審議会ウィークリートピック
2017年4月からガス小売全面自由化がスタートし、2022年には導管分離が行われるが、まだまだ検討すべき課題は多い。ガス事業制度がどのようになっていくのだろうか。今回は「一括受電」ならぬ「一括受ガス」について、現在の議論を紹介する。
一括受ガスは認められるのか?
「一括受電」ならぬ「一括受ガス」、「燃調(燃料費調整)」ならぬ「熱量調整」、「熱量バンド制」、「スタートアップ卸」等々、これらはガス事業に関わる用語である。
エネルギーの自由化・システム改革に関する最新の検討状況をご報告する「審議会ウィークリートピック」では、一般ガス事業(いわゆる都市ガス事業)もそのスコープに収めている。
一般ガス・簡易ガスの小売全面自由化は、電力から1年遅れた2017年4月に実施された(ガス事業は、「一般ガス事業(都市ガス事業)」、「簡易ガス事業」、「一般ガス導管事業」、「大口ガス事業」の4種類に分かれる。本稿では特に断りがないかぎり、ガスとは一般ガスを指すものとする)。
「天然ガスの安定供給の確保」、「ガス料金の最大限抑制」、「利用メニューの多様化と事業機会拡大」、「天然ガス利用方法の拡大」を目的とするガスシステム改革をさらに推進するため、2018年9月に総合資源エネルギー調査会 電力・ガス基本政策小委員会の下に、「ガス事業制度検討ワーキンググループ」(以下、ガス制度WGと呼ぶ)が設置された。
ガス制度WGもすでに14回が開催済みであるため、主要な課題・論点については、実はすでにほぼ決着済み・整理済みである。よって本稿では一部過去の経緯を振り返りながら、現状どのような議論がなされているのかを紹介したい。
一括受ガス事業モデルとは
通常であれば、「一括受ガス」とは何か? の定義を説明したうえで、議論を紹介すべきである。だが、ガス制度WGではまさに「一括受ガス」とは何であるかが議論の中心となった。一括受ガスのイメージは以下の図1のようなものである。
図1.一括受ガスのイメージ
資源エネルギー庁「一括受ガスに関する検討」2018年11月29日一括受ガスとは、施設の管理事業者等が小売供給契約上の需要家としてガスを一括して調達したうえで、調達したガスを最終的な使用者へ受け渡す行為をさす、と一旦ここではご理解願いたい。
ガス小売全面自由化時点では保安等の観点から、一括受ガスは制度上許容されておらず、将来的な許容の要否については、自由化後の需要家ニーズも踏まえての継続検討課題とされた。新規参入者、特にガス事業者から電力自由化で攻め込まれる側に立つ電力会社は、一括受ガスの解禁を強く求めていた。
さらに、2018年の第3次規制改革実施計画には「一括受ガスの容認その他消費者の利益を最大限実現するため、2018年度中に検討・結論を得たうえで、速やかな措置を講ずべき」とされ、追い風も吹いていた。
これらの要請を受けて、ガス制度WGでは一括受ガスの要否について、①価格競争促進効果の観点、②スイッチング選択肢の観点、③需要家保護の観点、④受ガス実態・保安水準の観点から詳細な検討が開始された。
これにガス事業の4要素「契約単位・保安責任・契約期間・引き込み圧力」を掛け合わせた、ガス事業モデルのマトリックスが以下の表1である。
表1.ガスの事業モデルマトリックス
資源エネルギー庁「一括受ガスに関する検討」2018年11月29日一括受ガスは見送り
結論から先に述べると、ガス制度WGにおける議論の結果、一括受ガスは許容されない事業モデルとして、その実現は見送りとなった。理由は以下のようなものである。
- 一括受ガス事業者が負担すべきコストを一般ガス導管事業者に寄せるクリームスキミングは不適当である。
- 最終使用者のスイッチングが制約され、また需要家保護が担保されないため、デメリットが大きい。
- 実質的な価格低減効果を見込み難い。
- 一括事業者に受ガス実態があるとみなせない。
- 保安水準の低下が懸念される。
- 低圧引き込みの集合住宅に整圧器をあえて設置し、中圧引き込みとするのは、経済合理的ではない。
また、事業者からは「一括・各戸供給混合モデル」と呼ばれる事業モデルが別途提案されたが、これは「ホワイトラベル」の形態に該当する(一括事業者に受ガス実態があるとみなせない)と判断された。ホワイトラベルとは、電力では「受電実態がない者が、需要家に代わり当該事業者の名義で、あるいは需要家の契約名義を当該事業者に書き換えることにより、小売電気事業者等と小売供給契約を締結し、需要家に電気を提供するような行為」とされ、電気事業法上許容されない事業形態と位置づけられており、ガスでも同様にNGと判断された。
販売経費等の圧縮による安価な料金メニューの適用は需要家代理モデルで実現
他方、事業者が一括受ガスに求める「販売経費等の圧縮による安価な料金メニューの適用」などガス需要を束ねるメリットは、いわゆる「需要家代理モデル」でほぼそのまま実現できるのではないかと指摘された。
図2.需要家代理モデル
資源エネルギー庁「一括受ガスに関する検討」2019年1月29日需要家代理モデルとは、代理事業者が需要家に代わって、ガス小売事業者との料金交渉や料金請求等をまとめて行うことや、代理サービスを他のサービスとセットで提供するモデルとされている。
これらガス制度WGの検討を踏まえ、「ガスの小売営業に関する指針」が改定された。ガス小売事業者は今後、需要家代理モデルを活用して需要家にメリットをもたらすことが期待される。
なお、一括受ガスで指摘された契約期間の長さ(10~15年)は、電力の一括受電(高圧一括受電)でも同様の商習慣・契約実態が存在する。
「そもそも長期契約が合理化される事由はあるか。長期契約による価格低減効果はあるか。使用者のスイッチングニーズが生じた場合に、スイッチング制約が生じないか」というガス制度WGの指摘は、一括受電にもそのまま当てはまると考えられる。
この論点に限らず、第12回電力・ガス基本政策小委員会(2018年11月)では、一括受電の在り方に関し、事務局から検討課題の提起があった。
一括受電事業者は現状では、電気事業法上では「需要家」と位置付けられているため、小売電気事業者と異なり、供給条件の説明義務や苦情処理義務等が課せられておらず、報告徴収等の対象ともなっていない。
小委員会で委員からは、「高圧一括受電については問題視しつつ見ていく必要がある」、「一括受電については何らかの規律を設けたほうがよいのではという問題意識」などの発言があった。一括受電における需要家保護については、継続検討課題となっている。
一括受ガス状態にある案件の是正
上述のとおり、新規の一括受ガスについては一旦NGとなったが、古くから「一括受ガス状態にある案件」が多数存在することが指摘されてきた。
これらを是正することは、需要家保護の担保、スイッチング選択肢の確保、需要家間の託送料金負担の公平性担保や、ガス小売事業者間の円滑な競争確保等の観点から重要であり、具体的に期限を区切り、2019年度末までに「是正」もしくは「是正見込みの確保」を完了させることが要請されていた。
今回、第13回「ガス事業制度検討WG」ではその進捗状況について報告され、2020年3月末時点で147件が是正未了の状況となっている。
図3.一括受ガス状態案件の是正状況
資源エネルギー庁「一括受ガスに関する報告」2020年7月10日147件のうち、ガス料金の上昇・工事費負担を理由に是正交渉が進展していない案件は43件であるが、残り104件は1988年以前の旧い託送供給約款規程下で合法的に建築された案件(既存不適格案件)であった。
ガス制度WGでは、これら104件についてはただちに供給規程違反とはせず、今後、増改築等を実施する機会に一括受ガス状態を是正させることとした。
図3で404件を占める「是正見込みの確保」は、必ずしもその是正期限が明確化されていないようであり、需要家とガス小売事業者間の協議は非常に難航している様子であることが伺える。
(Text:梅田あおば)