これから導入される政策の確認をはじめ「市場自由化の結果、スイッチングはどうなっているのか?」といった政策の検証を行う「電力・ガス基本政策小委員会」。今回は、この小委員会の議論を紹介することで、あらためて現在の電力・ガス事業が置かれている状況の一端を示すことにする。
幅広い政策課題を扱う「電力・ガス基本政策小委員会」
2020年6月11日、第25回「電力・ガス基本政策小委員会」がWeb会議のかたちで開催された。
電力・ガス基本政策小委員会は、2016年に総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会の下に設置された小委員会である。この以前に存在した「電力基本政策小委員会」と「ガスシステム改革小委員会」が統合され、電力・ガス分野の幅広い政策課題について、安全性、安定供給、経済効率性、環境適合というエネルギー政策の基本的視点から総合的な検討を進めることを目的としている。
この小委員会では、インバランス制度変更のような新たな制度に関する検討をおこなうほか、例えば、電力小売自由化の進捗状況などの固定テーマについても定期報告がなされる場となっている。先日の記事「確率的手法で、再エネの供給力評価がどう変わる? 2020年度夏季の電力需給検証報告書について」で紹介した夏・冬の電力需給検証報告書も、この小委員会で定期報告されている。
電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について
電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について、第25回小委員会で報告された代表的な数値・グラフを取り上げたい。
(以下、出所はすべて本小委員会の事務局である資源エネルギー庁である)
電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について、 2020年6月11日 資源エネルギー庁 資料より2016年4月の電力小売全面自由化以降である約4年間というスパンで捉えると、着実に新電力のシェアは増加していることが分かる。が、その内訳をよく見ると、2016年以前から自由化されていた特別高圧は、この4年間ほとんど横這いに留まっている。
特別高圧の需要家には産業部門が多く、一般的に負荷率が高いことが特徴である(1日の中でピーク需要と最小需要の差が小さく、最大需要近辺で平坦な需要曲線を描いている)。いわゆるベースロード電源を効率的に充てることができるため、結果として低料金で供給されている。
新電力の多くはベースロード電源を保有していないため、この分野において旧一般電気事業者(以下、旧一電と呼ぶ)と伍していくことは困難であることが、実際のシェアとして表れている。「ベースロード市場」はこの競争環境改善のための一手段であるが、このような新制度が本当に実効性を持たない限り、新電力が特別高圧分野でシェアを増加させることは当面無いだろうと考えられる。
次に高圧であるが、これも2018年以降は、ほぼ横這い状態となっている。この内訳をエリア別にみると、新電力のシェアがピーク時より大きく下がっているエリア(関西や北海道)と、シェア増加のエリアが打ち消しあうかたちで全体として横這いとなっていることが分かる。いわゆる「取り戻し営業」のように、熾烈な価格競争が行われていることが推察される。
電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について、 2020年6月11日 資源エネルギー庁 資料よりそうした中、2016年に全面自由化された家庭等の低圧は、ゼロから順調にシェアを伸ばしてきたが、ここ半年程度は横這いとなっているように見える。高圧等と異なり、低圧では新電力から旧一電に戻る動きはまだ僅かであるため、純粋に、旧一電から新電力への切り替えそのものが停滞し始めたように見える。小委員会ではこの横這いの理由は説明されていないが、自由化開始後の「最初に」切り替える需要家層は一巡した可能性が考えられる。
なお小委会では、全面自由化後の電力卸取引市場(JEPX)の状況についても毎回報告がなされている。最近では、JEPX取引量が総電力需要量に占める比率は3割~4割に達しており、一定の流動性が確保されていると考えられる。しかしながらこの取引量の大半はスポット市場での取引であり、時間前市場や先渡市場などでの取引量はまだわずかである。
電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について、 2020年6月11日 資源エネルギー庁 資料より 出所:JEPX、電力取引報ガス小売自由化の進捗に関しては、2020年2月時点で新規参加者のシェアは家庭用で10.1%、商業用で5.7%、工業用で20.1%、合計で14.7%となっている。家庭用では近畿が15.0%、中部・北陸で12.2%と、新規参加者のシェアが伸びている。
災害等緊急時における電力データの活用について
6月5日に成立した改正電気事業法*では、災害復旧や事前の備えに電力データを活用するため、経済産業大臣から一般送配電事業者(以下、一送と呼ぶ)に対して、地方公共団体や自衛隊等の関係行政機関への個人情報を含む電力データの提供を求める制度が整備された。
一送が関係行政機関に提供する情報の例は以下のようなものである。
- ① 通信情報(需要家の氏名や住所等の個人情報を含む)
(※)スマートメーターの応答情報から通電または停電と推定される情報 - ② 停電エリア情報(配電線地図など)
- ③ 復旧見通しに関する情報(復旧計画など)
- ④ その他被害状況の確認や停電の早期復旧等の目的のために必要な情報
一部の電力データには個人情報を含むため、その適切な取扱いが不可欠である。このため、改正電事法に基づき、「必要な情報の求めに関する考え方」が作成された。
情報提供の求めは、大きく「包括要請」、「個別要請」に分けられる。「包括要請」には配電線地図などが含まれ、改正法の施行後、速やかに、経済産業大臣が一送に対して要請する。
「個別要請」には上記の通信情報などが含まれ、災害等の発生の状況に照らし、必要に応じて経済産業大臣が一送に対して要請する。一送は速やかに、その求めに応じなければならないとされている。
台風等の今夏の災害にも備える観点から、パブリックコメント(意見募集)**後に速やかに公表される予定である。
- * 改正電気事業法のポイントについてはこちらの記事「改正電気事業法のポイント」を参照
- ** パブコメ 電気事業法第34条第1項の規定に基づく必要な情報の提供の求めに関する考え方(案)
電力分野のサイバーセキュリティ
電力小売全面自由化以降、非常に多くの小売電気事業者や分散型電源、それを束ねるアグリゲーターなど新しいタイプの事業者が電力業界に参入している。
資源エネルギー庁は、包括的なサイバーセキュリティ対策を検討する観点から、昨年(2019年)12月に、発電事業者、小売電気事業者及びエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(ERAB)に参画している事業者(ERAB事業者)の計981者に対しアンケート調査を実施した。
この調査結果そのものは非公開であるが、組織的対策・技術的対策の実態については事業者に対してフィードバックされ、事業者自身によるセキュリティ対策の向上に役立たされることとなる。あわせて、事業者向けの勉強会も開催される予定である。
現在、接続最大電力1万kW以上の発電設備については、省令により、一定のサイバーセキュリティの確保が規定されている。再エネ等の小規模発電設備が増加していることから、電力系統に接続する小規模発電設備にも、サイバーセキュリティ対策が求められることとなった。
系統連系に係るサイバーセキュリティ対策の基本的な考え方としては、下記のようにまとめられた。
このように、双方向からの対策が必要とされた。
今後、一送の策定する「系統連系技術要件」(託送供給等約款別冊)が改訂され、周知期間にも配慮した上で、2020年10月から実施される予定である。
「でんき予報」の改修
一送の公表する「でんき予報」は、今年度からすべてのエリアにおいて、①最小予備率時刻の需給見通し、②太陽光の発電実績、が公表されている。これらはあくまで「エリア」単位、各一送単位での情報である。
電力需給に関連する事項について 2020年6月11日 資源エネルギー庁 資料7より今後は、調整力の広域的運用が進むことから、広域的な「ブロック」単位(一定のエリアをまとめたもの)での電力使用率も追加表示していく予定である。
また、現在のでんき予報は1時間単位での表示となっている。電力の取引や計画提出においては30分単位での計算・表示が一般的であることから、今後はでんき予報も30分単位での表示とする方向性が示された。
災害時インバランス料金制度の変更
以前の記事「新インバランス料金制度、2020年度から災害時には前倒しで適用されることに」において、災害時に限り先行して、2020年7月からインバランス料金算定方法が変更されることをお伝えした。
省令改正に関するパブリックコメントが、2020年4月9日から5月8日までおこなわれたが、基本的には原案どおり改正されることとなった。 先の記事でも述べたとおり、この変更は事業者のみならず、一般の需要家(消費者)にも広く影響を与えることから、資源エネルギー庁は需要家への周知に努めることとしている。
第25回小委会では、「需要家に向けた周知用資料(案)」が公開された。エネ庁は、このパンフレット(?)を用いて、消費者団体に向けた説明会を実施する予定である。
しかしながら、このような複雑な制度を、一般の消費者がこのパンフレットを読んだだけで、一度説明を聞いただけで、理解することは本当に可能だろうか?
実際には、消費者と直接対面するのはあくまで小売電気事業者である。小売電気事業者が、インバランス制度変更を踏まえた料金改定を行わないのならば当面の問題は無いのかもしれないが、料金改定を行う予定の小売電気事業者は、その料金改定の意味・背景を丁寧に、しっかり消費者に説明する必要がある。
これは一事業者だけの努力では、困難であることが予想されるため、国からも一層の周知活動を行うことが期待される。
「インバランス料金制度だけ、なぜ特別扱いするのか?」という見方もあろうが、筆者としては、本来は、消費者に影響を及ぼす全ての制度変更は、国はマスメディア等を通じて、丁寧に説明すべきだと考えている。消費者は受け身的にただ料金を支払う存在ではなく、制度の目的・意味をしっかり理解したうえで、自らが望む新たな制度像を主体的に作り上げていくべき存在でありたい、と考えている。
(Text:梅田あおば)
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