コロナ危機の第二波も、ようやく去る兆しを見せ始めた。経済は少しずつ回復に向かおうとしている。とはいえ、コロナ危機の経験の先にある社会は、これまでとは少し異なったものとなっていくだろう。それはどのような世界であるべきなのか、日本再生可能エネルギー総合研究所の北村和也氏が提言する。
コロナ危機が後押しした、新しい時代へ
このテーマでコラムの前編を書いたのが、4月だったので、早くも5ヶ月が経とうとしている。この間に、新型コロナウイルスは実質的な第二波を迎え、かなり強引ではあるが経済復活中心への道を歩みつつある。ちょうど、東京都の夜の店舗の営業時間の制限撤廃と、これとセットになったと思われる「GoToトラベル」への東京都参加が発表されたばかりである。
後半のテーマは、新型コロナ後の地域の想像であるが、これは、新型コロナによる変質を集めて具体化するものとは少し違う。
もちろん、グリーンリカバリーや密を避けた都会離れと地方への移住願望など、ベースとして新型コロナの影響は無視できない。しかし、この道は、新型コロナの前から敷かれていた既定のルートである。新型コロナはそれを後押ししたにすぎないことをここであえて書いておく。
新型コロナ流行後に「環境問題への意識や行動に前向きな変化」がおよそ4割
そうは言っても、新型コロナが生んだ危機意識は、明らかに人々の心に響いている。
今年9月8日に発表された、公益財団法人旭硝子財団による「第1回日本人の環境危機意識調査」(対象:男女1,092名)の結果のひとつが、本項目の表題である。
設問のひとつ、「新型コロナ流行以前の生活と比較して、あなたの生活における環境問題への意識や行動について変化はありましたか」に対して、何かしらの「変化があった」が62.0%と、6割を超えた。
公益財団法人旭硝子財団「第1回 日本人の環境危機意識調査」また、変化のうち「環境問題の解決に向けての前向きな意識や行動の変化があった」のは、その3分の2で、全体で見ても表題のようにおよそ4割、43%を数えた。具体的な変化として、「省エネ」、「食品ロス」などが挙がっている。
さらに重要な設問がある。「日本国内の環境問題で危機的だと思うのは何か」の設問では、設定された各種の問題から3つを選ぶやり方で、その1位が「気候変動」となった。46.6%が選び、ほぼ半数が気候変動に対する強い懸念を持っていることが分かった。
公益財団法人旭硝子財団「第1回 日本人の環境危機意識調査」これは重要な意識の表出で、間接的ではあるが、新型コロナが環境への意識を高め、強く気候変動の危機を気づかせたと考えられる。
気候変動の解決方法は、第一に再生エネの利用とエネルギーの効率化の組み合わせである。人々に広がる懸念の払しょくのため、再生エネ電力の利活用の重要性が特に増すことになる。
勢いを増す、再生エネ電力の実需要
旭硝子財団の調査を待たずとも、民間企業や自治体による再生エネ電力への要求は上昇する一方である。最近のニュースで目につくのは、企業の工場や本社ビルが再生エネ電力100%に転換するなどのトピックスである。実際に、複数の製薬会社の例で工場丸ごと100%化にしたり、横浜市のように自治体の庁舎を再生エネ化したりするのもブームに見える。
環境省の進める「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ宣言」を表明した自治体は、今年になって急激に増え、154団体(2020年9月25日)となった。その合計人口は7,000万人以上と日本全体の過半数を超えている。さらに「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ宣言」では、つい先日、小泉環境大臣が、特別な方針を明らかにした。表明自治体に対し、再生可能エネルギーの導入などで財政支援をする考えを示したのである。
この傾向の背景には、再生エネの利用が「プッシュ型からプル型」に変わってきた新たな状況がある。
FIT制度のように、実際の電力需要とは関係なく再生エネ発電施設を増やす施策として後押してきたのが「プッシュ型」で、一方、再生エネ電力が欲しいという需要が引っ張るのが「プル型」になる。
現状は、民間企業や自治体が中心となって再生エネ電力の実需要を作る、本当の再生エネブーム到来と言える。再生エネの価値が正当に認められる時代になったと言い換えてもよい。
「地域」で想像する、100%再生エネ電力化
ここからは、ある意味で夢のワールドである。
しかし、再生エネの実需の拡大、強い価値評価を考えると、そう遠いこととは思えない。もう少し積極的に言えば、すでに準備を進める時期に入ったとあえて私は宣言しておく。
東京などとは違い、人口が集中していない地方のある一定のエリアをここで「地域」と呼んでおく。この場所での近未来のエネルギー利用の姿を想像してみる。
地域で使う電力をすべて再生エネ電源に転換するというのは、もはや当然のことである。RE100の参加企業は、2050年までにどういうロードマップで100%再生エネに変えていくかをプラン化しているので、一歩先を進んでいる。
再生エネ電力はいわゆる分散型エネルギーなので、普通の「地域」は、基本的には地元の電力を調達するだけで100%電力再生エネ化できるポテンシャルがある。後は、RE100企業と同様に、計画を立てて実行することができるはずである。
人口が集中している大都会ではこうはいかない。多くの大都市は、再生エネ電力のカバー率(ポテンシャル)は、一けた%でしかない。そういう理由から、横浜市は東北の12の自治体と「電力融通に関する連携協定」を結んだ。というより、結ばざるを得なかった。
一方、「地域」では、消費するエネルギーの二けた倍以上のエネルギー生産の可能性がある。だから、100%を目指すと言うことはできる。しかし、お分かりのように、今のままで何もしなくて目標に到達できるわけではない。ポテンシャルを現実に変える、つまり、例えば、電気なら施設を作って発電を実現しなくてはならない。
ポテンシャルと現実との間にあるもの
実はここにもうひとつ、重要なポイントが潜んでいる。
発電施設を作り、出来上がった電気を、自分たちで使えるようにすることである。
これまでのFIT制度による多くのメガソーラーのように、地域外の資本ばかりで再生エネ施設が作られると、電力を使う権利は資本投資した域外企業が持つことになる。すでにある発電施設も似たような状態のものが少なくない。
今、FIT電源を求めて、中央からの新電力などが地域に群がってきている。
「特定卸し」という本来は地産地消のための制度を使って、自分たちの顧客への販売につなげるためである。このことを非難するつもりは全くない。彼らは正当な自分たちのビジネスを行っているに過ぎない。見過ごしている側にも責任はある。
このように、地域は、自ら汗をかき、努力をしなければ、再生エネ100%に到達することは決してできないのである。
そのためには、再生エネ施設を自ら手掛けたり、既存のFIT電源保有者と交渉して、地域に「特定卸し」を落としたりすることである。そのためのツールとして、例えば、地域の資本で発電事業を立ち上げたり、地域新電力を設立したりすることで、再生エネを利活用する自前のシステムを作ることが最も肝心となる。
「熱、交通の再生エネ化」を想像すると
私が想像するのは、すべてのエネルギーを再生エネで賄う地域である。
最終エネルギー消費のうち、電力は全体の4分の1でしかない。前項の100%再生エネ電力化は、全再生エネ化の第一歩でしかない。自治体の「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ宣言」表明が150を超えたが、この実現には、すべての再生エネ化が必要で、たいへんハードルが高い。
それでも、地域での想像では、熱や交通の再エネ化を外せない。
再生エネ先進国のドイツでもこの2つの完全化はまだ始まったばかりである。
自動車大国のドイツは、交通が鬼門と言われ続けている。ただし、最近はフォルクスワーゲン社がEVに急速に傾き、水素社会を目指す6月初めの政府の決定で、「電動化⇒燃料電池化」へのルートも承認された。
日本でも再生エネの熱利用は、木質バイオマスなどのコジェネなどで始まっている。また、いろいろあっていまは廃れたようにも見えるが、屋根上の太陽熱利用の温水器は立派な再生エネ熱である。
交通では、EVが少しずつだが普及している。もし、水素利用が実現すれば、燃料電池なら、電気、熱、交通に一気に利用できる。
*
ここまで来て、原稿の字数がかなりオーバーしていることに気づいた。
熱、交通の再生エネ化は、実験、実証レベルとして各地で行われているが、それぞれ「完成形=熱、交通の100%再生エネ化」の一部でしかない。
次回の本コラムでは、私が想像する将来の地域を「熱、交通」でもご紹介したい。
連載:新型コロナのエネルギーへの影響を概観してみた