再生可能エネルギーの拡大を通じて温室効果ガスを削減し、脱炭素化を推進していくには、電気だけではなく、熱と交通の分野での取り組みが大きなウエイトを占めてくる。そのためには、断熱+バイオマスや、電気自動車への転換が必要になってくる。それらを支えるのが、「あふれるほどの」再生可能エネルギーだという。日本再生可能エネルギー総合研究所の北村和也氏の提言を紹介する。
今回の連続コラムは、一言でまとめると、『あふれる再生エネによって創り上げられる理想の地域社会』を想像することである。
理想的な地域といえば、2015年の国連総会で決まったSDGs(持続可能な開発目標)に思い至る。これは2030年までに達成すべき国際目標であるが、日本でも政府だけでなく多くの企業や自治体が賛同し取り組みを進めている。
重要なポイントは「誰一人取り残さないこと」が掲げられていることである。17のゴールの達成は“誰もが住みよい理想の地域”の実現に通じる。
例えば、ゴール1と2の「貧困や飢餓をなくすこと」は、日本ではぴんと来ない目標に見える人がいるかもしれない。しかし、誰一人取り残さないという条件を付けた瞬間に、残念ながら、十分この国にも当てはまる目標となる。私のコラムのテーマではゴール7(エネルギー)やゴール13(気候変動)が中心になるが、最終的な目的は理想の地域でありそのためにSDGsと同じ道筋をたどることに変わりはない。あふれる再生エネは、理想のSDGs実現の地域づくりに通じるツールでもある。
SDGsの17の目標
前置きが長くなったが、地域エネルギーの未来の姿に戻ろう。
目指す世界は、熱や交通エネルギーも再生エネに替えていき、電気を含めて最終エネルギー全てを地域内で生み出し使うというものである。
よく知られているように、最終的に使用されるエネルギーの形のうち、電気として使われる割合はそれほど多くない。日本ではおよそ4分の1にしかならない。圧倒的に大きいのが熱で、平均で4割を超え、寒い地方では5割以上も珍しくない。また、交通で消費されるエネルギーは全体の3分の1程度とされ、自動車のガソリンが最もポピュラーであり量も多い。
前回のコラムで書いたように、熱と交通の再生エネ化は、再生エネ先進国のドイツでもまだまだこれからで、道半ばどころか始まったばかりといってもよい。それでも日本から見ると参考になるところがたくさんある。
熱の地産地消を目指すときの絶対的な前提条件は、「断熱」にある。これは電力での省エネが最重要なのと同じである。日本の家屋などの建築物は、熱(冷熱も含む)の逃げ方が半端なくひどい。せっかく作り出した熱エネルギーの大半を捨てているといっても言い過ぎではない。ドイツでは、二重、三重のガラス窓は当たり前で窓枠の多くが木製である。一方、熱の通り道=アルミサッシが未だに圧倒的な日本はここから手を付けなくては先が見えてこない。ただ、欧州でも古い建物は断熱性が低く、ドイツでは建物の内外に断熱材を足す地道な作業が続けられている。
面倒なプロセスと思われがちだが、日本でも断熱が進むと、必要な熱エネルギー量を半分以下にすることも難しくない。
現在、最終的に使う熱は、家庭ではエアコンやこたつ(電気)、灯油、ガスなどのストーブで、工場や大きな建物、農業の温室などで使うボイラーは重油のものが多いと考えられる。家庭では、直接空気を温める一方で、大型の施設では欧米と似ていて、温水を回すケースもみられる。断熱に続いて、これらの熱の作り方を再生エネシフトすることが必須となる。
冬の日本家屋は断熱がカギになる
熱を再生エネに転換する時に日本で欠けているのが、家庭内の熱循環システムである。欧州の家屋では、最初から温水を家の中に回すシステムを持ち、暖房などに使っていることが多い。ただし、温水を重油などのボイラーで作っていて、再生エネとは別物であった。ところが、重油ボイラーを木質バイオマスのボイラーに替えてしまえば、再生エネ転換ができる。
もちろん、それぞれの家庭がひとつずつバイオマスボイラーを持つのは非効率なので、地域などでまとめて一定の大きさのボイラーを設置し、地域熱供給システムに移行するケースが増えてきている。大きめの木質バイオマスボイラーから、道路に埋めたパイプを通じて温水を家庭まで送り、もともと家の中にある温水循環につなげばよい。
道路下の温水供給パイプがインフラとして最初から設置されていると勘違いする人が多いが、たいていのラインは新設である。ここでの手間は、日本とあまり変わらない。
再生エネによる熱供給大国のデンマークでは、コペンハーゲン市内などの地域熱供給システムのカバー比率が100%に迫る。最初は天然ガスなどの化石燃料ボイラーを設置し、順次ボイラーを木質バイオマス仕様に替えていくことで現在の数字を達成している。
家庭内の熱供給システムにハンデのある日本では、ハードルは一つ高くなるが、特に新しい技術が必要なわけではない。やる気と的確な目標を持ち実行することで必ずそこまで届くことを忘れてはならない。
熱の特性として貯蔵と輸送が難しいことも、再生エネ熱の普及の障害と思われている。しかし、先に書いたデンマークなどでは大量の熱貯蔵が実現しており、驚くような技術革新が必要という考えはすでに過去のものである。
交通エネルギーの再生エネ化の基本ツールは、EV(電気自動車)とFCV(燃料電池自動車)で決まりかもしれない。EVの普及はVOLVOやVW(フォルクスワーゲン)など自動車メーカーの生産シフトや中国などの規制ルールの変更で思いのほかスピードが上がる可能性がある。このように脱炭素化にはガソリン車からの転換が必須であるが、これだけでは理想の地域の達成には結びつかない。
地域における交通課題が、高齢化による交通弱者など交通システム全体の問題だからに他ならない。自動運転やシェアリングが問題解決のカギになるが、これらの実現は地方に限らず大都市での住みやすさにも結びつくことになる。
面白いのは、自動車の機能を走る道具に限定しない動きが急速に拡大していることである。車の側は、いわゆるコネクテッドカーとして、すでにITの塊として各種の情報を満載している。例えば、EVをエネルギーの需給管理や調整に結び付けるVPP実証が各地で進んでいる。EVに搭載された蓄電池は、単体で売られる蓄電池よりコストパフォーマンスが高い。V to H(家と車の蓄電池を介した電気のやり取り)は、コストの合う柔軟性として再生エネ拡大に寄与する可能性が十分ある。
前回も触れたが、理想の地域では再生エネ電力が電気の需要を十分賄うまで膨らんでいるはずである。その時には、発電施設は現状の何倍もの規模になっている。例として挙げた2050年のドイツでは、数十GWの電力需要に対して、400GWの再生エネ発電施設を想定している。
消費しきれずこぼれ出る電力は、セクターカップリング(セクター間のエネルギー融通)によって、熱セクターや交通セクターでも使用されることになる。熱では、再生エネから直接つくられる熱とコジェネとの併用になる。それぞれ、木質バイオマスやバイオガス由来、廃熱系があり、最もコストの安い太陽熱の温水利用は必ず拡大する。熱貯蔵は基本的に温水で行われる。インフラ整備に時間はかかるが、地域熱供給が多くの地方で実現する可能性が十分ある。
再生エネの電気分解で作られる水素は大量貯蔵も可能である。燃料電池による電気への戻しのセクターカップリングや熱利用はより身近になる。FCVによる交通利用は、地域の路線バスや工場内の特殊車両などから始まって、EV普及からやや遅れて広まるであろう。
地域の木質バイオマスなど再生エネ資源を使った熱利用とあふれる再生エネ電気をベースにしたセクターカップリングによる熱と交通利用で、地域内のすべての最終エネルギーを再生エネに替えることは決して不可能ではない。
次回も連続コラムを、ひとつ続ける。
これらの想像を実現し、ブラッシュアップしながらさらに未来に続ける地域のシステムの概要を付け加える。また、それが全体としてどういうメリットを地域にもたらすかもまとめることにしている。
連載:新型コロナのエネルギーへの影響を概観してみた
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