北尾トロの 知らぬがホットケない 第11語 洋上風力発電の巻 | EnergyShift

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北尾トロの 知らぬがホットケない 第11語 洋上風力発電の巻

北尾トロの 知らぬがホットケない 第11語 洋上風力発電の巻

2021年08月21日

『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『夕陽に赤い町中華』などでおなじみの北尾トロさんの連載。カーボンニュートラル?脱炭素?SDGs??という自称・脱炭素オンチの北尾トロさんが、「知らぬが仏」にしておけないキーワードを自ら調べ上げ、身近な問題として捉えなおします。今回のキーワードは・・・

知らぬがホットケない 第11語 洋上風力発電 の巻

2021年になって、稼働ではなく建設中のニュースなのか

秋田県で国内初の大型洋上風力発電所が建設中とのニュースを知り、意外に感じた人は僕だけではないだろう。

「あれ、風力発電は山の上にでっかい風車みたいなものを建てるんじゃなかったっけ?」

でも、風をエネルギーにできるなら山だろうと海だろうといいわけだと頭を整理し、また意外な気持ちになる。

「2021年になって、稼働ではなく建設中のニュースなのか」

東日本大震災以降、これからは原子力ではなく再生可能エネルギーを使った発電に切り替えていくべきだと多くの日本人は思ったし、紆余曲折ありながらも、太陽光発電は一般的になりつつある。技術的なことはわからなくても、再生可能エネルギーへのシフトチェンジが、EUを筆頭に世界的潮流になっていることは広く知られていることだ。

しかも日本は周囲を海に囲まれた国。山の上に建てると、万一倒れたときに大事故を招きかねず、羽根から発する超音波が健康被害をもたらすリスクもあるが、洋上なら問題が少ない。となれば、規模の大小はあれど、洋上風力発電所のひとつやふたつは稼働していると思い込みがちなのだけど、2018年に「再エネ海域利用法」なる大型洋上風力発電所に関する法律が公布され、公募によって選ばれた事業者が最大30年間、洋上の占用許可を受けられるようになって、ようやく本格的な建設にこぎつけたところなのだ。

それまでは慎重に実験を繰り返し…といえば聞こえがいいけど、世界全体では2010年に2.9GW(ギガワット)だったのが2020年には35GWの導入量にまで急成長しているのだから、ハイ、日本、遅れてます。

再生可能エネルギー県だって夢じゃない

でも、がんばってもらいたいと思うのだ。秋田の洋上風力発電は総工費1,000億円の大事業。合計出力は14万kW(キロワット)で、13万世帯の発電量をまかなえるという。風力発電に適した風が吹く秋田県では陸上風力発電設備の導入も盛ん。洋上での計画もすでにいくつか進行中で、うまくいけば"再生可能エネルギー県"としての立ち位置を獲得できるのではないか。

それがどうしたと思われるかもしれないが、秋田県のイメージは国際レベルで上がるだろうし、安全・安心を求める都市生活者の移住候補地として人気が出て、人口減に歯止めをかける効果を生むことも考えられる。当然、雇用面でも果たす役割は大きく、地元にとって経済的なメリットがあるのは間違いない。

海にはもう一つのエネルギー源があるんじゃないか

しかし、僕には素朴な疑問が。わざわざ洋上に巨大な風ぐるま(形状は別のものかもしれないが)を作る技術があるなら、海そのものが持っている抜群のエネルギー源を使うほうが効率的ではないか。

寄せては返す地球の呼吸=波である。

波を使えば、風が吹くのを待つ必要もなく安定したエネルギーとして利用できるし、設備投資も洋上風力発電より安く抑えられそうだ。何よりも、理屈の上では全国どこの海でも実現可能(?)なのがいい。

まあ、素人が思いつくくらいだから、とっくに波に目をつけた国や企業はいるだろう。それでも太陽光や風力に後れを取っているという事実は、この話がそう簡単ではないのを裏付ける。漁業従事者にダメージを与えてはいけないし、クリアすべきこともたくさんあるのだと思う。

でも、技術的に可能であれば、やがてそれは形になるものだ。難題に立ち向かう国や組織はきっとあるに違いない。

検索するとぞろぞろ出てきた。この分野は「波力発電」と呼ばれているらしい。再生可能エネルギーに熱心なドイツでは、NEMOS社がコストを下げ、設置を簡単にした新しい発電機を開発して試験運用をするところまで進んでいるという。

「イケる!」となれば、みるみる技術革新が進むのがこの世界。先行する太陽光や風力発電に追いつけ追い越せと、波力発電が勢いを増すことは十分考えられる。

波力発電、実用化したのは日本じゃん!

またしても日本は置いてけぼり? いや、それは困る。なんといっても世界に先んじて波力発電を実用化したのは、日本の海上保安庁。1965年、最大出力30W〜60Wの波力発電装置を備えた航路標識用のブイを使っていた実績があるのだ。

現在も、神奈川県平塚市と東京大学生産技術研究所が主体となり、波力発電所の海域実証が行われている。とはいえ、クリアすべき問題点が多いのか、急成長という感じはない。下地はあるのだから、SDGsを実現する意欲があるなら、国も思い切った投資をして、本腰を入れてみてはどうなんだ。

それとも、利権を生む構造ができあがらないと動けないとでもいうのかしら。

エネルギー産業は巨大ビジネス。各国がシノギを削るなか、ぐずぐずしていたら世界的な利権をとり逃すことになると思うのだけれど。

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【北尾トロの知らぬがホットケない バックナンバーはこちら】

北尾トロ
北尾トロ

ライター。1958年福岡県生まれ。体験・見聞したことをベースに執筆活動を続けている。趣味は町中華巡りと空気銃での鳥撃ち。 主な著書に『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『ブラ男の気持ちがわかるかい?』(文春文庫)『猟師になりたい!1~3』(信濃毎日新聞社、角川文庫)『夕陽に赤い町中華』(集英社インターナショナル)などがある。

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