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省エネ冷蔵庫でデータのサバ読み発覚!

省エネ冷蔵庫でデータのサバ読み発覚!

2021年05月29日

一般家庭ではもっとも消費電力量の多い家電の1つが冷蔵庫。しかしその省エネ性能は急速に進んだ。そのため、古い冷蔵庫を買い替えることは、電気代の削減ともなる。そこで開始した事業が、冷蔵庫の買い替え支援だった。APバンクからの融資を受け、事業を開始したが、思わぬ問題にぶつかり、その結果、政府や電機業界を動かすことになる。足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ(足温ネット)事務局長の山﨑求博氏が当時を振り返る。

レジェンド?はたまた惰性?~足温ネット20年の軌跡 8

年間電力消費量が2割減に!

APバンクから融資を受けた私たちは、次々に買い替え希望者を募りながら事業を進めていきました。では、買い替えによってどれだけの省エネ効果が得られたでしょうか?

私たちからの融資を受け、2004年10月初めに省エネ型冷蔵庫を購入したOさんの場合、10月の電力消費量は前月比15%減の省エネを実現しました。電力料金にすると月額1,500円、年間にすると18,000円の節約となり、6年ほどで冷蔵庫の購入代金をまかなえる計算です。

これをきっかけに照明なども省エネ化に努めた結果、Oさん宅の電力消費量は昨年比約20%の省エネとなりました。

こうした実績を基に、私たちは区議会を通じて江戸川区に省エネ推進に向けた事業の実施を求めました。環境NPOですらこれだけの事ができるのだから、区も取り組むべきだと。

区長の答弁はつれないものでしたが、質問の翌年(2005年)に江戸川区は大型施設15ヶ所の省エネ改修を実施します。ボイラーの効率化等に総額1億1,500万円かかりましたが(『産経新聞』2,006年2月7日)、改修後の光熱費は年間7,000万円の節約に! 省エネ投資額を2年ちょっとで回収できる計算です。直接ではないものの、私たちの声が区に届いたんだと捉えています。

省エネ効果が出ない! との声が

ところが、2005年6月にとんでもないニュースが飛び込んできました。「三菱電機製冷蔵庫に買い換えたが、カタログ値通りに省エネにならない」というのです。

カタログ値で年間電力消費量260kWhの省エネ型冷蔵庫に買い替えたのに、実際に使ってみると2.5~2.8倍も電力を消費していました。記者の問い合わせに対して三菱電機は、「冷蔵庫の消費電力が、カタログ記載と実際の数値で大きく異なるのは事実。2~3倍の差になることもある」との回答だったそうです(『しんぶん赤旗』2005年6月10日付)。

私たちがイベントで講演した際にも「ナショナル(現パナソニック)製の省エネ冷蔵庫に買い替えたら電力消費量がカタログ値の3.3倍になった」と訴える参加者がいたり、事務所にも「買い替えサポート事業は大丈夫なのか?」との問い合わせがあったりしました。

これは由々しき事態です。メーカーのカタログ値を信じて、買い替えれば省エネになると無利子の融資まで行いながら事業を進めてきたのに、肝心のメーカー側が「カタログ記載と実際の数値で大きく異なるのは事実」などと言ってしまうのですから! しかし、前述のOさん宅では省エネ効果が確認されています。

そこで、冷蔵庫の電力消費量データを入手するため、融資した方々に簡易計測器を貸し出して、カタログ値と実際の電力消費量の比較を試みました。

その結果、メーカーによってカタログ値との「乖離の幅」に大きな違いがあることを知ります。また、図にある2.83倍の乖離があったケースでも、買い替え前の冷蔵庫の予測は7.36倍だったので、買い替え効果があることが示されました。こうした乖離を私たちは「サバ読み値」と名づけました。

JIS規格改正の陰に足温ネットのデータが

このサバ読み値を問題視する環境NGO/NPOは共同で経済産業大臣や社団法人日本電機工業会にJIS規格の見直しを申入れます。

冷蔵庫の性能表示に関するJIS規格はヨーロッパ仕様で、日本製品の付加機能(結露防止ヒーターや温度補償用ヒーター等)には通電していなかったことを知ったからです。カタログ値=冷蔵機能は省エネになっても、実際に使う際には付加機能も使うためにカタログ値より電力を消費していたのです。

政府は2005年9月、経産省総合資源エネルギー調査会・省エネルギー基準部会に「電気冷蔵庫等判断基準小委員会」を設置し、JIS規格の見直しを始めました。私たちが計測したサバ読み値データも提供しました。

その結果、日本工業標準調査会は2006年1月末、日本電機工業会からの申し出を受ける形で、JISC9801「家庭用電気冷蔵庫の消費電力量の試験方法」に関するJIS規格改正について改正すべきと決定し、同年5月1日から家庭用電気冷蔵庫の消費電力量表示値が変更されることになります。小委員会設置からわずか5ヶ月後のことでした。

試験方法の主な改正点として、消費電力測定中の条件を変更し、冷蔵室や冷凍室にそれぞれの容積に応じて水の入ったペットボトルなどを入れ、付加機能を作動させることになりました。

それまで庫内に何も入れずに計測していたのですから乖離も出るはずです。これによって冷蔵庫カタログ値は、これまでの2~3倍に跳ね上がったものの実際の数値に近くなり、省エネ買い替え事業を続けることができました。

私たちの実践的な活動が政府や電機メーカーを動かしたのです。こうした活動の一方で、私は中国で未知のエネルギーを知ることになります。どんなエネルギーかは、また次回で。

山﨑求博
山﨑求博

1969年東京江東区生まれ。東海大学文学部史学科卒。現在、NPO法人足元から地球温暖化を考える市民ネットえどがわ事務局長。自分をイルカの生まれ変わりと信じて疑わないパートナーとマンション暮らし。お酒と旅が大好物で、地方公務員と環境NPO事務局長、二足の草鞋を突っかけながら、あちこちに出かける。現在、気候ネットワーク理事、市民電力連絡会理事なども務める。

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