省エネ法における「電気」の評価の見直し 第35回「省エネルギー小委員会」 | EnergyShift

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省エネ法における「電気」の評価の見直し 第35回「省エネルギー小委員会」

省エネ法における「電気」の評価の見直し 第35回「省エネルギー小委員会」

2021年07月12日

現行の省エネ法における電力の取り扱いが、時代に合わなくなってきている。電気エネルギーの化石燃料換算から、オフサイトによる再エネ利用まで、実状に合わず、再エネの利用促進につながっていないという。2021年6月30日に開催された、経済産業省の第35回「省エネルギー小委員会」では、あらためて電気の取り扱いの見直しが議論された。

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現行省エネ法では非化石エネルギーが対象外

2050年カーボンニュートラルに向けては、徹底した省エネを進めるとともに、電力部門・非電力部門いずれにおいても、再エネや水素等の非化石エネルギーの導入拡大に向けた対策を強化していくことが必要である。

このため、省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)の果たすべき役割は大きく、前回の記事【省エネ法「エネルギー」定義の見直しと電力需要の最適化へ 第34回「省エネルギー小委員会」】では、省エネ法における「エネルギー」の定義の見直しも含めた、抜本的な法制度の見直しが進められていることをお伝えした。

現行の省エネ法における「エネルギー」という用語の定義では、「化石由来」の「燃料、熱、電気」といった一次・二次エネルギーのみが対象となっており、再エネや水素等の非化石エネルギーは、使用の合理化(=省エネ)の対象外となっている。

省エネルギー小委員会の前回会合では、この定義を見直し、非化石エネルギーを含むすべてのエネルギーの使用を合理化の対象にする方向性が示された。省エネルギー小委員会の第35回会合では、省エネ法上の「電気」の取り扱いの見直しが議論されているので、本稿ではその概要をお伝えしたい。

省エネ法上のエネルギー使用量の報告

省エネ法では特定事業者等(年間エネルギー使用量が原油換算で1,500kl以上の者)に対して、エネルギー使用量の定期報告のほか、省エネ取組の中長期的な計画の作成や、エネルギー管理体制の構築等を求めている。

ここで対象としている「エネルギー」とは、現在は化石由来の燃料等に限られることは上述のとおりであるが、省エネ法の定期報告においては、すべてのエネルギーを「一次エネルギー(原油)」換算して報告する必要がある。

それぞれのエネルギーの換算係数は、省エネ法施行規則で規定されており、代表的な換算係数は表1のとおりである。事業者は表1で算出した発熱量(GJ)に、原油換算係数0.0258(kl:キロリットル)を乗じて報告する。

なおエネルギーミックスにおいても、例えば2030年度最終エネルギー需要(対策前)は3.76億kl、省エネ目標量を6,200万kl、のように原油換算値(kl)で表されている。

表1.省エネ法における一次エネルギー換算係数

エネルギーの種類換算係数
原油38.2 GJ/kl
灯油36.7 GJ/kl
軽油37.7 GJ/kl
A重油39.1 GJ/kl
液化石油ガス(LPG)50.8 GJ/t
液化天然ガス(LNG)54.6 GJ/t
一般炭25.7 GJ/t
産業用蒸気1.02 GJ
温水1.36 GJ
電気(買電)"9.76 GJ/千kWh
(昼夜間格差あり)"

出所:省エネルギー小委員会を基に筆者アレンジ

表1のとおり、系統電気の一次エネルギー換算係数は、全国一律に9,760kJ/kWh(9.76GJ/千kWh)と定められている。

現行省エネ法において系統電気は、当該電気の起源を物理的に特定できないため、全量が化石火力で発電されたとみなして、一次エネルギー換算係数が設定されている。

なお、自営線を介して供給される電気や自己託送により供給される電気は通常の系統電力とは異なり、電源を特定できるため、発電量および発電に用いた燃料の使用量から算出される係数を用いることが可能である。

電気の一次エネルギー換算係数は、火力発電効率の実態を踏まえてこれまで複数回見直しされてきたが、現行値は2003年実績を基に2006年に改正された係数であり、これ以降15年間改正されていない。

図1.電気の一次エネルギー換算係数

出所:省エネルギー小委員会

現行の電気一次エネルギー換算係数の問題点

省エネ法上の「みなし」であるとはいえ、系統電力はすべて化石火力発電であるとみなすことは、今後の再エネ大量導入が見込まれる中では、現実との乖離がますます大きくなることが懸念される。

また現状では再エネは、省エネ法上の「エネルギー」としてカウントされないため、オンサイトや自営線・自己託送による再エネは、ゼロエネルギーカウントである。一方、系統を介して供給される再エネ電力はすべて火力発電由来であるとみなされる。

再エネ電源がどこに位置するかによって、このような評価の違いが生じることは、公平性の観点で問題があると考えられる。

図2.オンサイトとオフサイト再エネの評価の違い

出所:省エネルギー小委員会

省エネ法上の電気の取り扱いの見直し

現行の省エネ法では、化石エネルギーの「使用の合理化」(=省エネ)を目的としているが、合理化の対象を非化石エネルギーを含むすべてのエネルギーに変更するにあたり、系統電力についても、すべてのエネルギー(電源構成)を適切に反映した係数で評価する必要がある。

このため電気の一次エネルギー換算係数については、全国一律の全電源平均係数を基本とすることが事務局案として示された。

図3.省エネ法上の電気の評価の見直し

出所:省エネルギー小委員会

電気の一次エネルギー換算係数の設定に当たり、各エネルギー源の発電効率をどのように考えるかという論点がある。

非化石電源の発電効率については、諸外国でも制度により考え方が異なっている。

例えば、非燃焼再エネ(風力、太陽光、水力、地熱)については、そのエネルギーとしての経済的価値は発電された時点以降にしか発生しないため、発電効率100%と評価する考え方がある。他方、バイオマスは火力発電と混焼して用いられることが大宗であるため、火力発電効率並みで換算するといった考え方もある。

原子力についても、再エネ同様に発電効率100%とする考え方や物理的な観点から発電効率33%で評価する考え方のいずれも存在する。また電気の一次エネルギー換算係数の算出に当たり、諸外国では、将来見通しに基づき算出する考え方や、 過去の実績値に基づき算出する事例のいずれも存在する。

省エネルギー小委員会の第35回会合では、委員の多くは実績値に基づく方法を支持している。新制度への移行は、事業者への影響を踏まえて最速で2023年度からとすることが提案されている。

電気の一次エネルギー換算係数を見直した場合、特定事業者のエネルギー消費原単位やベンチマーク指標、機器の省エネ評価、建築物省エネ法やZEH/ZEBの評価結果等が変わることが想定されるため、事業者の負担等へ配慮する観点から、3年程度の移行期間を設けることとする。

電気の需要の「平準化」から「最適化」へ

省エネの深掘りそれ自体が重要であることに変わりは無いものの、再エネ等の非化石エネルギーの導入拡大に向けて、需要の「高度化」や「最適化」の推進が、今回の省エネ法の見直しにおける重要な論点とされている。

現行の省エネ法では、電力需要の「平準化」措置が盛り込まれており、夏冬の昼間において電力のピークカット・ピークシフトを促している。具体的には電気需要平準化時間帯(7~9月、12~3月の8時~22時)に使用する電気については、使用量換算時に係数「1.3」を乗じて国に報告することとなっている。

平準化が目的であるため、対象となる「季節」や「時間帯」は固定されており、需要家はこれ以上に細かく需要を変動させるインセンティブを持たない仕組みである。

図4.電気需要平準化のイメージ

出所:第35回省エネルギー小委員会

他方、太陽光発電や風力といった変動性再エネの導入量が増加するに伴い、再エネ発電量が電力需要を上回る時間帯がこれまで以上に増加することが予想される。

現在は主に、発電側(火力・再エネ)を抑制することにより電力の需給バランスを維持しているが、需要側リソースによるデマンドレスポンス(DR)を活用することにより、一層効率的に需給バランスが維持される。

具体的には、再エネ余剰電力が発生する時間帯では「上げDR」をおこない、需給逼迫時には「下げDR」により自らの需要を抑制する。つまり「季節」という大きな単位だけでなく、1日単位・時間単位で、需要の上げ/下げが求められるようになる。

DRは現在も主に契約ベースで実施されているが、これを広く制度的に促す観点から、省エネ法による環境整備の一つとして、新たに「需要最適化」の仕組みを導入することが提案されている。

図5.電気の「需要最適化」のイメージ

出所:省エネルギー小委員会

この新たな「需要最適化」の枠組みにおいては、供給側の変動に応じて電気の一次エネルギー換算係数を変動させることが有効である。

具体的には再エネの発電量や系統の需給バランスに応じて、表2のように3つの異なる電気換算係数を適用する。

表2.需給バランスに応じた電気換算係数

需給バランスの状況電気換算係数
①再エネ出力制御時再エネ係数
②それ以外の時間帯火力平均係数
③需給逼迫時火力平均係数に重み付けした係数(×α)

出所:省エネルギー小委員会を基に筆者アレンジ

これらの係数で算出する「需要最適化原単位」を、通常の原単位と同様に年率1%の改善を求めることとする。

この省エネ法の係数に差異を設けることのみによって、上げDR等に取り組む需要家は限定的と予想されるが、上げDRによる電力使用量の増加(増エネ)が、省エネ法上で不利とならない制度環境の整備として重要なものである。

購入電力の非化石化の推進

省エネ法上の電気の取り扱いを、火力平均から全電源平均に変更することは大きな一歩である。しかしながら、制度変更後の一次エネルギー換算係数は「全国一律の全電源平均係数」が用いられる予定であることから、需要家(省エネ法上の特定事業者)が、どのような小売電気事業者・料金メニューを選択しても、エネルギー使用量の観点では差異が生じないこととなる。

このため省エネ小委では、非化石エネルギー電力の購入インセンティブを与えるため、小売事業者別の非化石電源比率を適切に反映した指標により、別途評価する措置を検討している。

このように新たな省エネ法では、従来の「省エネ」という言葉を超えた、多様な役割が求められている。

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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