セクターカップリング:電力の余剰を熱、交通で使う「柔軟性」の考え方 | EnergyShift

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セクターカップリング:電力の余剰を熱、交通で使う「柔軟性」の考え方

セクターカップリング:電力の余剰を熱、交通で使う「柔軟性」の考え方

2020年10月22日

新型コロナ後の地域を想像してみた(後編その2)

コロナ危機はまだ去ったわけではない。今回のパンデミックは、社会のさまざまな課題を浮き彫りにした。私たちにとっては、これからの社会の姿を改めて考える機会でもある。これから私たちは、どのような社会を目指すのか。それにエネルギーはどのように関わるのだろう。日本再生可能エネルギー総合研究所の北村和也氏が提言する。

再エネ電力と熱、交通をいかにつなげるか

新型コロナのインパクトがあまりに強く、本コラムのテーマには「コロナ後」と入ってはいるが、前から書いているように、エネルギーの側面から見た理想の地域像を描いているつもりである。

前回のコラムでは、電力に加え、熱、交通エネルギーも地域の再生エネでカバーすることまで想像を広げてみた。熱、交通はまだまだこれからではあるが、先のことだけに夢がある分楽しいともいえる。ただ、一足飛びに行き過ぎて、電力をどう100%に持っていくかが弱いことに気づいた。

実は、この再生エネ電力100%の展開と再生エネの熱、交通利用とは、深くつながっている。今回のコラムは、この電力と熱・交通のつながりに焦点を置く。
(ただしはじめに断っておきますが、今、話題の「容量市場」にやや脱線するので悪しからず)

再エネ電力100%を目指すドイツの考え方

ドイツの再生エネ電力の目標は、(一応)2050年に80%となっている。一方で、再生エネ電力100%を目指す調査研究がすでに盛んに行われ、真剣に議論されている。100%は夢物語ではなく、現実のものとして考えられているのである。

筆者がこれまで何度か訪れているドイツで数十以上のシュタットヴェルケを支援するビジネスを行うある企業(以降A社としておく)もその研究を進めていた。その話をしておきたい。

再生エネ電力率拡大の課題は、やはりVRE(太陽光+風力発電)が全く発電しない時間のことだった。「やはり」と書いたのは、再生エネ懐疑派がいつも『再生エネは、お日様まかせ風まかせ』と揶揄(やゆ)し、実際に発電しない時間は想定されているからである。これについて、ここでゼロから議論を起こしなおすつもりはないが、80%や100%という高い再生エネ電力率を目指すときには、必ず通らなければならない点であるのは間違いない。

「再エネは、太陽が出ず、風も吹かない時はどうするの?」

当たり前だが、ドイツでも同時に太陽が照らず風も吹かないことがある。その想定値は、A社では統計的に年間およそ1,000時間程度としていた。データは少し古いので、現状とは少し違うかもしれない。

さて、これをどう解決するのか、簡単に考え方などを示しておく。

原則は、「柔軟性」の利用である。すぐ思いつくのは蓄電システムである。一般的な揚水発電や各種の蓄電池から始まって巨大な水素貯蔵まで、コストも様々である。もちろん、DR(デマンドリスポンス)のように需要側のコントロールも効果は小さくない。高い電気を使わないことで、その時の需要が減ることが考えられる。

水素はもちろんだが、蓄電池も含めて、柔軟性の投資は採算が合わないと反論する人がいるであろうが、発電が厳しい時は市場の電力価格も急上昇するので、それに合わせたコストで考えるべきである。

結局、不足分に対する柔軟性の導入は、広い意味でマーケットが解決するとA社は締めくくっていた。必要性に合わせてコストは変動するということである。

また、忘れてはいけないのが、VRE(太陽光+風力発電)以外の再生エネ発電である。ドイツでは、バイオガスを中心としたバイオマス発電が全体の10%近く(2020年上半期)ある。ドイツで再生エネによる調整力といえば、バイオガス発電になる。日本では、バイオマスはまだ少ないが、その分水力発電が力を持っている。

もちろん、ドイツでもこのVREが発電しない時間に対する結論はまだ出ていない。ただ、忘れてはいけないのは、これは年間1,000時間の対処法の話である。

日本で進む「容量市場」導入の狭い議論

一方で、わずか再生エネ電源率2割程度なのに大騒ぎするのが日本である。

特に、容量市場については、限られた前提しか示さず制度設計が行われ、ある意味で予想通りの異常に高い落札価格という入札結果が出た。

細かい話は別の機会に譲るが、「需要が最大になったときにも十分にまかなえるような容量をあらかじめ確保」(エネ庁WEBサイトより)するためとして、「電源の容量」を募集した結果である。

その枠は驚異の180GWだった。現存する発電施設の容量を再生エネも含めて計算しても250GW程度である。容量市場で、その7割以上をほぼ化石燃料と原子力による発電施設で準備するという。ここには、柔軟性の思想は見えてこない

再生エネ導入を促進するという目的の設定は決して間違いではない。しかし、入札対象分の容量など各種の前提条件や入札そのもののやり方など正直言って議論が圧倒的に不足している。

手続きを進めているうちに、設備利用率の低下に困った発電設備の保有者に加え、減価償却が終わったり終わろうとしていたりする者まで「濡れ手に粟(反対論の中によく登場するワード)」の利益を求めて同じ列に加わり、すでに当初の目的が消えかかっているようにも見える。昨年(2019年)行われた電力広域的運営推進機関の容量市場説明会で見た、発電設備保有者の異常な熱気が、今、強く思い起こされる。

ドイツと日本は何が違うのか

ここで、再生エネ電力比率が高まったドイツの姿を想像し、日本の考え方と比べてみたい。 ドイツ在住のエネルギーのエキスパート西村健佑氏のSNSからの一部引用で、ドイツの著名な研究組織フラウンホーファー研究機構のデータでもあるが、再生エネ電源が80%となったドイツを次のようなものと想定している。

年間の余剰電力の合計は80TWhとなる。一方、不足が3.3TWh、瞬間的な不足容量が20GW程度である。その頃はドイツのピーク需要も減り60~70GWの見通しとされる。逆に再生エネ施設は400GWの容量になるが、再生エネの容量分全部のバックアップは必要とされないとしている。

再生エネ施設400GWという予測容量にびっくりする人もいるであろう。日本では導入されたVREの合計が現状でまだ60GW未満程度であり、それでも各地で出力抑制がかかり「これ以上入らない」コールが起きているのと落差が激しい。

電力の余剰を熱、交通で使うという「柔軟性」、セクターカップリング

400GWの容量なので年間の余剰が80TWhにもなるのは当然であろうが、重要なことは、それをどうするかにある。熱や交通に使うというのが、西村氏も書いているように、柔軟性を保ちながら余剰を吸収する良い方法である。

近年エネルギーの世界で当たり前に使われるようになった用語のひとつに、「セクターカップリング」がある。エネルギーを別のセクターに変化させて利用することである。最終的なエネルギーは、電気だけでなく熱や交通燃料という形もあり、この一つ一つがセクターである。この3つのセクター間で無駄なくエネルギーを融通することをこの言葉は示している。

例えば、太陽光発電の電気が余った時、蓄電池ではなく、温水という熱に変えて使ったり貯蔵したりすることが、「電気⇒熱」のカップリングである。電熱線で水を沸かすという単純なものやヒートポンプを使った方法もある。通常ヒートポンプは高すぎると思われるが、デンマークのある工場で見たのは、風力発電の余剰電力を使うケースだった。

一方、「電気⇒交通」は、電気自動車(EV)がすぐ思い浮かぶが、水素に変えて燃料電池自動車(FCV)という手もある。

セクターカップリングの図解(出典;AGORA ENERGIEWENDE)

上図は、ベルリンにあるドイツで有名な再生エネに関する研究所の出典である。真ん中の下部に時間の入ったグラフが見て取れる。これは、それぞれセクターの需要(図中の「Demand」)と供給(同様に「Supply」)をコントロールすることを示している。

ポイントは、コントロールにあたる「デジタル化」の重要性であり、ドイツのエネルギーシフト(Energiewende)の実現にデジタル化は必須のアイテムとされている。

簡単ではない、熱・交通の再エネ化

熱と交通にたどり着くまで、だいぶん回りくどい説明で申し訳なく思う。ちょうど容量市場の議論が一部で白熱化してきたこともあり、再生エネ電力100%への課題と重なったので、悪くない寄り道だと考えた。

熱や交通エネルギーの再生エネ化については、実は、再生エネ先進国と呼ばれるドイツもかなり苦労をしている。

ドイツのセクター別の再生エネ化の割合(1990-2019)出典:Agentur für Erneuerbare Energien

上図は、ドイツの部門別の再生エネ化の割合を年毎に追ったグラフである。

再生エネ電力の割合は急速に伸びて4割を超えている一方で、熱(Warme und Kalte)は15%弱、交通(verkehr)では5%を少し超えた程度である。

熱や交通部門はこの10年間で見てもあまり変化がない。コストや技術の問題もまだ多く、両部門の再生エネ化はこれからと言ってよい。ただし、セクターカップリングとデジタル化の進行で余剰電力をうまく使いコストダウンさせる良い展開が期待されている。

電気も熱も交通もすべて100%再生エネという理想の世界の実現は、日本でももちろん簡単ではない。今回示した余剰電力の利用は、柔軟性の確保と合わせた一石二鳥の方法とも言えよう。いずれにせよ、人口比で再生エネ資源を潤沢に使える地方では、決して夢に終わらないと締めくくりたい。

次回は、実際の熱の使い方や交通システムの在り方を少し具体的に示す。また、理想の地域に近づけるための仕組みも考えてみたい。シリーズの最終回と考えている。

連載:新型コロナのエネルギーへの影響を概観してみた

北村和也
北村和也

日本再生可能エネルギー総合研究所 代表、株式会社日本再生エネリンク 代表取締役。 1979年、民間放送テレビキー局勤務。ニュース、報道でエネルギー、環境関連番組など多数制作。番組「環境パノラマ図鑑」で科学技術映像祭科学技術長官賞など受賞。1999年にドイツへ留学。環境工学を学ぶ。2001年建設会社入社。環境・再生可能エネルギー事業、海外事業、PFI事業などを行う。2009年、 再生エネ技術保有ベンチャー会社にて木質バイオマスエネルギー事業に携わる。 2011年より日本再生可能エネルギー総合研究所代表。2013年より株式会社日本再生エネリンク代表取締役。2019年4月より地域活性エネルギーリンク協議会、代表理事。 現在の主な活動は、再生エネの普及のための情報の収集と発信(特にドイツを中心とした欧州情報)。再生エネ、地域の活性化の講演、執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作。再生エネ関係の民間企業へのコンサルティング、自治体のアドバイザー。地域エネルギー会社(地域新電力、自治体新電力含む)の立ち上げ、事業支援。

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