FIT制度導入以降、太陽光発電の急拡大と比べると、風力発電の開発はほとんど進んでいない。その理由の1つが、環境アセスメント(環境影響評価)に長い時間と大きなコストがかかっていることだ。そのため、環境アセスの要件緩和についての議論が進められている。2021年3月11日に開催された第3回「再エネの適正な導入に向けた環境影響評価のあり方に関する検討会」での議論をお届する。
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環境省の2019年度再エネポテンシャル調査において、陸上風力の「経済性を考慮した導入ポテンシャル」は設備容量1.6億kW(160GW)、年間発電量4,539億kWhと推計されており(いずれも高位ケース)、洋上風力に次いで再エネの中でも最大のポテンシャルを有すると考えられている。
また日本風力発電協会(JWPA)は2050年ビジョンとして陸上風力で40GW導入を掲げているが、2020年現在の導入設備容量は435万kW(4GW)にとどまっている。低迷の一因として、風力発電の環境アセスメントには4~5年程度の期間と数億円のアセス費用を要すること、アセス長期化による事業者のリスク負担増加が指摘されている。
このためJWPAからは環境アセスの第一種事業規模要件を「1万kW以上」から「5万kW以上」に緩和することが要望されている。
内閣府の「再エネ等に関する規制等の総点検タスクフォース」(TF)において、環境影響評価法(環境アセスメント)の対象となる風力発電所の規模要件を見直すよう要請があり、これを受けて環境省・経産省共管の「再エネの適正な導入に向けた環境影響評価のあり方に関する検討会」では規模要件の見直しを検討してきたが、その第3回会合にて規模要件緩和の方向性が示されたため、本稿ではこれをご報告したい。
現在、風力発電の環境影響評価法の対象事業は、第一種事業が1万kW以上、第二種事業が7,500kW以上1万kW未満(第一種事業の0.75倍)とされている。第3回会合の結論としては、第一種事業の規模要件を5万kW以上、第二種事業の規模要件を3.75万kW以上5万kW未満に緩和することが提案されている。
環境アセスは「大規模」な事業、かつ「環境影響の程度が著しい」ものとなるおそれがある事業が対象とされるため、前回までの検討会では、その規模の考え方や環境影響評価について検討が進められてきた。
環境アセス法対象事業はその事業の特徴により「面的事業」、「線的事業」、「点的事業」に分類することが可能である。それぞれの事業に応じた土地改変による影響の大きさと、環境負荷の発生・排出の度合いに着目したうえで環境アセスの規模要件が設定されている。
「面的事業」の代表例が土地区画整理事業や工業団地造成事業、太陽光発電所であり、これらの面的事業においては、土地改変面積100haがメルクマール(指標)として設定されている。この結果、太陽光では4万kW以上が法アセス第一種事業の対象とされている。
「線的事業」の代表例が道路や鉄道であり、事業による「環境影響の程度が著しい」おそれのある範囲をその「線」の両側50メートル程度と想定し、これが100haに相当する長さ10kmを要件としている。
また「点的事業」の代表例である火力発電所は、土地改変の面積そのもの(面的規模)ではなく、事業から発生・排出される環境負荷(環境汚染物質等)の量に着目することが適切であることから、事業施設の能力を基準として設定されている(火力発電では第一種事業15万kW以上)。
なおこのような事業規模要件を定めず、事業の「すべて」が第一種事業対象となる高速道路、新幹線、原子力発電所、といった事業種別も存在する。
それでは風力発電はどの類型に該当するだろうか。
風力発電は良い風況を求めて海岸線沿いに一列に風車を配置することや、山間地で尾根上に一列に風車を配置することが一般的と考えられる。このため、風力発電は「線的事業」とみなすことが可能である。
他方、鉄道等と異なり、風車は高さ100メートルを超える構造物であることから、三次元的な高さ方向の空間利用による環境影響に関しても考慮する必要があると考えられる。
このような事業特性を考慮する例として、他の事業種別を参照することが可能である。
埋立て・干拓や廃棄物最終処分場は、面開発として通常想定される土地形状の変更等による影響だけではなく、その事業特性による環境負荷が大きいと想定される。このため埋立て・干拓では50ha、廃棄物最終処分場では30haという小さめの数値が設定されている。
環境省事務局はこの考え方を準用することにより、風車に対しても通常の100haとは異なる、より厳しい改変面積をメルクマールとすることとして、具体的には「埋立て・干拓」と同じ50haとすることを提案している。
50haはあくまで指標であって、風力発電事業にそのまま当てはめるわけではなく、50haに相当する出力規模を調査する必要がある。
列状に配置された複数の風車の中心を結んだ線から両側に50メートルの範囲を事業面積と捉えると、2012年以降に環境アセス評価書手続きが終了した46の事業では、50haに相当する発電所出力は約5万kWとなることが判明した。
よってこの分析を踏まえ、第一種事業の規模要件を5万kW以上に見直すこととした。
図1.風力発電事業面積と出力の関係
出所:再エネ環境影響評価検討会
2012年以降に新設された風力発電所および法アセス手続中の案件を対象に、現在の1万kWという規模要件のもとでは法アセス第一種事業のカバー率が98.6%と非常に高い状態であるのに対して、仮に第一種事業5万kW以上を当てはめた場合、カバー率は79.4%になると試算される(いずれも出力ベース)。
2012年頃と比較すると風車の単機出力は大型化の傾向が顕著であるものの、一事業の総出力はそれほど大きな変化が見られないことから、5万kWへの緩和後は2割程度の事業が法アセス第一種事業の対象から外れると予想される。
50haという指標を設けることには、他のアセス対象事業との比較公平性という観点では一定の合理性があるものの、前回までの会合で多くの委員から指摘されていた、5万kWへの緩和が「環境影響の程度が著しい」ものとならないという合理的根拠はほとんど示されていないと感じられる。
5万kWへの緩和という結論ありきの、後付けの説明ではないかという指摘が複数の委員から投げ掛けられている。
環境アセスは国の環境影響評価法による法アセスだけでなく、地方自治体条例による条例アセスも実施されている。
環境影響評価条例において風力発電所が対象となっている自治体は、47都道府県のうち33府県、21政令市のうち15政令市であり、土地の改変等の条件で対象となりうる自治体は4県1政令市ほど存在する。
風力発電所を対象事業としている条例の第一種事業の規模要件は、7,500kWが13(10県、3政令市)、5,000kWが14(9県、3政令市)であり、仮に条例の規模要件が変更されない場合、多くの風力発電事業者は従来通り環境アセスを、条例に基づき実施する必要があると考えられる。つまり従来は国の法アセスが担っていた機能の多くを、実態として自治体に移行させることになると考えられる。
これでは法アセス第一種事業対象外となる5万kW未満であっても多くの場合、事業者の負担軽減とはならず、風力発電の迅速な事業化には繋がらないと考えられる。
ここで懸念されるのが、現在は条例で風力発電を対象としていない自治体に新規の風力発電事業が集中することである。
もし現在、法アセス対象が1万kWと小さめであることが、風力発電を条例アセスの対象としていない自治体が存在する理由であるならば、法アセスの規模要件緩和後は、未対象の自治体は条例に風力発電を追加することを検討する可能性がある。
条例改正の検討とその周知期間は少なくとも1年程度は必要とされるため、法アセスの規模要件緩和には、国は1年程度のリードタイムを確保する予定である。
なお愛知県・千葉県・京都市を除き、風力発電アセス条例の多くは第一種事業の規模要件の上限を設定しておらず、法アセスの規模要件緩和後にアセスの「空白」地帯が生じるという問題は発生しない。よって必ずしも、既存の条例側で急いで第一種事業の規模要件を見直す必要があるわけではない。
これに関しては、地球温暖化対策推進法(温対法)の改正を考慮する必要がある。
改正温対法では、地方公共団体は再エネ利用促進等の実施目標を定めることが義務付けられる。仮に既存の条例アセスの規模要件が厳しすぎることが風力発電の導入に抑制的効果をもたらすならば、自治体は再エネ目標を達成できない可能性がある。
よって自治体も風力発電導入促進の観点から、条例アセスの規模要件を緩和する可能性がある。ただし環境影響評価条例は風力発電だけを対象にしているわけではなく、廃棄物処分場などアセス制度全体の整合性を、時間をかけて再検討する必要があると考えられる。
地域の生態系保護や景観等の住民環境保護の重要性は変わらないものの、再エネ・風力発電を促進するために、環境影響評価条例を改正するか否か、自治体は難しい判断を求められると考えられる。
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