再エネ大量導入時の系統安定性を担うグリッドコード 第7回「グリッドコード検討会」 | EnergyShift

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再エネ大量導入時の系統安定性を担うグリッドコード 第7回「グリッドコード検討会」

再エネ大量導入時の系統安定性を担うグリッドコード 第7回「グリッドコード検討会」

2021年09月30日

電力系統に接続される再生可能エネルギーが増加するにしたがって、出力の変動などへの対応の必要性が増してくる。その対応として、あらかじめ系統連系のための技術要件を定めておくことが必要となってくる。この要件をグリッドコードという。今後、再エネを系統連系していくために、再エネ発電事業者が守るべきルールとなるものであり、その点から注目されている。2021年9月15日に開催された、電力広域的運営推進機関の第7回グリッドコード検討会での議論を紹介する。

審議会ウィークリートピック

2023年4月から適用開始されるグリッドコード

グリッドコードとは、電力系統に接続される電源等が従うべきルールのことである。

再エネ(特に太陽光や風力といった自然変動電源)の導入拡大に伴い、出力変動や予測誤差への対応や需給バランス維持のため、調整力の必要性が一層高まりつつある。

電力の安定供給と経済性の両立のため、系統側と発電側が一体となって、周波数調整力や電圧調整力、系統事故・擾乱時の対応能力等を確保することが求められている。

電力広域的運営推進機関では、2020年9月に「グリッドコード検討会」を立ち上げ、まずは2030年度エネルギーミックスの実現に向けて、「短期的に要件化が必要な技術要件」を中心に検討がおこなわれてきた。「短期的」とは、本検討会の設立から3年程度、すなわち2023年4月の適用開始を想定したものである。

なお本検討会で議論されるグリッドコードとは、一般送配電事業者と発電事業者間の託送供給に関する契約において、「系統連系技術要件(託送供給等約款別冊)」に規定されるものが中心となっている。広義のグリッドコードについては、拙稿【再エネ大量導入に不可欠な、新たなグリッドコードとは 第1回「グリッドコード検討会」】を参照願いたい。

これまで約1年間の検討を経て、第7回会合において、グリッドコードを構成する個別技術要件について一定の結論が得られたので、本稿ではその一部について概要をお伝えしたい。

表1.グリッドコード 個別技術要件

 要件名
1発電出力の抑制
2発電出力の遠隔制御
3周波数変化の抑制対策(上昇側)
4周波数変化の抑制対策(低下側)
5発電設備の制御応答性
6自動負荷制限・発電抑制(蓄電設備制御(充電停止))
7周波数変動時の発電出力一定維持・低下限度
8発電設備の運転可能周波数(下限)
9発電設備の並列時許容周波数
10単独運転防止対策
11事故時運転継続
12発電設備早期再並列(発電設備所内単独運転)
13特定系統単独維持(発電設備単独運転)
14電圧・無効電力制御(運転制御)
15電圧変動対策(力率設定)
16発電設備の運転可能電圧範囲と継続時間
17電圧フリッカの防止
18事故除去対策(保護継電器・遮断器動作時間)
19系統安定化に関する情報提供
事故電流に関する情報提供
20慣性力に関する情報提供

出所:グリッドコード検討会

発電設備の制御応答性

グリッドコードの個別技術要件の一例としては、「発電設備の制御応答性」が規定される。

従来から、GF(ガバナフリー)やLFC(負荷周波数制御)、EDC(経済負荷配分制御)等の調整力を活用することにより系統周波数が制御されてきたが、現行の系統連系技術要件には制御応答性の規定はない。もし電源の応答時間が遅いならば、周波数の動揺が悪化するおそれがあるため、制御応答時間を設定することにより、周波数を確実に制御することが目的とされる。

なおグリッドコード全体としては、特定の発電技術に拘ることなく技術中立的に規定されるが、個々の個別技術要件としては、対象となる電源種別や電圧(容量)が異なる。

例えば、「発電設備の制御応答性」の対象は、

  • 特別高圧(100MW以上。沖縄は35MW以上)のGT(ガスタービン)およびGTCC(コンバインドサイクルガスタービン)、その他の火力発電設備及び混焼バイオマス発電設備
  • 特別高圧(容量不問)の太陽光・風力・蓄電池

となっている。なお今回の短期的(2023年4月適用開始)要件化の対象は特別高圧のみであり、高圧と低圧は中長期的な継続検討扱いと位置付けられている。

制御応答性に関して新規で系統連系技術要件に要件化されるものは、図1、表2のとおりである。

図1.電源の制御応答性のイメージ

電源の制御応答性のイメージ
出所:グリッドコード検討会を基に筆者作成

 

表2.系統連系技術要件の改定案(赤字:新規で要件化)

系統連系技術要件の改定案(赤字:新規で要件化)
出所:グリッドコード検討会

火力等に関しては、ガバナフリーでは系統周波数が変動してから2秒以内に出力が変化開始し10秒以内に出力変化を完了すること、LFCとEDCでは制御信号を受信してからGT・GTCCは20秒以内、その他の火力発電設備・混焼バイオマス発電設備は60秒以内に出力が変化開始することを要件化する。

太陽光・風力・蓄電池に関しては、系統周波数が変動してから2秒以内に出力変化を開始し、10秒以内に出力変化を完了することを要件化する。

ちなみに、これらグリッドコードで定める秒数(遅れ時間)は、需給調整市場において規定される「市場コード」と整合的であり、一次調整力の応動時間は10秒と定められている。

また技術的実現性や費用面については、要件化は新設設備が対象であり、これまでの実績や海外での事例もあるため、過度な費用負担とまではならないと想定されている。

グリッドコードの個別技術要件については、個々の技術ごとに遡及適用の有無を検討している。本件「発電設備の制御応答性」に関しては標準的な制御応答性であり、既設火力発電設備はこれをすでに満たしているため、系統運用に支障を来すおそれは無く、遡及適用は「無し」と判断された。この適用時期は2023年4月を予定している。

周波数変化の抑制対策(上昇側)、(低下側)

今後太陽光等のPCS電源が系統により多く接続された場合、多数の同期発電機が系統に並列していた従来と比べ、調整力が必要最低限だけとなる可能性が高く、系統事故等による大規模な電源脱落・負荷脱落が発生した場合の周波数維持能力低下が懸念されている。

周波数が一定程度を超えて上昇した場合に、その上昇幅に応じて電源の出力(有効電力)を減少させる機能がない場合は、トリップ等による電源の大規模一斉脱落が発生する可能性がある。また周波数低下時においては、負荷遮断に至る頻度や負荷遮断量が増加する可能性がある。

よって太陽光等のPCS電源には、自律的に出力を抑制する機能が必要になると考えられる。なお特別高圧に連系する風力発電設備では、周波数が一定程度を超えて上昇した場合に、その上昇幅に応じて電源の出力(有効電力)を減少させる「上昇側」の機能は、2020年4月に既に要件化されている。今回はこれを「低下側」および太陽光にも適用拡大するものである。

今回の要件化の対象は、特別高圧の太陽光・風力・蓄電池である。高圧と低圧は中長期的な継続検討扱いと位置付けられている。

周波数変化の抑制対策のイメージは図2のとおりである。

「上昇側」では、系統周波数が上昇し適正値を逸脱するおそれがある場合、周波数調定率制御機能を活用し、発電設備の出力を調定率に応じて自動的に抑制する。蓄電池は放電を抑制するが、充電することまでは求めない。

図2.周波数変化の抑制対策のイメージ

周波数変化の抑制対策のイメージ
出所:グリッドコード検討会

「低下側」では、系統周波数が低下し適正値を逸脱するおそれがある場合、周波数調定率制御機能を活用し、発電設備の出力を調定率に応じて自動的に増出力する。蓄電池は充電を抑制するが、放電することまでは求めない。

先程さらっと「増出力する」と書いたが、燃料を焚き増しすれば容易に出力増加が可能な火力とは異なり、太陽光等の変動電源では増出力は、自然体では容易なことではない。

もし真剣にこの最大限の活用を求めるならば、太陽光等の出力をあらかじめ一定程度下げておく(常時出力抑制しておく)ことが必要となるが、現時点、発電事業者から理解を得ることは困難であると考えられる。

よって当面は常時の使用ではなく、九州エリアのように出力制御(抑制)が指示されている場合に使用する機能という位置付けである。元々、晴天時に需給バランス要因により出力制御している場合であれば、「出力を上げて下さい」という要請に対して発電事業者は喜んで対応するであろう。

また、ノンファーム接続における系統要因による出力抑制時にも活用される可能性がある。

ただし、将来の対応として定常時の出力抑制時にも使用できる機能を有しておくことが求められる。常時出力抑制することは発電電力量を減らすこととなるため、仮にこれを実施する場合には、その発電機会損失を補填する新たな制度を措置する必要があると考えられる。

なお上述のように応答速度としては、系統周波数が変動してから2秒以内に出力変化を開始し、10秒以内に出力変化を完了することを要件化するものの、出力指定値の50%到達によって出力完了とみなすことを検討中である。

もちろんこの要件は、発電に必要な日射や風速が得られる領域の範囲内での応答に限られる。

本技術要件も遡及適用はせず、2023年4月からの適用開始を予定している。

開発費などの追加的費用が発生するものの、新設設備が対象であり、すでに海外での事例もあるため過度な費用負担とまではならないと想定されている。

中長期要件化の検討

ここまで、短期的に2023年4月の要件化を目指す技術要件を2つだけ紹介してきたが、中長期的に要件化を目指すもの等に関しては以下のように区分けされている。

中期(2025年前後)に要件化を目指すもの・2023年4月要件化には間に合わないが至近での要件化を目指す(または要否を含めて検討する)要件
長期(2030年前後)に要件化を目指すもの・将来的に必要となる可能性がある要件
・要件化の可否が技術開発動向に左右される要件
継続検討・現時点では不要とは断言できず、電源構成比率や系統運用も踏まえて継続検討が必要な要件

「①中期(2025年前後)に要件化を目指すもの」の一例が、電圧上昇側の「Voltage Ride Through」である。従来日本では電圧低下側のみが規定されてきたが、電源一斉脱落の原因の1つとして欧米では規定済みである。

また、「②長期(2030年前後)に要件化を目指すもの」の例として、慣性力の供給や周波数変化率耐量(RoCoF)等が挙げられている。

これらはいずれも、再エネ大量導入の加速化に伴い、要件化の前倒しが必要となる可能性が高く、委員からも検討スケジュールの見直しが求められている。

日本は諸外国と比べて変動再エネ導入のハンデが指摘されることも多いが、そうであるならば一層、安定供給と経済性両立の観点からも、優れたグリッドコードの策定は重要性を増すものと考えられる。またグリッドコードのみならず、他の経済的措置も含めた包括的な環境整備が進むことを期待する。

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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