDGsへの投資がパフォーマンスの低下につながらないという証拠 | 63% |
SDGsへの投資の影響を査定するための良いデータ | 53% |
SDGsをテーマとした投資に対する個人投資家の需要 | 53% |
スタンダード・チャータード銀行によると、これら300社の総投資額のほぼ3分の2(64%)はヨーロッパと北米の先進国市場に投資されており、日本市場を含むアジアは22%を占めているが、中東、アフリカ、南米はそれぞれ2%、3%、5%が投資されているだけである。
新興市場への投資で懸念されるのはリスクである。投資家の3分の2以上が新興市場はリスクが高いと考えているが、先進国市場でリスクが高いと感じているのは42%である。一方でCOVID-19によるパンデミックで、投資家の70%は資本格差がさらに拡大したと考えており、新興市場が必要な投資を得るのをさらに困難にしたと考えられる。
スタンダード・チャータード銀行の法人・商業・機関投資家部門CEOのSimon Cooper氏は、「このアンケート結果に対する対応は1つではないが、SDGsを達成するためには投資家が先進国市場を超えて焦点を拡大する必要があることは明らかです。新興経済国は投資家に大きなリターンと貴重な影響を与えるチャンスを兼ね備えた、ユニークな投資機会を提供します。今こそそれをつかむ時です」と述べている。
(Text:高森徹夫)
参照
Standard Chartered Press Release "The $50 Trillion Question: UN Sustainable Development Goals Face Critical Investment Shortfall, Standard Chartered Research Finds" 2020.11.9
OPPORTUNITY2030:スタンダード・チャータードSDG投資マップ
The $50 Trillion Question
気候変動の最新記事